日常業務を通じた鍛錬が30代キャリアの分岐点

自分が描くキャリアパスと得意分野の「営業脳力」を伸ばすことで、30代のビジネスキャリアを変えることが可能になる。ではどのような意識で日常業務に当たることが必要なのか。ここでは、ビジネスにおける「営業」の位置づけを検証した。 《2006年5月号より抜粋》
営業職でのスキルを伸ばせば多様なキャリアパスが可能に
株式会社クライス・アンド・カンパニー  代表取締役社長 丸山貴宏氏
楽天証券経済研究所 大手就職情報会社の人事採用担当を約7年経験後、クライスアンドカンパニーを設立。前職からの候補者面談者数は10,000人を超えるベテランヘッドハンター

20代のうちから4つの営業「脳力」を意識し、全体の底上げとともに、自分にとって得意な要素を突出させていく。こうした努力を続けていくことで、30代後半以降のキャリアパスが多様なものになっていくということは、これまで述べてきた通りである。しかし、現在営業に携わっている人の大半は、「今すぐにでも営業を辞めて他の職種に就きたい」と考えているようだ。
 
彼らが営業を辞めたいという理由をひもといていくと、実は営業そのものが嫌いなのではなく、仕事の環境や周りの状態に不満があるだけという場合が多い。例えば、営業を辞めたい理由としてよく挙げられるのは、「成果に対して十分な評価を与えられていない」、「手掛けている商品やサービスが意に添わない」、「売りにくい」などだ。しかし、仮にそういったネガティブな要因が全て解決したらどうするかと聞くと、多くの人が「営業を続けたい」と答えるものだと、ある人材コンサルタントは語る。もし営業を辞めたいと感じたら、本当に営業そのものが苦手なのか、その付帯要因が嫌なだけなのか、一度冷静に考え直してみるべきだろう。
 
そして、自分の「脳力」に自信がない状態であれば、出来ることなら営業は辞めない方が良い。なぜなら、ビジネスマンにとって、営業の経験がないのは致命的だと考えられているからだ。丸山氏は、「企業の経営層で人格者だと言われている人材は、すべて成績優秀な営業マンだったといっても過言ではない」と断言する。

「営業を経験していない人は、それだけで損をしています。外の人に鍛えられる経験がないまま年を重ねてしまった人は、その後のキャリアパスにおいて、大きな遅れをとってしまうこともあるのです」
 
外部との接点が大きい仕事のメリットについては、慶應義塾大学大学院教授の高橋俊介氏の調査によっても明らかだ。高橋氏が主宰している「キャリアリソースラボラトリー」で調査した若手ビジネスマンのアンケートによると、成長実感に関するあらゆる設問において、もっとも実感値が高かったのは営業職だという結果が出ている。一見人気のない営業職だが、ビジネスマンとしての成長を目指したい人にとっては、最もふさわしい職種なのだ。
 
ちなみに、営業の楽しさを丸山氏に尋ねたところ、「仕事の自由度が比較的高く、自分の知恵を使って工夫できる」、「結果が数字としてすぐに目に見えるので、成功体験は自信につながり、失敗した点は徹底的に検証して次に活かせる」などのメリットを語ってくれた。いずれも、自分で考え、判断して行動するという習慣をつけるのに適した職種だということの裏づけと言えるだろう。

先の見えない忙しさと成長のための忙しさ
では、現在営業として活躍中の人は、そのまま頑張り続ければ、道は開けるのだろうか? 実は、残念ながら断定できない。会社組織の歯車でしかない営業部隊で、何年経ってもルーティンワークを続けなければならないシステムの会社に身を置いても、決して成長は見込めないからだ。高橋氏は、「4つの営業脳力がオール3のレベルになるのに1年程度で良いような会社は、それだけ深みがなく、単純作業の繰り返しが多い会社だと判断できる」と話す。

「こうした会社の営業マンは、『疲弊型繁忙』のなかで消耗していくケースが多いですね。気がつくと30代半ばになっていて、転職しようにも身動きがとれないということになってしまいます」
 
一方で、営業スタイルや商品が多岐にわたっていて、次々と新しいことにチャレンジできる環境に恵まれているという人もいるだろう。これは、前出の「疲弊型繁忙」とは似て異なる、「成長型繁忙」と呼ぶべき環境だと、高橋氏は続ける。
「幸いにも『成長型繁忙』の会社に在籍している人は、本人の意識次第で、いくらでもスキルアップが可能です。自分のアドバンテージとなる営業脳力を見つけ、伸ばしていくことで、その後のキャリアの選択肢を増やすことができるでしょう」
 
しかし、新しいことにチャレンジさせてもらう前提として、日頃の仕事ぶりが評価されることも忘れてはならない。丸山氏は、「何かに立候補したときにキーパーソンに引っ張り上げてもらえるのは、地味な仕事を数多くこなしてきた人だ」と話す。丁寧に重ねてきた日常がビジネスマンとしての人格を形成していくという事実も、忘れてはならない。
 
営業は、そのまま会社の出世コースに乗って管理職になるだけの存在ではない。最もつぶしがきく職種として、多様なキャリアパスを目の前にすることも可能なのだ。30代以降、どんなキャリアを歩むのかを決めるのは、今の業務に対する姿勢にかかっているといえよう。


職種別の成長実感指数
営業職
スタッフ・
事務職
ソフトウエア
技術職
ハードウエア
技術職
その他
具体的な指示命令がなくても、自分で仕事を組み立て進めることができるようになった

3.72

3.64
3.68
3.49
3.57
自分の仕事やビジネスに関連し、社外でも通用する専門知識が身についた
3.23
3.02
2.97
2.87
3.20
職場の人や顧客とうまくコミュニケーションできるようになった
3.77
3.59
3.46
3.38
3.57
顧客や経営の視点で仕事ができるようになった
3.44
3.24
3.11
2.92
3.00
社内外を問わず、人を説得して動かせるだけの影響力を持てるようになった
3.15
2.75
2.70
2.57
2.70
総合的に見て、人間として成長した
3.55
3.55
3.35
3.31
3.57
出典:「若手社員の成長実感調査」(慶応大学キャリアリソースラボラトリー)

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