
世の中の「働き方改革」ブームをよそに、残業時間短縮なんて夢物語としか思えない業界・企業で働く営業マンたちも確実に存在する。勤め先のビジネスモデルや風土を根本から変えるため、自ら手を挙げ、働き方改革の推進役となる!……なんてことをやってたら、ますます仕事が増えてしまう。それならまずは、自分だけで完結できて、今すぐ始められる“ひとり働き方改革”から始めてみよう。
超多忙な業界に身を置きながら、いつでも短時間で仕事を切り上げ、なおかつトップセールスの座を守り続けている3人に、独自の効率化テクニックを聞いた。彼らの仕事術のエッセンスを取り入れ、今日こそは早く帰ってみよう……!
IT業界/法人営業 宮城新氏(写真左)
1986年生まれ。ゲーム、人材、IT系ベンチャー企業を経て2016年より現職。在籍したすべての企業で一貫して営業職を務めている
広告業界/法人営業 Yさん(写真中央)
1989年生まれ。2012年に新卒入社して以来、一貫して求人広告営業に従事。現在はプレイングマネージャとしても活躍
株式会社ユーザベース セールスディベロップメントチーム マネージャー 田口槙吾氏(写真右)
1984年生まれ。企業・業界情報プラットフォーム『SPEEDA(スピーダ)』、B2Bマーケティングエンジン『FORCAS(フォーカス)』の営業チームリーダーを担っている
Y 単純な話ですよ。「無駄なことはしない」。ただそれだけです。
田口 私もそれに尽きると思うんですけど、それでは話が終わっちゃいますね(笑)。でも多くの人は「無駄なこと」に気付いてないのかな、とも思います。
Y あ、そうですよね(笑)。例えば、使わない可能性が高い資料を、わざわざ長時間かけて作る。それが終わらないから残業するなんていうのは無駄ですよね。お客さまに口頭で説明すれば十分伝わる内容だとしたら、私は資料なんて持って行きません。
それから「無駄に訪問しない」というこだわりもあります。直接会ってお話をすることの大切さは分かっていますが、電話で済むような用件しかない時まで、いちいちお客さまに時間を割いてもらっていたら、リレーション構築上かえってマイナスになると思うんです。
田口 当社では「営業は現場にたくさん行かないとダメだ」みたいな社風がそもそもないので、Yさんが言う「無駄で過剰な訪問」をチーム内で見直して、減らしているところがあります。それに私個人のこだわりを加えると、お客さまとはほとんど電話をしないですね。
田口 はい、原則全てメールです。電話だと、こっちの都合で先方にかけても出てもらえないケースが多いじゃないですか? その点、メールならお客さまにご負担をかけずに伝えたいことや確認したいことを投げかけておくことができて、お客さまも自分の都合の良いときに確認し、じっくりと考えることができる。それに、商談後にお客さまのニーズに合わせたメリットをまとめて、フォローメールをしてるのですが、その内容は同じニーズを持ったお客さまにも、若干内容を変更した上で、お送りすることもできます。
さらにテキストとして残っていれば、自分のノウハウをテンプレ化してチームメンバーに共有もできます。そうするだけで全員が作業時間を短縮できるし、成果も上がっていくはずですから。ただし、細かなニュアンスを伝えたい時や営業交渉のような場合は、もちろん電話やオンライン商談システムなどでやりとりしています。
宮城 田口さんの考え方には共感するんですが、私はメールよりも電話派ですね。私自身は、かかってくる電話にはあまり出ないけど(笑)。
Yさんの「無駄な訪問をしない」にも同意ですが「忙しい方をつかまえて振り向いてもらう」という局面も営業にはあるじゃないですか? そういう時はバンバン電話します。何ごともケースバイケースですよね。お客さまの価値観や、売ろうとしている商材、商談の進み具合などでベストなやり方は変わってくる。
Y すごく分かります。無駄を省くといっても、営業職ってお客さまありきの仕事ですもんね。私も「このお客さまはメールを喜ぶのか、電話がいいのか」というのを見極めるようにしています。
田口 大事なのは「そのお客さまにとって必要のないもの」を徹底的に考え抜いて、それをやらないと決めること。したがって、お客さまの立場でちゃんと考えなければ、効率はむしろ下がってしまうと思います。
Y 気持ちの熱さに反応してくださるお客さまもいれば、値段などの数字で気持ちが動く方もいますし、論理的に説明すべき人もいる。必要なコミュニケーションはさまざまなんですよね。それが分かっていれば、ビジネス断捨離が有効になるということですね。
Y そうですね、周りの目も気になるし、「もっとやるべきことがあるんじゃないのか」って自己嫌悪で胸が痛むだろうし。でも、全ては「きちんと成果さえ出していれば許される」ことじゃないですか?
宮城 でも「え、帰るのかよ」文化って、なかなか根強いですよね。営業職だけではなく、あらゆる仕事で「No」と言える勇気がないと、時間の効率は上がっていかない気がします。
田口 断る勇気って、対お客さまでも大事ですよね。全てのリクエストに毎回対応していたら、より重要な仕事を進められない。もちろん、真摯さや誠実さを持った上での話しですが。
宮城 僕ら営業マンにとって、「時間」は唯一のリソースです。それを上手に使うことで結果を出すのが、お客さまへの最大の貢献。だから時には「なぜそれを今、私がやるべきなのでしょう?」みたいな問いかけを、意識的にします。もちろんもっと柔らかい言葉を使いますが、お客さまが望んでいるのも「イエスマンのしもべ」ではないはず。「客の要望を突っぱねるのか」と捉えられかねないリスクはあるけど、「お客さまのためなんだ」と考えるようにしています。
田口 相談ごとだけでなく、例えば特に根拠がないんだけど「この見積もり、3パターンで出して」みたいな要望も、結構「あるある」ですよね。
Y ありますね。「金額を変えて3パターンで」みたいに。私もそういう場合は、宮城さん同様、問いかけをさせてもらいます。「なぜ3種類必要なんですか? これだけで大丈夫じゃないですか?」と言ってみたら、担当者の方も「あ、そうか。そうだよね」って気付いて、あっという間に問題解決、というパターンも少なくない。
宮城 知らず知らずに無意味な仕事を増やしてしまうことってかなりありますよね。だからこそ、「No」と「Why?」を口に出していくことは重要だと思います。闇雲に仕事を引き受けていく営業マンよりもずっと、お客さまに対して誠実だと思うし、結果的に時間面の無駄も省くことができます。
田口 ツールを上手く活用することですね。実は先日、アメリカで働いている知人から興味深い話を聞きました。彼がいうには、日本とアメリカでは仕事に質の差こそないけれど、生産性だけは全く違うんだとか。その理由は、テクノロジーの差。つまり使っているツールの豊富さや活用の浸透度が全然違うんです。アメリカの腕利きのセールスチームは、先端技術を営業の仕事にバンバン活用しているらしいですよ。
宮城 なるほどね。世の中にはどんどんビジネスに有効なツールが出ていますもんね。
Y どうしよう。私、使いこなせている気がしません……
田口 会社が大規模なツールを導入していなくても、結構身近なツールでも違いは出せると思いますよ。
Y たとえばどんなツールですか?
宮城 私はスマホを大画面の製品に変えただけで、仕事の効率がガラッと変わりましたよ。私が担当する建設業界って、ページが細かい字で埋まっているような旧体質なサイトがたくさんあるんです。そういうサイトを移動中にチェックすることになるんですが、画面が大きければいちいちダブルタップなどをしなくても、さくさく読める。それだけで相当な時間短縮になるので、読むスピードが少なくとも1.5倍にはなったと思います。
Y なるほど、そういう活用の仕方ならば私にもできますね。
田口 せっかくビジネスの生産性を上げるための技術や道具があるんだから、それを使わない手はない、ってことですよね。身近なところからでもどんどん試していけば、自分や自分のチームに最適なモノも見えてくるでしょうし。
田口 自分の行動をゼロベースで見直して、「これ本当に意味あるんだっけ?」とか「これもっと効率的にやれないのか?」と疑ってみることが大事だと思います。その上で、世の中にはテクノロジーに溢れてるので、まずは何でもいいから試してみることが大事。例えば、営業職の場合だと、営業リストをHPから探して作ったりとか、名刺データをExcelに手入力してたりとか。テクノロジーを活用すれば、これらに当ててた時間は削減され、知的労働にリソースを投下できるようになります。その変革に積極的でない組織であれば、自らが組織のカルチャーを変えるか、別の組織に行くことを考えたほうが良いと思います。時間だけが唯一無二であり、取り返しのつかないリソースなので。
Y 私は、すごく仕事ができて誰よりも早く帰る会社の先輩に憧れて「ああいう風に自分もなろう」と決めていました。だから、もしも身近にお手本になるような人がいるなら、そういう姿から盗んでいく、というのもすごく有効だと思います。
宮城 僕が強調したいのは「自分の軸を持つこと」ですね。会社が言うからその通りに働く、お客さまが望んでいるから言いなりになる、というような他者依存型の仕事スタイルはやめて、「自分はここを大切にして生きていく」のような軸を持つことができたら、働き方も自分なりに工夫していけると思います。
取材・文/森川直樹 撮影/大室倫子(編集部)