Vol.229

「自社製品買い」強要するブラック企業を転職で回避する方法を、『自爆営業』著者に聞いた

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11月20日、経営再建中のシャープが全社員を対象に自社製品の購入を呼びかけ、各メディアで大きく報じられたことは記憶に新しい。

この報道を機に「自爆営業」という言葉を知った人もいるだろう。

自爆営業とは、主に売上のアップを目的に、自社の商材を従業員に購入させることだ。特に、デパートやスーパー、コンビニなどの小売業や個人向け営業に多いとされ、夏冬のボーナス商戦や年末年始に公然と行われていると指摘するメディアもある。

ジャーナリストの樫田秀樹氏は、著書『自爆営業』を2014年5月に出版。同著によると、かつての日本郵便ではノルマ達成のために年賀はがきを自腹で購入し、金券ショップに売るという自爆営業が常態化していたという。

日本郵便に限らず、これまで様々な業種の自爆営業の被害者を取材してきた経験を持つ樫田氏に、営業マンが自爆営業を回避するためのヒントについて聞いた。

ジャーナリスト樫田秀樹氏

ジャーナリスト
樫田秀樹/かしだ・ひでき

1959年生まれ。大学卒業後、NGOスタッフとしてソマリアの難民キャンプ支援などに携わる。以後、国内外の環境問題や社会問題をテーマにした取材・執筆活動を展開。近著に『自爆営業』(ポプラ新書)、『悪夢の超特急 リニア中央新幹線』(旬報社)などがある

「自爆営業」が起こりやすい会社、3つの特徴

樫田氏は、自爆営業が起こりやすい企業は次の3つのどれかに当てはまることが多いという。

(1)社員の管理が厳しく、営業成績だけで評価されがちな会社
(2)経営トップが交代して、経営方針が変わった会社
(3)季節商品を扱っている会社

「企業の使命は業績を上げ続けて、それを従業員や社会へ還元すること。そのため、売上至上主義になりがちです。そのような企業の経営層は、支社や営業部署を売上の多寡でしか判断できない場合が多い。だからこそ、(1)社員の管理が厳しく、営業成績だけで評価されがちな会社では、売上を作るためのしわ寄せが末端の営業マンに来るのです」

そのような会社では、若手営業マンの上司に当たる役職者や役員が、自爆営業への疑問を持たないことも多いという。

「自爆営業で作った売上も含めた成績が評価されて出世してきた人は、自爆営業について『出世への投資』や『成長のための課題』と考えがちです。こういう会社では、自爆営業は『経験して当然』という雰囲気がありますよね」

(2)の経営トップが交代して、経営方針が変わった会社も同様だ。会社の方針がより利益を上げることに重きを置くようになれば、自爆営業は生まれ得る。

また、(3)季節商品を扱っている会社に関しては、昨今「ブラックバイト」とも呼ばれている、学生のアルバイトの状況に起因しているところもあるという。

「スーパーやコンビニで働いたことのある人なら、例えばクリスマスシーズンなら、ケーキなどの売れ残った食品を安く買い取った経験があるかもしれません。この経験が、売れ残ったものを自腹で買うという自爆営業の心理的な障壁を下げているんです」

では、まずは転職活動で自爆営業を強要されるような会社を回避する方法について紹介しよう。

転職で自爆営業を強制する会社を見極める方法

入社候補の企業が決まったらまず、労組(労働組合)があるかどうか、そして現役社員に直接会って話を聞くことを樫田氏は勧める。

「中堅・中小の場合は労組がないところが大半ですが、最近は労働環境や労働条件の改善を求めて『個人でも加入できる労組』が増えています。こうしたところは加入者の企業名も公表していますので、目指す会社が決まったらぜひチェックしておきたいですね」

また、現役社員に話を聞く場合、「入社1~2年目までの若手」に会うことを樫田氏は勧める。

樫田秀樹氏

「社歴が3年目を超えてくると、良くも悪くもその会社・組織に慣れてしまっていることが考えられます。つまり、たとえ自爆営業があっても普通のことだと受け入れてしまっている可能性があるのです。まだ会社や組織に染まっていない現役社員から情報収集すべきですね」

学生時代のOBやOGがいない企業でも、今ならFacebookなどで企業名から社員を探すことも可能だ。そのように見つけた若手社員に確認すべきは就業規則だという。

「本の中でも入社の面接時に『ガソリン代は社員が負担』という条件を提示された牛乳販売会社の実例を取り上げました。企業には『就業規則』や『服務規律』など、働く上でのルールがあります。その中で自爆営業がルールとして明記されていると、違法でない限りはそれを覆すのは難しいのです」

入社前は安全と思っていても入社後に売上の低迷や経費削減など、経営環境の変化から自爆営業を強いられるようになることも考えられる。

もし会社や仕事の内容にも不満があるようなら転職すればいい。しかし、業務や人間関係に不満はないため、転職をせずに自爆営業だけは拒否したい。そんな時どうすればいいのだろうか。

会社との交渉時はなるべく多くの賛同者を

経営トップ以下、先輩や上司も当然のこととして自爆営業が公然の業務になってしまってからでは遅い。そんな時は、家族や学生時代の友人など、社外の人物に話を聞いてもらうのが効果的と樫田氏は話す。

「特に、新卒で入社した企業で自爆営業に直面すると、それを当たり前のことだと錯覚してしまいがちです。少しでも疑問に思ったら、勇気を出して周囲の人たちに話してみるといいでしょう。きっと『それはおかしい』という声が返ってくるはずです」

樫田氏がこうした会社の押しつけに警鐘を鳴らすのは、自爆営業を強制されたため、うつ病を患うなど心を病んだり、自殺に追いこまれたりした人の遺族たちに、取材を通して会ってきたからだという。

樫田秀樹氏

「社会で働くのは、自己実現を目指すとともに健全な生活を送るための賃金を稼ぐのが目的です。受け入れられないような指示を必死に我慢することによって、心も体も傷ついてしまうケースをいくつも見てきました。改善できる可能性があるなら、ぜひ行動に移すことを勧めます」

1人でも加入できる労組へ相談するなど、行動を起こすことで自分の身を守ることができる。この場合、会社側と団体で交渉できるよう、同様の不満を持っている人を複数人誘うことで交渉の成功率が高まるという。

「会社は組織を守ろうとしますから、どうしても1人では不利です。なるべく多くの志を同じくする人を集め、一緒に交渉できる体制を築ければ、改善できる可能性は高まります」

業績を上げ、利益を従業員や社会へと還元するのが企業の使命。しかし、売上に固執しすぎて社員の心身を脅かすような取り組みはやがて企業にも大きなダメージを与える。

「売上が低迷して、コストを削減するような状況に陥ることもあるかもしれません。しかし、そんな時こそ経営トップ以下、従業員全員で前向きな打開策を考えて実行へ移すのが本来の経営のあり方です。従業員に苦痛を与えるような自爆営業は絶対にあってはならないのです。自爆営業をなくすためにも、声を上げる勇気を1人でも多くの人に持ってほしいですね」

取材・文/浦野孝嗣 撮影/赤松洋太

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