新時代の「営業マン」に期待すること

これからの若手営業マンに求められるものとは何か。 営業マンとしてのキャリアを活かして各界で活躍するリーダーから、 座右の銘とメッセージを送ってもらった。 《2006年1月号より抜粋》

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営業とは、心と心で通じ合うこと

松田公太
フードエックス・グローブ株式会社 代表取締役社長


1968年宮城県生まれ・東京育ち。父の転勤で73年からセネガルや米国で過ごし、86年帰国。90年筑波大学国際関係学類卒業後、三和銀行入行。退行した翌97年タリーズコーヒー1号店を銀座にオープン、98年タリーズコーヒージャパン設立。2002年より株式会社体制へ移行、フードエックス・グローブに商号変更
■ひとりの若き銀行マンが起業を志して27歳で退職。

「金なし、コネなし、肩書きなし」の三重苦をものともせずに体当たりの交渉を重ね、遂にはアメリカのスペシャルティコーヒーチェーンの日本での販売権を獲得した元銀行マンの名は松田公太氏。まさに立志伝中の人物である。 

松田氏は父親の転勤でアフリカ、アメリカなどの海外生活を経て帰国、筑波大で学んだ後、90年三和銀行に入行。シアトル滞在中、タリーズで飲んだコーヒーの味に感激した松田氏は、日本でのチェーン展開をめざして起業準備のため退職する。タリーズ本社への熱烈なアプローチの末、大手流通業との競合を制して日本での販売権を獲得。97年のタリーズコーヒー銀座1号店オープンを皮切りに、今では全国に約300店舗を構える一大コーヒーチェーンへと成長させ、そして更に今年、日本における「Tully's」商標権を完全取得した。

無名の若者が、なぜこれほどのめざましい成功を手にできたのか。
その秘訣は彼の類まれなる営業力にある、といっても過言ではない。


■相手のことを徹底的に好きになる


そのずば抜けた営業センスは、三和銀行時代に2年連続で優秀外交賞を受賞したことからもうかがえる。だが、それも「将来起業するという目的があったからこそ」と松田氏。銀行に就職したのも、多くの経営者から経営哲学を学び、財務リテラシーと営業力を身につけるためだった。新規外交の仕事についてからは、常に営業目標の倍以上を自分の目標に設定した。あえて自分に高い目標を課したのは、「自分の給料の何倍もの利益を上げるだけの実力がなければ、大手銀行の看板をはずして独立したときに通用するはずがない」という切実な思いからだったという。

では銀行員時代に、松田氏が学んだ営業の本質とは何だったのか。それは「相手のことを徹底的に好きになること」だ、と松田氏は語る。

「相手のことを知れば知るほど、相手のことを好きになっていく。その会社の過去の歴史や業績まで知りたくなるし、いろいろな提案もできるようになる。何よりも相手を心底好きになると、その情熱が伝わるんですね。誰だって自分や自分の会社が大好きな人間を無下にできるわけがない。だんだん『こいつと取引してみようかな』という気持ちになってもらえるわけです」

たしかに松田氏は一風変わった銀行マンだったようだ。経営者に会っても融資の話など一切せず、創業当時の思いや経営理念について聞きたがった。そんな松田氏を「面白い奴」と感じ、取引してくれる経営者が増えていったという。 

相手のことを知り、とことん惚れ抜いた上で、真摯かつ情熱的にアプローチする。松田氏の営業マインドは、タリーズの日本での立ち上げの際、いかんなく発揮された。

シアトルでの運命的な出会いですっかりタリーズに惚れ込んだ松田氏は、帰国後すぐにメール攻勢を開始。何度無視されてもメールを送り続け、データを添えて日本でのビジネス展開のアイデアを訴えた。同社オキーフ会長の来日情報をキャッチすると、滞在先の帝国ホテルに出かけて直談判。その熱意が実り、遂にタリーズコーヒーとの契約に漕ぎつけたのだった。


明確な夢と目標を持てば夢に近づくことができる


それにしても、松田氏のチャレンジ精神には驚くほかはない。肩書きや大手資本のバックアップがあるわけでもない無名の若者が、なぜ、単身これほどの大勝負に打って出ることができたのか。

「それは私が明確な夢と目標を持っていたからだと思います。海外で育った経験から、ハイスクールの頃には『将来起業して日本の食文化を世界に広めたい』と心に決めていた。日本に帰国して筑波大学に入学したのも日本の文化を知るためだし、上下関係の厳しいアメフト部に入部したのも日本社会のしくみを学ぶため。銀行に就職したのも起業に必要な知識や経験を身につけるためでした。『食を通じて文化の架け橋になりたい』という夢のために、小さな目標を掲げて少しずつ達成していったわけです」

その意味では、タリーズの成功も夢に向かうひとつのステップでしかない、と松田氏。

「私の夢は、世界に通用する日本のフードチェーンを創り、『食を通じて文化の架け橋になる』こと。その目的はまだ達成できていませんが、タリーズが1店舗の時代よりは300店舗になった今のほうが、もしかすると少しだけ夢に近づけているのかもしれない。目標とは夢に向かって突き進む上で“道標”となるもの。それを一つひとつ積み上げていけば、いずれは目的が達成できる。だからこそ若手営業マンの皆さんには、『自分は本当はこれがやりたい』という明確な目的を持って仕事をして欲しいですね」

大きな夢に向かって常に高い目標を設定し、挑戦を続ける松田氏。その卓越した営業力を支えるのは、「人間が好き」という溢れるような思いである。

「がんばって生きてきた人たちの間には、どこかで必ず触れ合える部分がある。営業とは心と心で通じ合える部分があるかどうかにかかっている、と思いますね」

NO FUN NO GAIN

−−楽しさなくして得るものなし。今の仕事を楽しみながら精一杯に取り組めば、必ずや自分の成長にとってプラスになる。営業活動から利害関係を超えた信頼が生まれたとき、感動が生まれ、夢が実現に向けて動き出す−−

それが松田氏の揺るぎのない信条である。


相手の信任を高める技術が夢を引き寄せる

藤原和博
杉並区立和田中学校校長


1978年東京大学経済学部卒業後、リクルートに入社。入社後すぐに2年連続トップセールスを記録、東京営業統括部長、新規事業担当部長などを経て96年同社初の「フェロー」となる。2003年、東京都初の民間人中学校長として杉並区立和田中学校校長に就任。「よのなか科」開設などユニークな視点から教育改革に取り組んでいる
単に売上を上げて会社の収益に貢献することだけが、営業ではない。 顧客の魅力を引き出すような提案をすれば、顧客の成功に貢献しながら自分も売上を達成できる。それこそが「企画営業」の醍醐味といっても過言ではない。

リクルート時代に徹底した企画営業を実践し、営業マンとしてのキャリアを活かして教育改革に取り組んでいる人物がいる。現在、東京都初の民間人中学校長として杉並区立和田中学校で辣腕をふるう、藤原和博氏だ。

「営業とは人生の基本技術で、どんな仕事をするにも役に立つ。僕が校長として取り組んでいるのは、学校の魅力作りをしながら広報する仕事。いわば教育の現場でトップセールスをめざしているわけです」

東大経済学部卒業後、リクルートに入社。いきなり2年連続でトップセールスを記録し、2年間で7億円を稼ぎ出した。藤原氏は、理由はいくつかあるが、と前置きした上で、成功の理由をこう分析する。

「それまで2000万円の取引をしていた相手に2、3億円の企画を提案するなど、相手をビックリさせる企画を出すことが非常に面白かったんです。リクルートは企画営業なので、学生の意識や業界動向などの調査結果を基に、顧客の企業イメージを向上させて採用増に結びつけるための提案をするわけです。僕はもともと戦略系コンサルタント志望だったので、顧客企業の知られざる魅力を引き出し、『相手の会社を変える』ことについては基礎知識があった。採用の世界にマーケティングの概念を持ち込んだのは、リクルートでは僕が最初だと思いますね」

■営業の技術とは相手の信任を高めること 

だが、顧客に2億円の取引を急に持ちかけても、誰もが成功するとは限らない。
どうすれば成功できるのだろうか。

「要は顧客からクレジット、つまり信任を得ることです」と藤原氏。
クレジットが業績に結びついた好例として、リクルート時代の上司・土屋洋氏のエピソードを紹介してくれた。土屋氏は全国展開を狙うダイエーに対して採用戦略に関する企画書を提出。その中で、採用PR予算からリクルーターの人数、寮の設備や採用後の教育研修プログラムまで、競合他社の事例を調べ尽くして徹底した比較分析を展開した。この企画書が中内功社長(当時)の目に留まり、中内氏に「これを書いた人間に教えを請いたい」と言わしめたという。

「結局、営業の行為とは『クレジットをどう高めるか』に尽きる。クレジットの高い人に多額のお金が支払われるのは、当たり前なんです」と藤原氏。営業マンが顧客の現状を知ることに労を惜しまず、その課題解決にコミットすることが、いかにクレジットを高めるか――そのことを、土屋氏のエピソードは教えてくれる。

では、クレジット蓄積のために営業マンが心がけるべきポイントとは。
「予習復習を欠かさないことですね」と藤原氏は指摘する。

「たとえば、僕はこれまでに30冊以上の本を出しています。和田中にも教材関係のセールスマンがよく訪ねてきますが、驚くことに彼らの半分は僕の本を1冊も読んでこない。訪問する相手の著作も読まずに商談に来る、その神経が分からない。最低でも訪問先のWebサイトを見るくらいの予習はするべき。そんな基本行動ができていない人が多いですね。『こいつは勉強してないな』と思った途端に、相手に対するクレジットはゼロになる。第一印象は大事なんです。その時点で、相手が自分を値付けしてしまうから。初回で10万円の人間と値付けされたら、100万円のプレゼンをやっても通るはずがない。それを2回目、3回目でリカバリーするのはほぼ無理なんです」

だからこそ、あらゆる手段を使って事前に顧客の情報を調べ上げることが大切。その上で、顧客から提示された「宿題」を、相手の予想を超えて返していけるかどうかが、ビジネス成功の決め手になるという。

■クレジットを高めると夢のほうから近づいてくる 

とはいえ、クレジットを最大化し成果を上げるには、個人の力だけでは不十分。「いかに個人×組織の掛け算で全体のクレジットを上げられるかにかかっている」と藤原氏は指摘する。

「会社のブランドだけで勝負している人が多いんですね。誰でも大企業の名刺さえ出せば会ってはくれる。でも、それは前面に立つ個人のクレジットではない。それに気づかず、組織のクレジットだけに溺れている人が多い。『自分のクレジットの半分以上は会社のブランド。それを外したときに自分に仕事があるのか』――そのことを30代以降に自問して自分を磨いたかどうかで、40代以降の人生が変わる。会社のブランドが変わっても通用する個人になれるかどうかは、そこで決まるんです」

営業マンとして個人と組織のバランスをとりながら、掛け算でクレジットを最大化していく。この「クレジット拡大の技術」をマスターすれば、それは人生のあらゆる局面に適用できる。藤原氏自身、営業マン時代に築いたノウハウを活かし、和田中学校の魅力作りと広報活動を展開。その結果、統廃合に揺れる和田中学校の生徒数は3年間で倍増し、藤原氏は教育改革の旗手として全国的な注目を集めるに至った。

「今は時代の変わり目だけに、クレジットを高めれば高めるほど、夢のほうから『私はあなたに実現されたい』と近づいてくる。相手の信任が増えれば、夢を実現する可能性も飛躍的に高まるわけです。大事なことは、目の前の相手に宿題を倍返しする作業を積み上げていくこと。相手の期待以上のことをすればクレジットが高まり、人のエネルギーが集まってくる。それを結集すれば、本来は成功しないようなことも成功してしまうのです」

営業の技術とはどのような仕事にも応用できる人生の基本技術であり、夢を実現する技術でもある――そのことを、藤原氏は身をもって私たちに教えてくれた。

「顧客を知ること」それが営業の本質である

宋 文洲
ソフトブレーン株式会社 代表取締役会長 工学博士


中国山東省生まれ。1985年北海道大学大学院に国費留学したが天安門事件で帰国を断念。学生時代に開発した土木解析ソフトの販売を始め、92年ソフトブレーンを設立。98年より営業など非製造部門の効率改善のためのソフト開発とコンサルティング事業を開始。2005年6月に東証一部上場を果たす
「日本ではここ30、40年間、“体育会系”の営業、泥臭くて度胸と根性がある営業マンがもてはやされてきました。でも、今はそんなやり方では差別化が図れない。これ見よがしに根性ややる気など見せず、さわやかな顔をして『あなたの問題を解決します』というアプローチをしたほうが、実際には売れるし評価されるんです」

そう語るのは、ソフトブレーン代表取締役会長・宋文洲氏だ。

28歳の時に現在の会社を起業。経営を通じて日本企業の非製造部門の非効率性を痛感し、営業など非製造部門の効率化のためのソフト開発とコンサルティング事業を立ち上げ、業界最大手に育て上げた。2002年には著書『やっぱり変だよ 日本の営業』(日経BP企画)を出版。従来の常識をくつがえす斬新な発想で、日本のビジネス界に波紋を投げかけたことは記憶に新しい。

宋氏によれば、やる気を見せれば売れる時代が終わった今、確実に成果を上げられるのは、「顧客の問題をロジカルに解決できる営業」以外にないという。

「ところが実際には、寒い冬にわざとコートを着ないで来たり、暑い夏に汗をかきながら走ってきて、『僕、がんばってます』とアピールする営業が多いんです。かと思えば、システムトラブルを一刻も早く復旧させて欲しいのに、上司を連れてきて忙しい僕に対応させる営業もいる。人数勝負で誠意を見せているつもりかもしれないが、本当に腹が立ちますね。あえて言わせてもらえば、僕には日本の営業マンは水商売みたいに見える。やる気があるなら、これ見よがしに客に見せたりせず、黙って問題を解決して欲しいですね」

■なぜ顧客は“飛び込み営業”を 受けなければならないのか  

見せかけのやる気はいらない、本当に顧客のためになることをして欲しい――宋さんのメッセージは実に明快だ。では、真の意味で顧客に貢献できる営業マンとなるには、どうしたらいいのだろうか。

「営業とは“売る”ことではなく“知る”こと。顧客は何に困っていてどう解決すれば喜ぶのか。営業マンはプロとして、顧客のことを徹底的に知って欲しいのです」 
ところが、営業研修の大半は、まず自社商品の知識の習得から始まるのが実情。そこに最大の問題がある、と宋氏は指摘する。 「見ず知らずの僕があなたのところに急に押しかけて、いきなり自分を売り込んだらどう思いますか? 自社商品を売り込む前に、『あなたの会社はどういう会社で、何に困っているのか』を聞き出すべきなんです」

ところが、実際には「商品ありき」で、顧客のニーズよりも売る側の都合を優先させる営業マンが多い。これは日本の営業全般に共通する弱点だと宋氏は語る。

「たとえば日本独特の“飛び込み営業”。なぜ僕はあなたに飛び込まれないといけないのか、なぜあなたの商品を欲しいと思わなければならないのか、と言いたいですね。自社在庫を処分するために、相手が必要としないものまで義理人情に訴えて売りつけようとする。これでは詐欺そのものです。顧客が必要としていないものはあえて売らない勇気こそ、本当の誠意だと思う」

とはいうものの、現実には売上目標を達成するために四苦八苦している営業マンも多い。顧客本位で本当に業績が伸ばせるのかと、疑問を持つ人も少なくないだろう。だが、顧客本位を貫く宋氏の信念とは、まさに宋氏自身の起業体験から生まれたものでもあるのだ。

宋氏は北大大学院に留学中、天安門事件で帰国を断念。就職した会社も3ヶ月で倒産し、起業して自ら開発した土木解析ソフトの販売を始めた。知人もなければコネもない外国人が創業したばかりの会社とあって、顧客の信用も思うように得られない。「急に売り込んでも信用されないから、最初に相手の悩みを聞いて理解することを心がけました。仮にお客様に悩みがあっても、すぐには売り込まない。まずは商品をテストしてもらい、問題を解決できることを証明した上で、初めて売るわけです」

■ 営業マンはプライドを持ち 会社からの自立をめざすべき


問題解決型のアプローチに徹することで、宋氏は順調に業績を伸ばしていった。顧客にヒアリングして問題の在り処を探った後に、次のステップでは解決に向けて全力を尽くさなくてはならない。その際には、社内や周囲のリソースをいかに活用できるかが成否を決める、と宋氏は語る。

「営業マンは自社にどのような人材がいて、彼らのスキルをどのタイミングで顧客に提供すれば問題解決に役立つかを、冷静に判断するべき。たとえば『前回は技術の専門家から説明をさせていただきましたが、そろそろ別な問題を議論すべき段階ですから、今日は上司を連れてきました。次回は財務の専門家を連れてきます』とロジカルに提案を進めてくれたほうが、よほどありがたい。それこそが本当の価値なんですよ」

しかもインターネットが普及した今では、営業マンよりも顧客のほうが商品知識に精通しているケースも珍しくない。

「だからこそ営業マンは自分で何でも解決しようとせず、自社の専門家を連れて行ったほうが早い。顧客は必要な時に必要な知識を持った人間が応えてくれればいいと思っているのですから。ところが古いタイプの営業マンは、『俺の客だ』というこだわりから抜けられないんですね。勘違いもはなはだしい。『お前の客じゃない、お前の会社の客なんだ』と言いたいですね」

企業が提供する一連のサービス全てに満足した時、顧客は満足を感じる。自己中心的な考えを捨て、顧客の満足を全体的な視野から考えられるかどうか――営業マンとして成功できるかどうかは、まさにその点にかかっている、と宋氏は断言する。

「営業マンはもっとプライドを持ち、会社に依存するのをやめるべき。アメリカや中国では、営業職は個人事業主に近く、企業と対等な立場で契約を結ぶのが一般的です。顧客のことを本当に理解できれば、次は顧客のほうから相談に来る。そこで提案するものこそ真のソリューションです。キーワードは『営業の自立』。企業の論理と顧客との板挟みで苦しまないためにも、日本の営業マンには自立をめざして欲しいですね」

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