東大大学院修了後、通産省(現・経済産業省)に入省した長尾行造氏。2年目に資源エネルギー庁勤務となり、ここで外部のコンサルタントと共に働いた。彼らの出すレポートを見ていて、コンサルタントの仕事に興味をもったという。
01年に外資系戦略ファームのコンサルタントに転身。メーカーの新事業戦略などを担当したが、「“作文屋”にはなりたくない。もっと世の中への影響を実感したい」と、コーポレイト ディレクションの門を叩いた。官公庁の民営化プロジェクトやベンチャーのIPO支援などに携わっている。
「ドキュメントのスゴサだけでなく、顧客と議論を尽くし、顧客の視野を広げていく。そんなプロセスにコンサルタントの価値があると思います」 |
1. 私の修行時代
◆役所で最強の“段取り術”を叩きこまれる
通産省入省1年目、国会答弁の資料作成を担当。原案作成から始まり、10箇所以上もの関係部署・他省庁に書類を投げ、合意を取っていく。だが、ナントその制限時間はたったの2時間。「まさに関係部署を走り回り、内容を何回も調整する。ちょっとでも段取りを間違えるとアウト。だから、仕事の流れを30秒単位で組みたてる必要があった。これを1年やると段取りミスはなくなる」。仕事の流れが完璧に見えていないと、いい資料は作れない。この経験から鍛えられた段取り術が、コンサルタントとしての独自の強みになっている。「どこに締め切りを置き、どこでどう人を動かすか。その工程表を常に頭の中で描いています」 |
2. 私の修羅場経験
◆毎日移動600キロの超過密スケジュールを経験
たまたま顧客の中にベッタリ張り付くプロジェクトと、最終報告に向けて顧客と頻繁に会議をする仕事が重なったことがある。2つとも地方企業で、距離は600キロも離れている。1日に飛行機で両社を往復。徹夜の移動という過酷な日々が1週間も続いた。「朝にA社で会議をし、午後にB社に入り、また夜にA社で会議を行うという超過密スケジュール。役割分担とスケジュールの段取りを完璧に考え、これはこうしましょう、次は○時から会議をしましょう、と自分がイニシアチブを取り、やるべきことをキッチリやることで乗り切りました」 |
3. 師匠との出会い
◆経済産業省時代に、妥協を許さない師匠に出会う
「トコトンやり抜くことの重要性を教えてくれたのは、経済産業省時代の先輩、荒井正喜さん。一番のベンチマーキングになっている」。MBAホルダーの荒井氏の仕事は仮説検証方式。「自分で仕事を探し、仮説検証することで人を説得し、仕事を形にしていく人。部下の育て方も、命令するのではなく、問いを投げるスタイル。モチベーションが上がり、力もついた」。人を完璧に説得できるまで、徹底して弱みを補強し、ロジックを固めていく。「ゴールの寸前で転んだら、すべての努力がムダになると、決して妥協を許さない。全力を尽くす。そんな姿を見てスゴイ!と思った。僕も荒井さんと同じように部下を育てたい」 |
4. 一皮むけた体験
◆自分の力で競合ひしめくコンペを制した
去年の年末。10社が競合するプロジェクトのコンペに参加。「自分で資料を作り、プレゼンをして受注を獲得。このとき、一皮むけたと思った」。勝った理由は最終的な結論が明確にイメージできたこと。「しかし、その結論はいえない。チラリズムでどこまで見せるか。ここと、ここを考える必要がありますよねと、論点を見せた」。深く考えてくれそうなところがよかった、と顧客に言われた。「自分で獲得したプロジェクトは、逃げ場がなくプレッシャーは大きい。でも、ヤリガイも大きかったですね」 |
5. 私のオンとオフ
◆愛車のハンドルを握ってリフレッシュ
趣味はドライブ。「週末に出社するときは車で往復。不思議と休んだ気になれるんです。首都高をツーシーターのオープンカーで飛ばすと、爽快ですよ」。年に1回は海外旅行に出かける。「場所はだいたい妻が好きなヨーロッパ。昼は遺跡巡りで、夜はバーに飲みに行く。レンタカーを借りて、アウトバーンを230キロで飛ばしたときは、本当に最高でしたね」。週末はジムで汗を流すのが日課。「頭だけ疲れている状態だと安眠できないので、体も疲れさせることでリフレッシュしています」 |
5. 私の夢
◆世の中の役に立つことをしたい
「夢は日本をよくすること。元役人ですから(笑)。日本はポテンシャルが高い国なのに、舵取りがヘタで損をしている。過去のしがらみなど、捨てるべきものをしっかり捨てればいい国になる。そんな元気な日本にするために、なにかやれたら嬉しいですね」。コンサルタントという職業にこだわっているわけではないが、当面は今の仕事で経験や勉強を積んでいくつもりだという。 |