10分で読める『ライフ・シフト 100年時代の人生戦略』

「人生100年時代」をどう生きるのか、そのアイデアが記された1冊を要約しました。本書を執筆したのは、『ワーク・シフト』の著者でもあるリンダ・グラットンと、経済学の権威アンドリュー・スコット。自分らしい人生の道筋を描くための羅針盤となる1冊です。

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略

タイトル:LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略

著者:リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット 著/池村 千秋 訳

ページ数:428ページ

出版社:東洋経済新報社

定価:1,944円(税込)

出版日:2016年10月21日

 

Book Review

日本でも旋風を巻き起こした『ワーク・シフト』の著者リンダ・グラットンと、経済学の権威アンドリュー・スコットによる待望の新作が登場した。今回のテーマは「100年時代の人生戦略」である。
これからを生きる私たちは、長寿化の進行により、100年以上生きる時代、すなわち100年ライフを過ごすこととなる。新しい人生の節目と転機が出現し、「教育→仕事→引退」という人生から、「マルチステージ」の人生へと様変わりする。それに伴い、引退後の資金問題にとどまらず、スキル、健康、人間関係といった「見えない資産」をどう育んでいくかという問題に直面するというのが著者の見方だ。ロールモデルもほとんど存在しない中で、新しい生き方の実験が活発になることは間違いない。また、生涯を通じて「変身」を続ける覚悟が問われると言ってもよい。
今後どんな時代が訪れ、どんな生き方を模索すればいいのか。その際、どのような有形、無形の資産が重要性を増すのか、どんな人間関係を築いていけばいいのか。企業や政府が取り組むべき課題は何か。本書は、こういったテーマと向き合うための手がかりを、豊富な「人生のケーススタディー」とともに与えてくれる。読み進めるにつれ、「自分は何を大切に生きているのか」「何を人生の土台にしたいのか」と自問せずにはいられないだろう。
これまでの成長至上主義から脱却し、自分らしい人生の道筋を描くための羅針盤として、何度もお読みいただきたい。

100年ライフ

100年以上生きる時代をどう過ごすべきか?

100年以上生きる時代をどう過ごすべきか?

本書の中心テーマは、どうすれば個人や家族、企業、社会全体が長寿化の恩恵に最大限浴せるか、というものである。
現在、長寿化が進んでいる国では、高齢者医療や年金の問題ばかりが取り沙汰されている。しかし、今後は健康的に、若々しく生きる年数が長くなるため、「老い」自体の概念が大きく変わる。すると、引退後の生活だけでなく、人生全体を設計し直さなければならない。
これまで多くの人々は「教育→仕事→引退」という3ステージの人生を歩んできた。しかし、寿命が延びれば、70代、さらには80代まで働くことが当たり前となっていく。また、仕事のステージの長期化に伴い、ステージの移行を数多く経験する「マルチステージ」の人生に突入するだろう。
そこで必要となるのは、画一的な生き方にとらわれず、生涯「変身」を続ける覚悟だ。キャリアの選択肢だけでなく、パートナーシップのあり方も問い直される。夫婦が二人とも職を持つ家庭が増えると同時に、いずれかがステージを移行する際に、互いの役割を柔軟に調整し、サポートし合うことが求められる。すると、必然的に家族のあり方は多様化していくはずだ。
多くの移行を経験することになる時代では、「何を大切に生き、何を人生の土台にしたいのか」という問いに向き合わざるを得ない。自分のアイデンティティを主体的に築きながら、人生をどのように計画するか。これこそが本書の最大のテーマである。

長寿という贈り物

約100年前の1914年に生まれた人が、100歳まで生きている確率はわずか1%だった。しかし、2107年の世界では、100歳生きることが普通の光景になっている。日本にいたっては、2007年生まれの50%は107歳まで生きると推測されているのだ。
健康、栄養、医療、衛生といった多分野におけるイノベーションによって、平均寿命は大きく上昇してきた。重要なのは、健康に生きる期間が長くなるということだ。認知症の解明と対処にも、今後大きな前進があると目されており、想像以上に長く生きられる可能性が高いといってよい。

機械化・AI後の雇用の未来

一方で、長寿化に伴い、老後の生活資金をどうするかという問題が差し迫ってくる。貯蓄率を高めるか、より高齢になるまで働くか、あるいはその両方の選択が必要となる。
また、新しいテクノロジーが労働市場を激変させていくことは明らかである。産業の新陳代謝が起こり、新しい職種が既存の職種を代替する。また、ロボットやAIに、高スキル労働者が代替される一方で、新しい雇用が生まれ、経済成長を牽引するという明るい見方もある。こうした変化の中で重要なのは、人々が精力的かつ創造的に生きるための新しい人生のシナリオを考えていくことだ。

見えない資産

有形、無形の資産のバランスをとる

ここからは、お金に換算できない「無形の資産」に光を当てていく。家族や友人関係、知識、健康といった無形の資産は、それ自体が有意義な人生に不可欠であるだけでなく、有形の金銭的資産の形成を助けてくれる。100年ライフを過ごすうえでは、両方の資産のバランスをとり、相乗効果をねらう必要がある。長寿化の観点から重要とされる「見えない資産」は、生産性資産、活力資産、変身資産の3つに分類できる。

生産性資産

生産性資産

生産性資産とは、生産性や所得、キャリアの見通しを向上させるのに役立つ資産を指す。わかりやすい例は、長年かけて培ってきたスキルや知識である。ただし、キャリアの初期に身につけた専門技能を頼りに、長い勤労人生を生き抜くことは難しい。そのため、生涯を通じて、複数の新しいスキルと専門技能を獲得し続けることが重要になる。
身につけておきたいスキルや知識は、情熱を注げることを前提としつつも、経済的な価値を生み出せて、しかも希少性があり模倣困難なものである。具体的には、「イノベーションを生む力、創造性」、「意思決定やチームのモチベーション向上といった、人間ならではのスキルと共感能力」、そして「思考の柔軟性や敏捷性といった、汎用スキル」を育むことである。
また、仲間の存在も生産性資産の一端を担う。高い信頼性を持つ職業上のネットワークは、互いの成長やイノベーションの促進に大いに役立つ。また、時としてコーチや支援者となってくれたり、必要な人脈を紹介したりしてくれる。こうした存在を、グラットンは「ポッセ」と呼ぶ。
評判も生産性向上に寄与してくれる。良い評判を得ていれば、高い能力があるのではないかと期待されやすく、守備範囲を広げやすい。ただ、評判の獲得には時間を費やさなければならない一方で、自ら評判を完全にコントロールすることは不可能に近い。今後は、ソーシャルメディアにより評判を左右する情報がますます拡散されやすくなるため、幅広い範囲で自分の評判を管理することが求められるだろう。

活力資産

活力資産とは、人に幸福感をもたらし、やる気をかき立てる資産を指す。具体的には、肉体的・精神的健康や、友人や家族との良好な関係などである。
まず、健康は長寿化時代において価値を増す一方だ。とりわけ、明晰で健康な脳を保つことは大きな意味を持つ。最近の研究によると、加齢により脳の機能が衰えるのを避けられないという常識が変わりつつあり、脳をくり返し使用すれば、機能を高めたりダメージからの回復を促したりすることもできるという。
また、ストレスを引き起こす要因をうまく管理することも大事だ。中でも、職場と家庭のバランスをとり、両者での前向きな感情が伝播し合う効果は見逃せない。
そのほか、活力資産の形成に役立つのは、長い年月をかけて築かれ、深く結びついた親しい友人たちとの関係である。これをグラットンは「自己再生のコミュニティ」と呼ぶ。友情を長続きさせ、深めている人は、高齢になってもエネルギッシュで前向きな傾向が見られる。

変身資産

変身資産とは、人生の途中で変化と新しいステージへの移行を成功させる意思と能力のことである。移行につきものの不確実性への対処能力を促す要素ともいえる。具体的には、次の3つの要素が必要となる。
1つ目は、「自分について良く知っていること」である。自分の過去、現在、未来について内省し続けることで、変化を経験しながらもアイデンティティと自分らしさを保ちやすくなる。
2つ目は、「多様性に富んだ人的ネットワークを持っていること」だ。昔からのネットワークは同質性が高いため、変化を促すよりも、同質であることを後押しする傾向が強い。そのため、新しい視点を得て、変身を遂げていくには、大規模で多様性に富んだネットワークに接することが欠かせない。
そして3つ目は、「新しい経験に対して開かれた姿勢を持っていること」である。変身の過程で既存の行動パターンが脅かされるときに、新しいやり方を実験し、受容する姿勢を持つのだ。すると、新しい生き方を探索し、適応することができるようになる。そこでは、型にはまった行動を打破する「ルーチン・バスティング」が必要となる。
このように、3つの「見えない資産」に投資を続け、自らを再創造(リクリエーション)することが、充実した100年ライフを送るためのカギとなるだろう。

新しいステージ

若々しさを加速させる「選択肢の多様化」

マルチステージの人生では、どのステージをどの順番で経験するかという選択肢が多様になる。そのため、年齢とステージが一致しないことが増えていく。例えば「大学生」という情報だけでは、年齢を推測できなくなる。あらゆる年代層が混ざり合い、協働する機会が飛躍的に増えるためだ。また、人々の若々しさをいっそう加速させていく。
同時に、どの世代においても「若さと柔軟性」、「遊びと即興」、「未知の活動に対する前向きな姿勢」が重要な意味を持つことになる。

新しい3つのステージの出現

新しい3つのステージの出現

こうした動きに伴い、次の3つのステージが新たに登場する。
1つ目は、一ヶ所に腰を落ち着けることなく、身軽に探検と旅を続け、幅広い針路を検討する「エクスプローラー(探検者)」である。この時期では、多様な人たちの苦悩や喜びを自分事のように考える「るつぼの経験」が組み込まれていることが望ましい。他の人生の物語にふれることで、自分の価値観が揺さぶられ、アイデンティティについて熟考できるからだ。
2つ目は、組織に属さずに、自由と柔軟性を重視して小さなビジネスを起こす「インディペンデント・プロデューサー(独立生産者)」だ。このステージの人たちは、事業活動自体を目的としており、試行錯誤しながら未来を探索する「プロトタイピング」を通じて、学習を深めていく。このステージでは、安心して失敗できるからだ。現在の18~30歳の層にとっては一つの選択肢になりつつある。彼らは都市部にある創造性の集積地に集まって、みんなで協働する精神を重視している。
そして3つ目は、異なる種類の仕事や活動に同時並行で携わる「ポートフォリオ・ワーカー」である。他の新しいステージと同様、年齢を問わず実践できるが、この生き方をとりわけ魅力に感じるのは、すでにスキルや人的ネットワークの土台を築いている人たちだ。このステージにうまく移行するには、フルタイムの職に就いているうちに、小規模なプロジェクトで実験を始め、汎用的スキルや社外の多様なネットワークといった変身資産を育むことが望ましい。

移行期間と社会制度の変化

今後は、ステージ間の移行回数が増えていくため、移行期間に向けた事前の準備が欠かせない。移行期間中は、主に活力資産と生産性資産への投資が行われるが、金銭的資産が減ることは避けられないからだ。
また、こうした新たなステージが出現し、その選択肢や順序が多様化するにつれ、年齢とステージの一致を前提につくられてきた企業の人事制度や、教育や労働、結婚といった社会制度も変化を強いられることになるだろう。

※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介

  • Lynda Gratton(リンダ・グラットン)

    ロンドン・ビジネススクール教授。
    人材論、組織論の世界的権威。 2年に1度発表される世界で最も権威ある経営思想家ランキング「Thinkers50」では2003年以降、毎回ランキング入りを果たしている。 フィナンシャルタイムズ紙「次の10年で最も大きな変化を生み出しうるビジネス思想家」、英タイムズ紙「世界のトップ15ビジネス思想家」などに選出。 邦訳されベストセラーとなった『ワーク・シフト』(2013年ビジネス書大賞受賞)などの著作があり、20を超える言語に翻訳されている。

  • Andrew Scott(アンドリュー・スコット)

    ロンドン・ビジネススクール経済学教授、前副学長。
    オックスフォード大学を構成するオール・ソウルズカレッジのフェローであり、かつ欧州の主要な研究機関であるCEPRのフェローも務める。2005年より、モーリシャス共和国大統領の経済アドバイザー。

  • flier

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