ひと足先に選ぶ次世代のMVE : 池邉智洋
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| 1976年生まれの池邉智洋がコンピュータに本格的に取り組んだのは、大学時代のことである。京都大学工学部に入学後、教養課程でFORTRANやC言語の手ほどきを受けたのをきっかけに、プログラミングのアルバイトに精を出すようになる。 「メーリングリストなどで知り合った人から、『これをやってほしい』と頼まれ、プログラムを書いていました。学生にとっては、いいバイトでしたから」特別変わった学生時代を過ごしたわけではない。あまり学校には行かず、アルバイトやバンド活動に励む普通の学生である。ただ、Webへの興味の持ち方は他の学生と違っていたかもしれない。当時、『Windows95』の大ヒットを受けて、インターネットは一気に身近なものになっていた。根が飽きっぽく、すぐ新しいことをやってみたくなる池邉にとって、それは底なしのオモチャ箱だった。 「当時流行っていたのは、簡単な掲示板とかチャットです。それがどう動いているのか知りたくて、自分でも作ってみたくなったんです。プログラミングは、入門書やソースコードを読んで勉強しました」 次第にこの世界に深入りするようになり、大学には6年間在籍した。ひと足先に社会人になった友人から苦労話を聞かされていたこともあって、工学部の学生にありがちな「大手メーカーに就職してエンジニアになる」という道を歩む気はなくなっていた。 「プログラマなら自由に働けそう」。Webの世界を選んだのは、そんな理由からだ。加えて、独学で身につけた技術に、多少自信を持てるようにもなっていた。メーリングリストでエンジニアとやり取りしていると、そこで見かけるのは同世代の若者ばかり。「だったら、僕もエンジニアとしてやっていけるんじゃないか」。そう考えて、“大学6年生”のときに東京へ引っ越した。 池邉が上京したのは2001年1月。まずはWeb制作会社でプログラマの仕事を始め、半年後にはマネジャーに昇格する。しかし、直後に会社を辞めてしまう。求めていたのは技術的な力試しの場。それがなくなった以上、次の職場を探すのが自然だった。 −急増したアクセスを現場の工夫で乗り切る− そして01年10月、オン・ザ・エッヂに転職する。 「前々から、エンジニアが住みやすそうな会社だと思っていました。メーリングリストやカンファレンスなどで、よくオン・ザ・エッヂのエンジニアを見かけていたんです。技術レベルは高そうだし、おもしろいことができそうだなと」オン・ザ・エッヂはまさに躍進中だった。02年11月には当時日本最大の無料ISP事業者だったライブドアを買収して社名を変更し、さらに勢いを増していく。この買収の背景には、受託開発中心のビジネスに限界が見え始めていたこともあるようだ。 「労働集約型の作業で、単価も低下傾向。このままでは厳しいと思っていましたからね」そこで、旧ライブドアのブランドと数100万のユーザーIDを活かせるポータル事業への進出が決まった。このポータル開発を担当するマネジャーを引き受けたのが池邉である。「このIDを使ってすべてのコンテンツにログインできるようにしてくれ」といわれ、さっそくシステム開発に取り掛かる。コンテンツが急増することも考えて、低コストでスケーラブルなシステムを構築した。このポータルサイトが立ち上がったのは03年11月。同時に、ブログサービスの『livedoor Blog』も始まった。以前はISPの“オマケ”のような存在だったライブドアのポータルは、このとき実質的なスタートを切った。急成長のきっかけは、翌年の大阪近鉄バッファローズ（現オリックス・バッファローズ）買収騒動である。それまで1億に届かなかったサイトの月間ページビューは、半年足らずで4億に急増。池邉ら技術チームにとっては修羅場である。業界内で評価されていたライブドアの技術力の真価が、多数の一般ユーザーによって試された日々だった。 アクセス過多の状態が続き、対応に追われ数日間帰宅できないこともあったが、現場の工夫でサービスが止まる最悪の事態は避けられた。たとえば、限られたサーバ台数で根幹のサービスを維持するために、あえて枝葉のサービスを停止する。そんな判断を現場レベルでできるのが、ライブドアの強みだ。 「開発が分業になっていないことも乗り切れた理由だと思います。設計したエンジニアは設計だけでなく、コーディングや運用、構成変更や機能追加まで担当します。一番よくわかっている人がやるから、適切な対処ができるんです」 このバッファローズの騒動が終わってからも、池邉に立ち止まっているヒマはなかった。ニッポン放送株の取得、堀江貴文社長（当時）の衆議院選出馬、そしてライブドア事件。05年2月から1年足らずの間に、これだけのことがあった。世間の注目が集まるたびに急対応も増えたが、「大変だったという思いより、むしろ『いい経験してるな』という気持ちのほうが強かった」と振り返る。全力で臨んだ“力試し”の日々。池邉には満足感と業界内で一目置かれる評価が与えられた。 |
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