次世代エコ発電の先駆者 | 株式会社音力発電 代表取締役 | 速水 浩平
自分の好きな道を選んだ方がいい。
そうすれば、苦労も乗り越えることができる。
日常の中に洪水のようにあふれる音、音、音。この膨大な音のエネルギーを利用して発電できないかと考えた1人の研究者がいる。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程1年生で、株式会社音力発電の代表取締役でもある速水浩平だ。そうすれば、苦労も乗り越えることができる。
速水の研究テーマは、音のエネルギーを利用した「音力発電」と、振動のエネルギーを利用した「振動力発電」。後者は「音も振動なら、振動そのものを発電に利用することも可能なはず」という発想から生まれたものだ。従来は「音のエネルギーは微弱で発電に適さない」というのが定説で、音を利用して発電する試みは世界でも類を見ない。一方、振動力発電の研究例はあるものの、これらはいずれも磁石とコイルを使用した「電磁誘導」の原理を応用したもの。「圧電素子」という特殊な素子を使った方法で、効率良く発電する仕組みを考えたのは、速水が世界初となる。
「例えばヨーロッパでは電磁誘導を使った発電装置が開発されています。これは発電量は多いのですが、振幅が大きくないと発電することができない。このため、『発電床(床の上を人や物が移動することによって発電を行う床型発電機)』に応用しようとしても、床がフニャフニャするので歩きにくく、日常品としては使いにくいのです。その点、圧電素子を使った発電床は、日常品として使えるというメリットがある。私が圧電素子を採用したのは、広く社会に浸透できる技術を開発したかったから。現段階で最も使い勝手が良く、発電効率もいいのがこの方法です」
この音力発電や振動力発電を応用すれば、道路や橋、ひいては街全体が1つの大きな発電所となる。人間は膨大なエネルギーを消費することで文明を維持しているが、この方法なら、排出されたエネルギーを再利用して“地産地消”することが可能となるのだ。近年、エコロジーの観点からも速水の研究は大きな社会的注目を浴びている。27歳の速水はどのようにして、この画期的な研究成果を生み出すことができたのか。
小学校時代の発想がきっかけ
子どものころから人まねがきらいで、創意工夫や発明が得意だった。小学校時代、夏休みの自由研究で、耐震性を考慮した「揺れに強い形」を考案したこともある。「でも、先生にウケがいいのは『朝顔の観察』のような発表。私の研究はあまり評価されず、それが不思議だった。今思えば、先生もどう評価していいか分からなかったんでしょうね」音力発電につながるアイデアが生まれたのも、小学校高学年の時の授業がきっかけだった。モーターは電気で回るが、モーターを回すことで発電もできる。同様に、スピーカーが電気で音を鳴らすとすれば、「音で電気を作る」ことも可能なのではないか――。
この素朴な疑問は、後年、音力発電という独創的なアイデアを生むことになる。
高校2年の時、速水の将来を決定付ける出来事が起こる。当時通っていた予備校の講師から「これからは大学発ベンチャーが面白い」という話を聞き、「自分のやりたいことが何でもできる社長になりたい」という思いが芽生えたのだ。もともと医者志望で進路の選択には迷ったが、最終的には大学発ベンチャーを目指すことを決意。この分野では国内トップクラスと目される慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)に進学した。
大学では「自由に研究をさせてもらえる」という理由で武藤(たけふじ)研究会に所属。このほか、人間工学やインダストリアルデザインから会計、知的財産権、交渉に至るまで、ベンチャー企業に必要な知識も一通り学んだ。
音力発電の研究を本格的にスタートしたのは、大学2年目の時。3カ月間の研究成果を研究会の中間発表で発表したところ、ある企業関係者から「音はエネルギーが小さいので発電量も小さい。だから、やめた方がいい」とアドバイスされた。しかし、反対されたことは速水を一層奮起させる結果となった。さらに3カ月間研究を続け、改良を加えて「音力発電」装置や「発電床」を開発。これは、人が足踏みをする際に発生する振動エネルギーを電気エネルギーに変換して発電するものである。研究会の最終発表の際に、この研究成果をデモで見せたところ、前回は否定的だった人が「すごいじゃない」と感嘆の声を上げた。周囲の反応に励まされて、速水はこの研究を続けることを決意。学内のビジネスプラン・コンテストにも出品し、改良を重ねて学内の最高賞を取るまでになってゆく。