ユニクロの【地域正社員制度】から紐解く、「働き方の多様性」を実現するために必要な3つの要素

2013年6月、アベノミクスの成長戦略の一つとして打ち出された「限定正社員」。この制度を何らかの形で取り入れる企業は日本全体で5割以上に上ると言われているが、ダイバーシティの必要性が謳われている日本企業において今後どのような影響を与えていくのだろうか。独自の施策でこの制度を推進するファーストリテイリングに聞く。

「地域正社員」制度の推進・運用に携わっているファーストリテイリングの佐々木彩さん
「地域正社員」制度の推進・運用に携わっている佐々木彩さん

2013年6月、アベノミクスの成長戦略の一つとして打ち出された「限定正社員」という制度をご存じだろうか。

厚生労働省の発表によると、この制度を何らかの形で取り入れる企業は日本全体で5割以上に上るそう。そして、この制度を独自の施策で積極的に推進しているのが、世界に2000店舗以上を展開するファーストリテイリンググループ(以下、FRグループ)だ。

最近も、2015年10月より「週休3日制」を国内ユニクロ店舗で働く地域正社員1万人のうち希望者を対象に導入する取り組みを発表したばかり。なぜ、同社はこのような多様な働き方を次々と打ち出しているのだろうか。今回はその中でも、「地域正社員」制度を導入した意図や、制度の経営への影響などを取材した。

同社の人事部で、この制度の推進・運用に携わっている佐々木彩さんへの取材で見えてきたのは、企業が社員の「働き方の多様性」を担保するために欠かすことのできない以下の3つの要素。これは、ダイバーシティの必要性が謳われている日本企業において重要なファクターとなり得るであろう。

≪FRグループが重視する3つの要素≫
■人事制度の推進と経営戦略を結び付けること
■最後まで現場を巻き込み続ける熱意
■社員の満足度だけにフォーカスして作る制度は長期的には機能しない

「地域正社員」という呼び名には、従業員の働き方に対する同社の考えがこめられている
「地域正社員」という呼び名には、従業員の働き方に対する同社の考えが込められている

人事制度の推進と経営戦略を結び付けること

同社は一般的に知られている「限定正社員」という制度をアレンジし、2007年から独自の「地域正社員」制度を推進している。この呼び名には、従業員の働き方に対する同社の考えが込められている。

「当時、日本全国にユニクロは約750店舗あり、従業員の7割がパート・アルバイト層(非正規社員)で構成されていました。その中でさらにフルタイマーの方(準社員)、ショートタイマーの方(アルバイト)と2つの働き方に分類されていましたが、準社員の方々の根本的な希望としては、正社員として働きたいということ。私たちとしても業績を伸ばすために、フルタイマー、ショートタイマーを問わず、優秀な方に長く活躍してほしいという思いがありました。

しかし、他社で正社員として採用してくれるということで、当社の準社員たちが他社に流れてしまうことがありました。その問題意識から、業界でも先駆けて『地域限定正社員』制度を導入したのです。準社員の方が正社員となり、ステップアップできる道を作りました」

そして、2014年には「地域限定正社員」を「地域正社員」へとアップデート。この背景には、FRグループの国内の成長戦略として、この制度を拡大していくという経営判断があったという。

それまで、ユニクロは顧客を増やすために、全国各地へと店舗を拡大する戦略を採ってきた。それが一定数まで店舗も増え、一店舗一店舗の効率や利益を高めていくという「高付加価値戦略」へと移行する時が来たのだ。

「高付加価値戦略へと移行するために重要となるのが、お客さまへサービスを提供するスタッフのスキルアップです。店舗スタッフと聞くとレジや接客だけしかやっていないと思われる方もいるかもしれませんが、ユニクロのスタッフは異なります。例えば、お客さまが欲しい時に必ず商品を手に取れるようにするため、店長1人に在庫管理を任せるのではなく、商品ごとに担当を決め、商品の発注や管理は担当のスタッフが行っています」

他にも、商品のディスプレイやレイアウト作成などの仕事もスタッフに任せているため、商品に関する豊富な知識が必要となる。だが、せっかく業務に精通した準社員がいても、他社の正社員就職が決まると辞めてしまうこともあり、店舗での“ノウハウ”の蓄積が思うように進まないというのが課題だったという。

そこで同社では、今後の重要なポジションを担う優秀な人材獲得に向け、ユニクロが求めるスキル・ノウハウを併せ持つ準社員や、外部からも優秀な人材を正社員として採用し、高付加価値戦略への足がかりとするために「地域正社員」という制度を改めて見直したのだ。

これは単なる人員確保のための制度ではなく、FRグループ全体の経営戦略を担う一つの施策である。

「2007年に導入した『地域限定正社員』制度は、主に20代~30代の独身者がターゲットとなっていましたが、2014年のアップデートでは、主なターゲットは『もっと働きたい』、『長く活躍したい』という思いを抱いている主婦の方々へも大きく拡大しました。これからの時代はもっと柔軟な働き方ができないと結果的に長くご活躍いただけず、経営がままならなくなります。そのため、この『地域正社員』という制度には、“仕事”と“家庭”を両立するというコンセプトがあります」

主婦の方々が働く時に、例えば子どものお迎えがあるから遅くまで残れない、そして時短の方は働く時間が他の人より短いからキャリアアップできないというように、家庭の状況がその人のキャリアを狭めてしまうということは、日本社会全体の課題だ。

「海外の企業では、もっとフレキシブルな働き方、幅広いキャリアステップが用意されているのが一般的です。そのため、当社でも制度自体が“働き方”や“キャリア形成”を限定するものであってはいけないという考え方から、“限定”という言葉をとり『地域正社員』という名前にしたのです」

その結果、FRグループでは、新卒で入社し活躍する社員(転勤あり)と、地域正社員として活躍する社員(転勤なし)の間に待遇や福利厚生の差はほとんどなくなったという。

最後まで現場を巻き込み続ける熱意

「これまでは、パート・アルバイトから地域正社員へとステップアップするしか道はありませんでしたが、2014年の制度のアップデートにより、中途での地域正社員の採用もスタート。この変革を現場に根付かせるために、私たち人事が現場のエリアマネジャーや店長、そしてスタッフに経営側の意図、そして思いを伝え、巻き込んでいくことが必要でした」

社員に仕組みを説明するために小冊子を作り、現場にも足を運び、この制度の持つ意味と会社側の“熱意”を伝えていく。そうして現場のベテランたちの理解を得て、まずは優秀な人たちから正社員へキャリアチェンジしてもらった。

「その結果、当初1400人しかいなかった地域正社員も、今では1万人にまで増加させることができました」

ユニクロ地域正社員募集のWebページ
ユニクロ地域正社員募集のWebページ

社員の満足度だけにフォーカスして作る制度は長期的には機能しない

「働き方の多様性」を会社として担保するために重要なのは、まず会社全体に、丁寧に経営側の思いを伝え、巻き込んでいくこと。新しい取り組みを100%確立させるという覚悟を持つことが必要だ。

ただ、社員の働きやすさだけ、社員満足を高めるためだけに制度を導入しても、長期的には機能しない。それは、会社側に「この制度が確立しなければ会社が潰れる」という危機感や、責任感が生まれにくいからだ。

だからこそ、冒頭に記したように、経営のゴールに制度の必要性をつなげることが重要になってくる。

「私たちの『地域正社員』には、先行投資としてかなりのコストを掛けています。この制度の真の目的は、日本国内にあるユニクロ全店舗の経営を効率化すること。この制度を導入したことにより、数年後には店舗の経営効率が今よりもさらに良くなるため、掛けたコストの経営への悪影響はほとんどないと考えています」

同社は、現在1万人の地域正社員を、今後は一店舗の半数が地域正社員になるよう、1万6千人を目指して制度の推進を行っていく。先日発表した週休3日制という取り組みも、この目標を達成するための新しい施策の一つなのだ。

「男性も女性も本当の意味で活躍できる会社を作るために、これからもさまざまな働き方を作っていきたいですね」

同社の姿勢や戦略は、日本企業がよりダイバーシティを推進していくための一つのヒントになるのではないだろうか。

取材・文・撮影/石毛 聡



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