日本の縦社会が消える!?「ホラクラシー」を8年実践する企業に聞く、上司がいない組織で結果が出せる人と出せない人の差

欧米の一部企業で普及しつつある、上司も部下もない新しい組織体系「ホラクラシー」。組織の柔軟性を担保する目的や従業員の自主性を引き出す意味で、日本企業も注目し始めているというが、もし本当に普及したら、社員の働き方はどう変わるのか?

「ホラクラシー」で組織運営を行ってきたダイヤモンドメディアの面々
「ホラクラシー」で組織運営を行ってきたダイヤモンドメディアの面々

上司がいない、肩書きがない。そんな組織を想像したことがあるだろうか。日常的に、職場には上司がいて、役職があって、部長、係長、主任、メンバー…と見事なまでのピラミッド構造=ヒエラルキーで形成される日本の組織体系を考えると、このような組織はもはや想像がつかないのではないだろうか。

しかし、今アメリカの一部企業の間で、社員全員が役職を持たず、上司・部下の関係が存在しない「ホラクラシー」という組織が話題を集めている。

この組織は靴のオンラインショップを展開し、2009年当時あのアマゾンから史上最大の買収額で買収された、ザッポス・ドットコムが取り入れていることで、世界中からの注目を集めることとなった。

この「ホラクラシー」という概念は日本でも少しずつ広がっており、大手企業や注目ベンチャーのトップから「今後、多様化していく働き方を受け入れるために必要になる組織体系である」という声が上がっているほどだ。

では、実際、「ホラクラシー」という組織の実態はいかなるものなのか。上司がいない組織は本当に機能するのだろうか。そこで今回、会社設立当初より、組織に「ホラクラシー」の概念を取り入れ経営を続けている、ダイヤモンドメディアの代表取締役・武井浩三氏(以下同)とメンバーに会社の組織について話を聞いた。

今回の取材を通して見えてきたものは、ホラクラシーという組織の中で結果が出せる人と出せない人の差。それは、働き方が多様化している日本社会の中で、フィールドが変わっても活躍できる人物像だと言えそうだ。

<ホラクラシーの組織の中で結果が出せる人に当てはまる3つの特徴>
【1】仕事にかかった時間やリソースを数字で管理し、次に活かすことができる
【2】自分がやりたいことに軸があり、実現のため自ら動くことができる
【3】「自分がやりたいこととは?」「自分の強みとは?」に答えられる

失敗から学んだ「メンバーが幸せになれる」組織

不動産業界向けにシステムの導入やWebサイト制作など、Webソリューションを提案しているダイヤモンドメディア。2008年の設立以来8年間、ホラクラシーという組織体系で経営している日本でも希有な存在である。ただ、この組織には武井氏の過去の経験から得た、経営に対するある思いがあった。

武井氏が「ホラクラシー」導入を決めたきっかけは、過去の失敗体験にあったという
武井氏が「ホラクラシー」導入を決めたきっかけは、過去の失敗体験にあったという

「ダイヤモンドメディアを立ち上げる前、自分で経営していた企業があったんですが、この企業が事業不振になり、会社を手放すことになりました。友人と会社を立ち上げたのですが、このことにより友人の人生をめちゃくちゃにしてしまった・・・。そこから“会社って何だろう”と経営や仕事について、より深く考えるようになりました。海外の経営方法や仕事のやり方について、あらゆる本を読み、自分は会社経営や仕事において何をすべきかを考えました」(武井氏)

こうして“経営”を学ぶ中で武井氏が最も感銘を受けたのが、ブラジルにあるセムコの経営方針。従業員約3000人規模のコングロマリット企業で、ブラジルで学生が就職したい企業No.1にもなったこの会社の経営手法こそ、今のダイヤモンドメディアの組織運営の基盤となっている。

セムコの経営方針から武井氏が導き出した会社の“あるべき姿”は、「メンバー全員が幸せである」こと。

そのためには、ステークホルダー全体の情報格差をなくし、メンバー全員が会社のことを全て知った上で判断を下せることが何よりも重要だと気付いた。

この理念を形にするためにまず行ったことは、「雇う・雇われる」という組織構造をなくし、全てをオープンにすること。武井氏はホラクラシーという概念が注目され始める前からこのようなフラットな組織の重要性を感じていた。

「“雇う”という概念を排除するとメンバーは直接経営に参加できるようになる。ですから、弊社では役員を選挙で決めています。自薦でも他薦でも、経営を任せたい、任してもらいたい、という意思を尊重するようにしています。そして、給料の計算式も全てオープン。自己申告により給与を決めており、ほかのメンバーの給与も全て分かるようになっています。つまり、理想の役職や給与を得るためには、“意思と結果”が重要で、私や役員、そしてメンバー全員を納得させる必要があります。また、起業や副業も自由。むしろ、推奨しています」(武井氏)

現在も企業間留学として、他社で仕事をしているメンバーもいるとのこと。こんなにも格差がない自由な組織は、実際どのように運営されているのだろうか。

トップダウンでもボトムアップでもない、循環させるという情報共有

「上司が部下に指示を与える」という仕事の動かし方は、古来からあるものだが……
「上司が部下に指示を与える」という仕事の動かし方は、古来からあるものだが……

同社では、命令や指示はしてはいけない決まりがある。それはまさに、現在日本の多くの企業がそうであるように、トップダウンの組織になってしまうからだ。
だからと言って、ボトムアップの組織であるかと言うとそうではない。

「弊社の組織の決定権は情報を循環させることで成り立っています。決してボトムアップではなく、メンバー全員がある判断に対し、いいか、悪いかを決める。そして、その判断を再度メンバー全員で共有し、意見や意思を擦り合わせ、物事を決定していきます」

しかし、なんでもメンバーの意見を採用し場に委ねてしまうと、会社としての方向性があいまいになる。それを防ぐために、会社としての指針はきちんと示さないといけない。

業界の動向を軸に、業界内でどれだけのシェアを得て、売り上げを上げられるか、その売り上げをどうメンバーで分担するか。また、メンバーのリソースをどのくらい使って、どのくらいの価値を生み出していくか。ホラクラシーという組織が成立するためには、徹底的なデータ収集と活用を行う「データマネジメントが必要」だと武井氏は語る。

そんな同社では、プロジェクトに掛かった時間を細かく記録・管理し、全ての個人スケジュールを全メンバーで共有している。

「弊社ではリモートで仕事をしているメンバーもいますが、その仕事のデータ(その仕事にかかる時間や必要な人員など)がないとリモートワークは難しいですよね。また、何か新しいプロジェクトを始める場合、ちょっとした意見の食い違いが起こった時も、全てがデータで可視化されていれば、感情でぶつかることがなくなります。仕事の適正値が分かるので、プロジェクトを受ける時もこれは受けるべきか受けないか、の判断ができるようになります」

メンバーにとって自由な組織を作るためには、データに基づくインフラの整備が必要だということが武井氏の言葉から分かる。「ホラクラシー」という組織が、リモートワークや副業、独立、企業間留学などの働き方を許容できるのは、オペレーションしやすい組織だからである。能動的に、【1】仕事にかかった時間やリソースを数字で管理し、次に活かすことができる人物であれば、自分が望む“自由”な働き方を実現できると言える。

自由過ぎて辞めてしまう人も。「自由」=「何でもできる」は間違い

今回の取材を通して見えてきたホラクラシーという組織の全貌。では、実際に働くメンバーはこの組織の中でどのような働き方を実践しているのだろうか。

同社に中途入社し、管理部門で経理や総務を担う中根愛さんは「自分のやりたいことと会社のビジョンを重ね合わせて、やるべきことを考えることが大事だ」と語る。同社では、今やるべきことを具現化するため、月に1回、“長期目標シート”を記入し、各チームで話し合う時間を設けているという。

ダイヤモンドメディアの全メンバーが記入するという「長期目標シート」
ダイヤモンドメディアの全メンバーが記入するという「長期目標シート」

「長期目標シートでは、直近数年ではなく60歳までのライフプランを書きます。そのプランに、会社の方向性を重ね合わせ、自分がやりたいことと会社のビジョンを実現するために今身に付けないといけないことは何か、を考えていきます。そうすると自分に与えられた役割の中でやるべきことがはっきりしてきますし、それが自分の強みになっていくんです」(中根さん)

さらに、Webコンテンツ制作の事業統括を任っている関戸翔太氏も「自分のやりたいことをビジネスに変えられる場」と同社の社風について語っている。つまり、ホラクラシーという組織は、やりたいという思いをスキルや知識に変え、その強みを会社に還元していくことで成り立つ組織だと言える。

自分の思いを大事にできない人は周りを説得することはできない。「基本自己中でないと、この組織ではやっていけません」と同社取締役の岡村雅信氏が語る通り、自分の強みを武器に、自主的にやりたいことを追求していく姿勢がこの組織では何よりも求められている。

指示はない。命令もない。だからこそ、【2】自分がやりたいことに軸があり、実現のため自ら動くことができる人でないと、会社から取り残されてしまうということである。

「会社は学校でいいんだよ」 強みや個性を活かせる場

ホラクラシーの組織を知れば知るほど、厳しい環境だと考える人もいるかもしれない。しかし、同社のメンバー全員が口を揃えて言うのは、ホラクラシーという組織が「学校」そのもので、メンバーは「クラスメイト」であるという考え方だ。

学校生活を思い出してほしい。クラスの中には、リーダーシップをとって周りを引っ張る子がいる、リーダーを陰ながら支えるサブリーダー的な子がいる、強気な子、おとなしい子がいる。まさにホラクラシーはさまざまな個性が集まった集合体であり、それぞれの個性が活きる場所だ。

個性や自分を大事にしているがゆえに、腹落ちしていない、納得のいかないことはまず前には進まない。「なぜやるのか」これを周りに説得できないと、自分のやりたいことを実現することはできない。

だからこそ、同社では、日本におけるヒエラルキーの組織の中でよく耳にする「なんで俺が…」という声が聞こえてくるはずもなく、メンバー全員が自分の幸せを追求しながら、仕事ができる仕組みがあると言える。

【3】「自分がやりたいこととは?」「自分の強みとは?」に答えられる人は、周りを説得できる力を持っており、周りを引っ張る力がある。ホラクラシーの組織ではリーダーがいないため、それは必然的に提案者がリーダーシップをとって進めることになるが、今の日本の縦社会においても、リーダーシップはリーダーがとるべき、と捉えず、「自分がやる場合どう動くか」を考えることで、今後どんな組織に身を置いても仕事を動かせる“結果が出せる人”として、生き残っていける。

今日本の組織は少しずつではあるが、変化の一途を辿っている。

ホラクラシーという組織は、日本の縦社会、年功序列制が消えても求められる人材になるためのヒントを、一つ先の場所から指し示してくれている。


ホラクラシー型組織の作り方(ホラクラシーのメカニズム) from Kozo Takei

取材・文・撮影/小林由乃



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