経営トップが語る  

「一流になれる人の条件」

苦境といわれた時期に米国アップルコンピュータに就任。その後、経営のトップとして手腕を発揮し、日本マクドナルドCEOへ異業種への転身が話題となった原田泳幸社長。若き日に「現場主義」とプロフェッショナリズムを徹底的に身につけた経験を持つ原田社長に次世代に求められるリーダーの資質についてお話を伺った。 《2006年2月号より抜粋》

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日本マクドナルド株式会社
代表取締役会長兼社長兼CEO
原田泳幸
1972年東海大学工学部通信工学科卒業後、日本NCRに入社。ヒューレット・パッカード社・シュルンベルジェグループを経て、90年アップルコンピュ ータジャパン入社。96年米国アップル社ワールドワイドコンシューママーケティング・SOHO担当副社長に就任、97年アップルコンピュータ代表取締役 社長兼米国アップルコンピュータ社副社長に就任。2004年3月に日本マクドナルドホ−ルディングスCEOに就任


「コンピュータに関係する開発をやりたくて日本NCRに入社したんですが、いま振り返っても私のビジネスの基礎はすべてこの時代に叩き込まれ、いまの自分を支えていると思います」

学生時代、ジャズのバンド活動とアルバイトに明け暮れた原田泳幸氏は、外資系コンピュータメーカーの日本NCRに入社後、いきなり強烈なカルチャーショックを受けることになる。その先制パンチは、入社式当日にいきなりやってきた。

「私は入社式に30分も遅刻しましてね、大慌てで会場に駆け付けて入口の扉を開いたら、ちょうど会長が2000人の新入社員を前にスピーチしているところだったんです」

式が終了後、人事部主催の新入社員オリエンテーションが開かれたとき、名前を呼ばれた。

「会社はあなたに仕事の対価として給料をお支払いします。その第1日目から遅刻をするとは、いったい何ごとですか」

これから始まる6カ月間の新人研修を前にして、原田氏が2000人の新入社員を代表して叱られた格好となった。

英語で毎日レポートを書かされ、来る日も来る日も徹底したSEの適性検査が繰り返される厳しい研修期間を終えて正式配属になると、150人くらいの開発部隊が机を並べていたプレハブ倉庫に放り込まれた。開発設計に要求される厳しい仕様、納期、コストに直面した原田氏は、全体朝礼のときに勇気を出して直言した。

「どうしてこんな理不尽な納期やコストで仕事をさせるんですか。技術屋の満足と誇りは最高の仕事をやり遂げることです。満足のいかない状況で大量の仕事を押しつけられても、仕事のモチベーションは上がりません」

すると、一喝された。

「君は何を言っているんですか。我々がやっているのは研究ではなく、開発というビジネスですよ。お客様の要望にお応えして、期待される価値をご提供することでビジネスは成立するんです」

この直言騒動を機に、原田氏はマクドナルドなど顧客のビジネス現場に派遣され、ビジネスの本質を徹底的に叩き込まれることになる。

ある時マクドナルドの店舗カウンターで接客していると、キーボードにコーラをこぼしてしまうスタッフがいた。こうしたケアレスミスが続くと、コーラの糖分がキーボードの操作を悪くして、仕事が円滑に進まなくなった。この現場体験をもとに、原田氏は耐水性の強いフラットタイプのキーボードを開発し、顧客満足を高めることに成功した。

「私はこの現場体験から、仕事の真実はつねに現場にあることを知ったのです。顧客の現場には、技術屋が設計図面に描くことができない現実があった」

この原体験が、原田氏に「現場主義」を植え付けた。

ある日、自分が設計したシステムが故障するクレームを受けて現場に入り、入念に調べると、すぐに原因は判明。夜間の改装工事中に工事スタッフが誤って通信ケーブルを切断してしまったことが、トラブルの原因だとわかった。

自分の設計ミスではないことを確認した原田氏が、現場の設備担当者に「ケーブルを切断しないでほしい」と申し込むと、こう言われた。

「何を言っているんですか。うちはあなたのシステムに合わせて仕事しているんじゃない。うちの商売に合わせるのが、あなたの仕事でしょ」

原田氏は間もなく、切断トラブルに見舞われても自動的に回復するシステムを開発。現場が原田氏に仕事を教え、鍛えた。

NCRの本社があるアメリカでは、プロフェッショナリズムの厳しさに度肝を抜かれた。日本でパワーサプライの電源装置を開発した原田氏がアメリカ工場に呼ばれ、アメリカ人技術者が設計したパワーサプライとのプレゼンが開催されたのである。

「本社のトップにプレゼンするために、1週間くらいかけて侃々諤々の技術論を展開するのですが、日本人もアメリカ人もお互い技術屋同士なので仕事を離れても気心が通じ、すぐに仲良くなれました。だがプレゼンで私の設計が正式採用された途端、そのアメリカ人技術者は会社を去ってしまったのです。日本人の私は、“もし自分の設計が採用されなかったらまた次の機会に頑張ろう”くらいの気持ちでしたので、自分の職を賭して仕事に立ち向かうアメリカ人のプロフェッショナリズムに触れて、プロの厳しさを思い知らされました」

20代はとにかく現場から貪欲に吸収する時期。すべての経験、すべての人から学べる人がリーダーに成長していく

原田氏自身が体験から学んだビジネス哲学は、日本マクドナルドの経営を指揮する立場となった今、毎週1回の頻度で実施される社内の〈ビジネスワークショップ〉を通じて、若い社員に伝えられている。

「これからの時代の経営は、管理型から共創型に持っていかないと成長できないと考えています。ですから、週1回、10人くらいの社員が集まるワーク ショップで私がよく話すことは、一人ひとりが自分に与えられたミッションを自覚して、会社全体でビジネスを共創していく大切さです。会社の戦略を理解しなくては、自分のミッションはわからない。チームワークで目標達成するためには、コミュニケーション能力が極めて重要になる。ビジネスというのは、それぞれの立場や役割によって異なった言語を使用します。社長には社長の言語があり、上司には上司の言語がある。またスタッフ、お客様、取引パートナーと いった人たちもみんな固有の言語で仕事をしているんです。そうした多言語の本質を理解して、べストなコミュニケーションを実現するのが、一流のビジネスリーダーの条件の1つ」  

そして、原田氏はこう話す。
「20代はとにかく現場から何でも貪欲に吸収する時期、30代は人生の方向を決める時期、40代は決めた人生目標を成し遂げる時期、そして50代は後継者を育てる時期です。なかでも一番大切な時期は、やはり20代ですね。いやな仕事でも好きな仕事でも、とにかく現場の第一線に飛び込んで体当たりで仕事に没頭し、すべての経験、そしてどんな人からでも学んで吸収できる人、そういう人がリーダーに成長していく」  

現場で徹底的に揉まれて学んだ経験を持たないと、ビジネスで最も大切な多言語コミュニケーション力が身に付かず、現場だけに存在するビジネスの真実が理解できないので、自分自身を飛躍させる“成長因子”を獲得することができないのである。  

人生には、投資する人生と消費する人生があるというのが、原田氏の持論だ。

「進むべき道を悩んでいる人は、いま自分がやっている仕事が将来への投資になっているのか、それとも単なる時間の消費に過ぎないのかを点検することで、将来設計が見えてくる。大切なことは自分が何をしたいのか、何ができるのかを考えることです。よく就職の面接時に給料や役職、ポジションのことを重要視する人がいますが、私はそうした人は一切採用しない。給料や役職を気にする以前に、まず会社の経営戦略を理解して、会社にどんな貢献ができるのかを考えるべきでしょう。地位やカネは自分が達成した結果として、手にするものですから」  

若き日、現場主義とプロフェッショナリズムを徹底的に身につけたビジネスリーダーは、明解に言い切った。

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