次世代エコ発電の先駆者 | 株式会社音力発電 代表取締役 | 速水 浩平
だが、音力発電に関する本格的な先行研究がないこともあって、当初は手探りの状態が続いた。特に難しかったのは「発電効率をいかに上げるか」という問題。明け方まで研究に没頭する日々が続いた。「それでも、少しも眠いと感じなかった。研究が楽しくて仕方がなかったんです」と速水は語る。
「研究ではあまり成果が出ない時期がしばらく続き、ある時期、スッと階段を上がるようにブレークスルーが訪れる。そういう成功体験が支えとなって、再び大変な時期が来ても乗り切ることができる。それを繰り返すうちに、徐々に発電効率が上がっていった。研究を始めたころと比べると、今では20倍以上の発電効率が得られるようになりました」
そんな速水の研究を、シーズの発掘に余念がない企業が放っておくはずもなかった。初めて受託研究の声が掛かったのは大学3年目の時。大学を通じて知り合ったある社長のつてで、神奈川県の技術イベントに音力・振動力の発電機を展示したところ、ある企業から防音壁の開発を依頼されたのだ。音のエネルギーを電気に変えれば、音を小さくして防音壁に応用することができる。自分の研究が商品化されて世に出ることの喜びを、速水は初めて味わうこととなった。
とはいえ、大学発ベンチャーを目指すことに全く迷いがなかったわけではない。大学卒業を間近に控え、友人が次々に就職を決めていく。その姿を見て心が揺れ、経験のためと思い就活らしきものをしてみたりもした。
「でも一度始めたことは簡単に変えたくない、というのが僕の性格。一度就職したら、たぶんベンチャーはやらないだろうと思い、就職はしないことに決めました」
現在は企業からの受託開発が中心で、約20件のプロジェクトが進行中だ。コクヨオフィスシステムでは、廊下のLED誘導灯や非常階段の避難誘導灯などに応用する目的で発電床が使われている。このほか、工場機械の振動を利用したい、携帯電話や携帯情報端末などのモバイル電源やユビキタス電源に応用したいといった声も多いという。
「例えば、携帯電話のバッテリーが切れそうになったとき、ボタンを押すだけで充電するとか、歩くだけで発電する“発電靴”の踵から小型バッテリーを取り出して充電するとか、いろいろな応用が考えられます。商品化まであと2、3年はかかると思いますが……」
速水の研究成果はエネルギー問題や環境問題の観点から、社会的にも大きな注目を集めつつある。速水の発明した発電床の技術は、慶應義塾大学とJR東日本の産学連携プロジェクトに採用され、その後この産学連携プロジェクトの一環として、2006年にはJR東京駅、丸の内北口改札で発電床の実証実験がスタート。将来的には照明やエスカレーターの電力を発電床で賄う計画が進んでいる。また、2008年12月には日本銀行本店前で発電床を使った「ECO EDO日本橋発電所点灯式」が行われた。これは銀行前庭のヒマラヤ杉に付けた3000個分のLED電飾を発電床で点灯する企画で、点灯式には小池百合子元防衛相や白川方明日銀総裁も駆け付けた。
「私がやりたいのは、日常生活の中で捨てられている、音や振動の膨大なエネルギーを有効に利用することです。中でも重要なのは、こうした発電を“無意識に”行えるようにするということ。余計な作業を行わなくても、ただ歩いたりしゃべったりしているうちに自然に発電できる、そんなエネルギー再利用の仕組みを作ることが重要だと考えています」
子どものころに芽生えた疑問に端を発した速水の研究は、20年近くの歳月を経た今、音力発電・振動力発電という次世代エネルギーインフラに結実しようとしている。人に与えられた道ではなく、「自分のやりたいこと」を貫く速水の生き方が、前人未踏の道を切り開く原動力となったことは言うまでもない。
「研究であれ何であれ、好きなことをまず選んだ方がいい。そうすれば、大変な時期や、うまくいかない時期も乗り切れる。自分が好きなことをやってもうまくいくということを、ぜひ知っていただきたいと思います」
「研究ではあまり成果が出ない時期がしばらく続き、ある時期、スッと階段を上がるようにブレークスルーが訪れる。そういう成功体験が支えとなって、再び大変な時期が来ても乗り切ることができる。それを繰り返すうちに、徐々に発電効率が上がっていった。研究を始めたころと比べると、今では20倍以上の発電効率が得られるようになりました」
そんな速水の研究を、シーズの発掘に余念がない企業が放っておくはずもなかった。初めて受託研究の声が掛かったのは大学3年目の時。大学を通じて知り合ったある社長のつてで、神奈川県の技術イベントに音力・振動力の発電機を展示したところ、ある企業から防音壁の開発を依頼されたのだ。音のエネルギーを電気に変えれば、音を小さくして防音壁に応用することができる。自分の研究が商品化されて世に出ることの喜びを、速水は初めて味わうこととなった。
とはいえ、大学発ベンチャーを目指すことに全く迷いがなかったわけではない。大学卒業を間近に控え、友人が次々に就職を決めていく。その姿を見て心が揺れ、経験のためと思い就活らしきものをしてみたりもした。
「でも一度始めたことは簡単に変えたくない、というのが僕の性格。一度就職したら、たぶんベンチャーはやらないだろうと思い、就職はしないことに決めました」
無意識に発電できる仕組みを作る
修士課程に進学した2006年秋、慶応藤沢イノベーションビレッジ(SFC-IV)内に株式会社音力発電を設立。同ビレッジのスタッフや大学OB会の支援で人脈も広がり、ビジネスプランの作り方からプレゼン、ビジネスマナー、名刺の渡し方に至るまで、多くのアドバイスを受けながら事業を育てていった。現在は企業からの受託開発が中心で、約20件のプロジェクトが進行中だ。コクヨオフィスシステムでは、廊下のLED誘導灯や非常階段の避難誘導灯などに応用する目的で発電床が使われている。このほか、工場機械の振動を利用したい、携帯電話や携帯情報端末などのモバイル電源やユビキタス電源に応用したいといった声も多いという。
「例えば、携帯電話のバッテリーが切れそうになったとき、ボタンを押すだけで充電するとか、歩くだけで発電する“発電靴”の踵から小型バッテリーを取り出して充電するとか、いろいろな応用が考えられます。商品化まであと2、3年はかかると思いますが……」
速水の研究成果はエネルギー問題や環境問題の観点から、社会的にも大きな注目を集めつつある。速水の発明した発電床の技術は、慶應義塾大学とJR東日本の産学連携プロジェクトに採用され、その後この産学連携プロジェクトの一環として、2006年にはJR東京駅、丸の内北口改札で発電床の実証実験がスタート。将来的には照明やエスカレーターの電力を発電床で賄う計画が進んでいる。また、2008年12月には日本銀行本店前で発電床を使った「ECO EDO日本橋発電所点灯式」が行われた。これは銀行前庭のヒマラヤ杉に付けた3000個分のLED電飾を発電床で点灯する企画で、点灯式には小池百合子元防衛相や白川方明日銀総裁も駆け付けた。
「私がやりたいのは、日常生活の中で捨てられている、音や振動の膨大なエネルギーを有効に利用することです。中でも重要なのは、こうした発電を“無意識に”行えるようにするということ。余計な作業を行わなくても、ただ歩いたりしゃべったりしているうちに自然に発電できる、そんなエネルギー再利用の仕組みを作ることが重要だと考えています」
子どものころに芽生えた疑問に端を発した速水の研究は、20年近くの歳月を経た今、音力発電・振動力発電という次世代エネルギーインフラに結実しようとしている。人に与えられた道ではなく、「自分のやりたいこと」を貫く速水の生き方が、前人未踏の道を切り開く原動力となったことは言うまでもない。
「研究であれ何であれ、好きなことをまず選んだ方がいい。そうすれば、大変な時期や、うまくいかない時期も乗り切れる。自分が好きなことをやってもうまくいくということを、ぜひ知っていただきたいと思います」
プロフィール:
はやみずこうへい
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科在籍中に、音力発電を設立。
音のエネルギーや振動のエネルギーを利用した発電方法を開発し、
多くの企業・団体から評価を受けている
はやみずこうへい
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科在籍中に、音力発電を設立。
音のエネルギーや振動のエネルギーを利用した発電方法を開発し、
多くの企業・団体から評価を受けている