20代の貯金は善か悪か?  

カネの活かし方講座

《2005年6月号より抜粋》

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若手ビジネスパーソンの平均預貯金残高は31歳と32歳、自己投資割合は29歳と33歳の二つでピークを迎えている。この時期は結婚(結婚後の出産)や転職、転居・住宅購入などを経て、相応の出費を要する時期とも重なる。30歳以降、自己投資する割合は減少していくが、33歳だけが上昇する。転職限界説が囁かれる35歳を前に、「何かせねば」との意識が働くためだろうか。同時期の預貯金残高も減っており、微妙な金銭感覚が垣間見える。

収入増もキャリアアップも黙っていては手に入らない時代。type世代は限られたおカネを自己投資に回すべきか、預貯金や資産投資に励むべきなのか。経済ジャーナリストの荻原博子さんは、「好きなことに使うのが基本」と前置きしたうえで、こうアドバイスする。「大企業でも倒産するし、会社の都合でリストラされることもある。年収分のキャッシュ(現金)が手元にあれば、雇用保険と合わせ2年はしのげる。デフレ下では、株などの長期投資よりキャッシュを持つのが一番」。貯めたキャッシュの一部は、いつの日か自己投資に回すこともできる。

とはいえ、キャリアアップやスキルアップに対する自己投資の重要性は荻原さんも認めている。自己投資を怠ったがために、キャリアそのものを失うリスクがあるからだ。「全額自費が苦しい場合は、教育訓練給付金制度などの公的補助もある」(荻原さん)という。

預貯金か自己投資かという二者択一ではなく、自分にとってベストなおカネの活かし方を身につけておきたい。


■20代はムダな消費よりお金で「時間を買え」

株式会社産業再生機構 代表取締役専務
冨山 和彦氏
1960年生まれ。東京大学法学部を卒業後、ボストン コンサルティング グループに入社。
翌年、コーポレイトディレクションを設立し企業再生に関わる。03年より産業再生機構に参画

20代・30代のお金の使い方となると、正直なところ答えるのが難しいですね。私自身、25歳で社会人になり、26歳で会社設立に関わり、27歳には結婚と、慌ただしい20代を送ってきたのですが、その間、お金についてあまり意識していなかったのが現実です。特にお金を持っていたわけではないけれど、貧困と言うわけでもないので、執着がないのでしょう。だから自分に対する投資とか、将来のための貯蓄しようといった意識は、あまりなかったですね。

あえて言うなら「時間を買う」ために投資していました。とにかく忙しかったこともあり、効率を常に考え、いかに時間を節約できるか、そのためにお金を使っていましたね。時間だけは誰にも平等だし、取り戻すことができないものですから。

公私共に忙しくしていれば、お金は自然に出て行きますが、気をつけていたのは「お金に使われない」こと。お金はよりよい人生を送るための手段でしかないわけで、自分が主人でいなければいけない。じゃないと、嫌な仕事もしなくちゃならないでしょ(笑)。

コンサルタントは自由業のようなものですから、結婚して30代になって、明日急に仕事がなくなったときの保障のために、少しは貯蓄するようになりました。

でも、お金に縛られるのは嫌なので、多額のローンなど、固定費がかかるような買い物はしていません。家も売りましたしね(笑)。

30代前半までは、お金を貰って勉強している「社会人としてのトレーニング期間」だと思っています。その期間に鍛えたものはすべて筋肉になる。だから、寸暇を惜しんで活動していました。まさに「よく働き、よく学び、よく遊んだ」時代です。そのための資源が時間であり、体力だったと言えます。

だから若い人たちは、いま自分は何がしたいのか、自分を鍛えるためには何をすべきなのかを考えるべきだと思います。20代は若いうちしか取れないリスクをとり、ハードワークに取り組みながら、自分のキャパシティを広げていくための期間だし、それが、将来の自分への重要な投資になると思う。だから、20代のうちから年収を気にして転職先を決めるのはナンセンスですよ。だって、年収100万円の違いなんて、40代でいくらでも取り戻せるし、それで右往左往するのはカッコ悪い。それよりも自分を成長させるやりたいことに取り組むことが、一番の投資になるんじゃないかな。


■お金は自ら稼ぐもの 願望も自ら実現するもの

アパグループ代表
元谷 外志雄氏
高校卒業後、小松信用金庫(現在の北陸信用金庫)に入社。
71年、27歳で注文住宅会社を創業。
84年に始めたホテル事業とマンション事業で今、全国に直営45のホテル(設計中含む)と、
2万戸以上の住まい(戸建・賃貸ビル・マンション)を供給

小学生の頃から、「金は自ら稼ぐもの」という自覚があった。当時すでに、病床から貸間業の指示を出す父の手足となり働いていたからだ。事業家の父が中学2年で他界すると、長男の私が家計を預かる一家の主に。貸間業の管理はもちろん、自転車預かり業などで生活費を稼いだ。子供ながら生活や金銭感覚は大人そのものだった。

高校生のときには30歳までに起業すると決めていた。「願望は自ら実現するもの」と思い、そのための最短ルートを常に探していた。卒業後に地元の信用金庫を選んだのは、転勤なしに金融の仕組みと実務が学べるためだった。

早く経営側と対等の立場になりたい。入社した私は労組の幹部となるべく、最大勢力である青年婦人部の支持を2年後に取り付け、20歳で労組書記長に就任。さらには北陸地区の副議長に就任した。20代半ばで経験した労働争議を経て、職員待遇の大幅な引き上げを実現させた。その後、超低金利の職員融資規定を作らせ、自分が第一号の利用者に。借りた資金で住宅用地を購入すると、折からの不動産ブームで価値が高騰。かなりの利益を上げた。入社して9年。起業すべき時期と考え、起業に備えて長期住宅ローン制度の必要を訴え作った。

そこに絶好の機会が訪れる。大蔵省指導による金庫の合併促進という情報である。合併の成否は、労組の最高実力者の私の意向にかかっていたからだ。

私はここがチャンスと感じ、金庫の実権を握っていた副理事長に掛け合った。合併実現に協力する代わりに起業する企業の名に「信金」の社名を冠することを要求し、加えて、資本参加と副理事長に会長となってもらうことも求めた。

当時の私はまだ27歳。信用の重要性はわかっていた。結局、金庫は3つの条件をすべて承諾、私は前倒しで起業に成功した。

振り返ると、20代は組合活動に奔走する傍ら、全国各地をヒッチハイクとバイクで廻る日々。本業以外に家業の不動産賃貸業や不動産仲介などのアルバイトもしていたので、節約して貯めるという発想はなかった。長くない人生、目標を早く設定し計画的に生きることが重要。若いうちから良い服を着るのも良い車に乗るのも良い。お金を使い、より広い世界を見ながら多くの経験を積んでほしい。

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