芸人 / 春日俊彰さん
1979年生まれ。2000年に高校の同級生である若林正恭さんとお笑いコンビ『オードリー』を結成。08年『M-1グランプリ』2位。24年2月『オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドーム』 を開催。約16万人が視聴し、世界一観られたお笑いライブとしてギネス世界記録に認定。バラエティ番組を中心に活躍し、ボディビル、フィンスイミング、レスリング、エアロビなどさまざまなジャンルにも挑戦。その運動能力を活かして数々の優秀な成績を残している
働く理由は
「オードリー春日」に
いろいろやらせてあげたいから
5年前のインタビューでお話しした時から、仕事に対するスタンスは変わっていません。楽しくもつまらなくも、好きでも嫌いでもない。
ただ、4年前に子が産まれた頃から、「オードリー春日」と「春日」の存在がもっとくっきりと分かれた感じがします。
漫画に出てくる光と闇の二面性を持つキャラクターみたいに、自分の中に「オードリー春日」と「春日」という真逆の人間がいる。この感覚は、以前からうっすらありました。
若林(正恭)さんが「春日」という人間を観察して、そこから一部分を抽出してぎゅっと形にしたのが、ピンクベストで胸を張った「オードリー春日」。もともと自分の中にあったものなので演じているわけではないですけど、「オードリー春日ならこう言うだろう」みたいに考えることはあります。
オードリー春日としては、いろんなチャレンジをした方がいいと思うんです。ボディビルをやったことが他の仕事につながっていったように、仕事が仕事を呼びますから。それに、笑ってもらったり褒めてもらったり、お手当をいただけたりもしますしね。
一方で本来の春日はというと、まぁ全部面倒くさいわけですよ。誰ともしゃべりたくないし、何もしたくない。こっちの春日が何かを頑張ったところで、何のプラスにもなりやしない。
それに、今ははっきりと「子が一番だな」って思う。
もちろん好きとか大切さの種類は違いますし、仕事のモチベーションが下がるわけではないですけど、本来の春日は「子が成人するまで仕事を休みたい」と思うわけです。家で(埼玉西武)ライオンズの試合を見て、子と遊んで暮らせればそれでいい。
じゃあ何で私はお仕事を続けるのか。別にしなくてもいいんじゃないか。そう考えた時に、思うんですよ。「オードリー春日がどう思うかは分からないな」と。
先日は東京ドームでライブをやりましたけど、良い意味でも悪い意味でも、オードリー春日は少なからず人に影響を与えているんです。これまでやってきたいろいろなチャレンジにしても、企画している人や見ている人は挑戦するオードリー春日を欲しているわけですね。
そして本来の春日もまた、「オードリー春日にいろいろやらせてあげたい」と思う。だから、お仕事を続けているんです。
「ラジオは二つの春日の間かもしれないですね。オードリー春日と春日をつなぐ境目で、海水と淡水が混じってちょっとだけしょっぱい、みたいな」(春日さん)
”振り返ると、「オードリー春日」というでっかい流れるプールがあって、ずっとその流れに乗っている感じがします。
若林さんを含めた周りの人たちが流れをつくってくれて、ボディビルやエアロビといった支流で揉まれて、急流に対応できる体力をつけて本流に戻る。
溺れそうになってもプールから上がることはしないから「流れに乗れているのがすごい」ってよく言われますけど、それは「オードリー春日」に任せていることですからね。
それに、バラエティってどうにでもなるものなんですよ。チャレンジ企画で失敗しても、「頑張ったのにできなかった」っていう仕上がりにしてもらえる。要は、成功しても失敗しても面白くしてもらえるんです。
ただし、全力でやらなきゃ駄目ですよ。手を抜いて失敗したら見向きもされませんから。だから何かにチャレンジしている期間中は、仕事の合間を縫ってできるだけ練習を詰め込みます。
最近だと、1年後に特番をやるのでそれまでに英語がペラペラになっている状態を目指してくださいと言われて、1年間勉強したんです。毎日英語の日記を動画で撮るように言われて、その通りにやったら「本当に365日送ってきましたね」ってスタッフさんから驚かれまして。
私からしてみれば、「そりゃやるでしょ」って感じですよ。だって1日でも抜けたら「そのせいでできなかった」ってなるじゃないですか。でも毎日やったら「1日も欠かさずにやったのにできなかった」になる。
つまり、結果がどっちに転んでもいいように全力でやるわけです。それを「春日は頑張っている」と受け止めてもらえるのはありがたいですよね。私としては、失敗した時の保険でしかないわけですから。今までは「すごいと思われたい」みたいな気持ちもあった気がしますけど、そこはここ数年で結構変わりました。
「……とまぁ良い感じに話してますが、粘らなくなったとか、何も考えずにだらだら話すことが増えたとか、マイナスな変化もあります。『つまらないと思われたらまずい』『滑りたくない』みたいなことを全然思わなくなっちゃったのでね(笑)」(春日さん)
”目指すは
「伝記・春日俊彰」
さっき、バラエティはどうにでもなるって言いましたが、だからこそ何がオードリー春日にとっての「いい仕事」なのかっていうと……何でしょうね。
出演した番組の放送後、「よかった」っていう連絡がプロデューサーさんや芸人仲間から来ると「いい仕事したんだな」って思いますけど、それは一瞬で、長くは残らない。
そもそもテレビは生放送以外、編集がありますしね。そういう意味だと生っぽい仕事の方が「いい仕事をした」ってなるかもしれない。
となると、最近だとやっぱり東京ドームライブですね。
中でも一番は、最後の漫才。他のコーナーは演出や見た目の派手さもありましたけど、漫才では特別なものは何も使わないですから。混じりっ気のない感じですよね。ああいうのは「いい仕事」だと思います。ラジオで毎週のように「東京ドームライブすごかったな」ってネタっぽく話してますけど、こっちは半分以上本気ですよ(笑)
「うちの家内のクミさんは私の番組を録画してまでは見ないんですけど、たまにリアルタイムで見ていることがあって。私の何かしらで笑っている声が聞こえたときにも『いい仕事したな』って思ったりしますね」(春日さん)
”正直、お笑いを始めた頃はこんなことになるとは思ってもいなかったです。ここにきてプールの流れも急になった気がしますし。
もはや「オードリー春日」と「春日」のどっちが本体なのか分かんないですけど、「オードリー春日が春日をここまで連れてきた」みたいな感覚はあります。
ただ、ちびっこの頃の春日からすると……今の自分は「まだまだ」でしょうね。子どもの頃、図書室に並んでいる本を見て「いつか自分の伝記ができないもんかな」と思っていましたから。
春日の死後、世界の偉人シリーズに「春日俊彰」が加わって、全国の小中学校の図書室に置かれる。そう考えたら、まだまだこれからですよ。
全力でやって
ダメだったら、
また転職すればいいじゃない
といっても、そのために自ら何かをしようとは思いません。これからも流れるプールに流されていくのでしょう。
思えば、私はこれまで自分で何かを決めたことも、自分から何かを辞めたこともないんです。
飲み会も本当は開始1時間ぐらいで帰りたいけどダラダラい続けちゃうし、風呂なしアパートに20年住んでたのも、ただ環境を自ら変えられないってだけの話でね。
だから転職しようって思える人は、それだけですごいですよ。私だったら会社に勤めて「なんだかな」って思っても、多分転職できないまま定年を迎える(笑)
いざ転職するとなるといろいろ不安はあるでしょうけど、さっき話した通り、全力でやれば大丈夫なんじゃないですかね。頑張ってる姿は周りが見てますから、失敗してもどうにかなります。
で、全力でやってダメだったらまた転職すればいいじゃない。そうすれば最終的に永住の地が見つかるんじゃないかと春日は思いますよ。
「転職しよう」と
”自分で決められるだけで
すごい。
あとは全力でやるだけ!