大企業→ベンチャー企業へ転職した人の現実

ここに集まったのは、自分の「やりたい仕事」を求めて、「大企業社員」の肩書きを捨てた人々。転職後、彼ら・彼女らは「理想の現実」を見つけられたのか? 見つけられなかったのか? 《2005年10月号より抜粋》
ベンチャー企業特集
 
 
田中裕子さん
(仮名・29歳)
 
大手生命保険会社→
ITベンチャー
 
大手を捨てたら、「もう安定はない」と覚悟したほうがいい
 
私大卒業後、大手生命保険会社入社。経理・財務を担当。2年前、友人の紹介でITベンチャーの広報に転職。会社は上場に向けて準備中。
 


 
秋山 滋
(仮名・30歳)
 
大手証券会社→
ITベンチャー
 
ベンチャー=社長の会社、社長と相性が悪かったら最悪
 
国立大学卒業後、大手証券会社の営業マンに。2年前、取引先のITベンチャー社長に声を掛けられ転職。現在は新事業のリーダー。
 


 
山本雅雄
(仮名・28歳)
 
大手コンサルティング会社
→ITベンチャー
 
10年後に残っているベンチャーは1000分の1の確率
 
私大卒業後、都銀入社。支店の融資マンを2年やった後、外資系ITコンサル会社のコンサルタントに。昨年、ITベンチャーに入社し経営企画部に勤務。
 
 
大企業の古臭さに嫌気
ツテを頼って潜り込む


―本日は、大企業を飛び出しベンチャーに転じた皆様に現在の心境の本音を語っていただきたいと思います。まずは、大企業を辞めたキッカケについて教えてください。

秋山 僕は、大手証券会社出身なのですが、入社3年目くらいから、やっていた仕事に疑問を感じていました。明らかに自社にとって有利な条件で仕込んだ債券や怪しい会社の未公開株などを、金融がなんたるかを知らない相手に売りつけることに疲れてしまったんです。

山本 そりゃ大変でしたね。僕は、最初の就職先の銀行を1年で辞めて、外資コンサルに入りました。でも、2年もやると飽きがくる。同じような会社に、同じようなパッケージばかり入れているんですから。それに、プロジェクトが終わったらクライアントとの縁は切れてしまう。立ち上げから成功の瞬間まで見届けたいと思うようになったんです。

田中 カッコいいですね。私はそんないいもんじゃないです。前の会社があまりに古臭くて、嫌気がさしただけ。大企業の人って、「ウチの社員は優秀だ」とかよそ様にも平気で言うでしょ。私はいつも、「アンタたちそんな優秀かよ」と心の中で突っ込んでいました(笑)。それに、苦手な女の先輩がいて、ちょっとミスしただけで、「アナタ、何年目?」なんてイヤミばかり言われて・・・。ストレスで10円ハゲができちゃったんです。

秋山 大企業の人って、あの人には逆らっちゃいけないとか、あの人には逆らっていいとかそんなことばかり考えている(笑)。

田中 そう。だから、辞めるときも大変でした。「そんな海のものとも山のものとも分からん会社に行くのか」なんて叩かれて。送別会で部長に「今、ここを離れるのはどうかと思うよ〜」とねちっこく言われたときは、「あ〜、辞めてよかった」と心底思いました。

―皆さんなかなか苦労されてますね。転職先はどうやって見つけたのですか?

山本 知人の紹介です。面白いもので、飲み会やメールなんかで「辞めたいと思ってるんだよね」なんて漏らすと、イイ話が舞い込むんですよね。今の会社のサイトは前からよく利用していて、「面白そうだな」と思って、まずは会社に遊びに行ったんです。そうしたら、社長から「キミ、コンサルなんでしょ? バイトでいいからうちの会社コンサルしてよ」なんて言われて、ほぼボランティアで計画書や事業プランなんかを作ってあげていたら、そのうち「いつ入社すんの?」と言われて・・・。こりゃもう縁だなと思って入社を決めました。


大組織の歯車から
社長の奴隷に!?


秋山 僕も似てますね。今の会社の社長は前の会社の取引先だったんです。僕の場合、前の会社が辛くなっちゃっていたので、後先考えず辞めちゃったんです。で、お世話になった今の社長に退社の挨拶に行ったら、「ウチに来いよ」と言われて。まぁ、それを期待して行ったんですけどね(笑)。

田中 私はオーソドックスに人材紹介会社経由です。ITベンチャー業界のことなんて何も知らなかったのですが、「広報」という職種に興味があったので、それで探してもらったら、そこしかなかった(笑)。

―では、皆さんの転職後の実感値を聞かせてください。

秋山 う〜ん。いいことと悪いことが半々ですね。いいことは、社長をうまく説得しさえすれば企画が通りやすいこと。悪いことは、社長が以前いた会社から引っ張ってきた部長クラスのレベルが低いこと。ベンチャーだからフラット組織だと思ったら、超ピラミッド型(笑)。大企業の「歯車」がイヤでベンチャーに来たら、今度は「奴隷」になっちゃった、みたいな(爆笑)。

山本 僕は、いずれは自分で会社を興すのが目標なので、その修業ができるという面では満足かな。でも、秋山さんの気持ちはよく分かる。それに、ベンチャーに来ると、あまりに業務が体系化されてないのでビックリする。大手なら絶対あるようなグループウェアもない、企画書の雛形すらない。それを力技でイチから作るので、えらい時間がかかる。あとは給料ですね。安いの一言です(苦笑)。

田中 確かに給料は減りましたね。退職金もほとんどないですし。社会的信用度は下がるし。転職して引っ越すとき、不動産屋に行って「ベンチャー勤務って信用がないんだな」と痛感しました。それ以外は満足かな。当たり前のことを当たり前にやっているだけで、「すげー」なんて評価されるし。ITベンチャーの人ってオタク体質の人が多いから、事務処理能力が高かったり、言葉遣いがまともってだけで尊敬されちゃう。


西麻布にイタリア料理屋を
開店する“ウッカリ社長”


―よくベンチャーは「社長との相性がすべて」だといいますが、社長についてはいかがですか?

秋山 確かに、ベンチャーのほとんどは社長の魅力だけで回っている。だから、合わないと悲惨です。ウチの社長は、人柄はいいんですが、典型的な開発屋なんですよ。数字ってものが分かっていない。

山本 技術への思い入れが強すぎるんですね。とある開発出身ベンチャー社長は、講演会で自分が開発した技術を批判されて、壇上から降りて掴みかかったそうです(笑)。ある意味ピュアなんでしょうけど。ウチの社長も、学生起業家出身だから常識ってものがない。ホラ、サラリーマンを経験した人は、新人時代「お前口の利き方がなってないんだよ」なんて怒られるでしょ? そういう経験もないから、子供っぽさが抜けない。

秋山 そういう面でいえば、社長の「前職」って、社長のキャラを見極める上で重要な要素になるかもしれない。銀行員出身の社長なら、「机にはモノ1つ置くな」という社風だろうし、営業が強いといわれる企業出身の社長なら軍隊調だろうし(笑)。

田中 確かにそうですね。ウチの会社の社長は、典型的な精力的ベンチャー社長タイプ。よくも悪くもベンチャー社長って、会社=オレのものという意識が抜けない。だから、ワンマンもいいとこ。「スピード経営」なんて自慢していますが、朝令暮改なだけです。扱いを覚えればラクですが。

―いい社長、悪い社長はどうやって見分けるんですか?

秋山 私腹をこやして、奥さんにイタリア料理屋なんて持たせるタイプは最低ですね(笑)。「オレのやってる店来る?インターホンで入るんだよ」なんて言いたいんですよ。西麻布あたりには、そんなウッカリ社長≠ェ作った店がいっぱいある。

山本 「喜び組」をハベらす社長も最低です。昨日キャバクラで見た女が秘書として採用されていたりする(笑)。公私混同も甚だしい。

田中 いますね。そういう社長。小金をもつと、子供のとき憧れていたものを「オトナ買い」したくなっちゃうんでしょうね。

秋山 あと最悪なのが、「逃げる社長」。証券会社時代、取引があった社長がそう。1週間前に、ゴールドカードで中華をご馳走になって、「やっぱ、金もってるんだな」と思っていたら、夜逃げされた。ありとあらゆる債権者が探し回ったんだけど、ついに発見されていない(笑)。

―最後に、これから未上場ベンチャーを目指す人にアドバイスをお願いします。

山本 10年後に残っているベンチャーは1000分の1。それだけ確率が低い世界に賭けるんだってことを、自覚してきてほしいですね。

秋山 はっきり言って、上場後有名になってから入社したってメリットはありません。持ち株1つもたせてもらえないし、上は「先住民」が占拠しているから出世もままならない。やはりベンチャーは、「そんな会社、誰も知らないから行くな」って呼び止められるぐらいの時期に行かないとうまみはありません。

田中 確かに、弱小ベンチャーは買収されるリスクが常にあるし、潰れる可能性もたくさんある。常に先の戦略を描いていないと、シンドイかもしれませんね。

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