おカネへのこだわりは強い。「初任給が高い」と大手IT系ファームを選んだのは、その一例だ。
入社6年目、人事戦略チームに所属する松田一也氏はマネージャー職に昇格した。年収は900万円弱。だが、昇格後の半月で退社。国内証券会社のディーラーへと転身してしまう。
ファームは入社当時のパートナー制から株式会社に移行。個人の裁量が狭まり、コンサルタントのサラリーマン化が進んだように思えたという。
「自分のキャリアで得られる市場価値は年収1000万円が限界。出ていくお金も多く、月給100万とかの会社員でいては、財産が作れない。月収で1000万単位で稼げる人になりたいと思った」
転職先の証券ディーラーは、個人が稼いだ利益を会社と折半する仕組み。固定給が少なく一か八かの世界ではあるものの、収入はほぼ青天井。松田氏にはそれなりの自信があった。個人的に始めた株取引ではコンスタントに儲けていたし、ディーラーとして成功した元同僚に株を指南したのは自分だったからだ。
市場価値を下回る分は将来の起業に向けた投資
しかし、転職は失敗に終わる。新人ゆえ任される資金量が小さく、利益を上げにくい状態が続いた。
「『損切りを早く』が合言葉の職場だったので、自分のキャリアと収入もいち早く損切りすることにした」
松田氏は半年で退職。年収換算では500万円以下しか稼げなかった。
その後転職したエム・アイ・アソシエイツは、大手IT系ファーム出身者を中心に設立されたベンチャー企業。松田氏は創業メンバーとして入社。コンサルティングのほか、人材教育パッケージの開発などを手がける。推定年収は800万円だ。
今は同社を大きくするのが目標だという。IPOに成功すれば一財産築くことも可能だ。だが、それだけでは「満足できない」という。
「前職の失敗で月に1000万円以上稼げるキャリアを真剣に考えるようになった。なら起業してビジネスを成功させるしかない。今の仕事は、経営スキルや起業のノウハウを身につけるための投資だと思っている」
実際、いま現在でも松田氏に1000万円以上を提示する企業はある。フリーのコンサルタントなら、年収2000万円を稼ぐ人も少なくない。市場価値と現年収の差、200万円が、将来への投資分というわけだ。
ただし、収入へのこだわりは必ずしもおカネに対する執着心ではない。
「50歳を過ぎておカネのために働きたくはない。いつかは利益追求でない飲食ビジネスをやりたい」とも語る。 |