いま、「社内プロデューサー」が求められる理由

競争力のある経営を実現するため、企業が求める人材像も大きく変わりつつある。なかでも、新たな価値を生み出す「社内プロデューサー型人材」への期待が高まっている。その背景と若手ビジネスマンのキャリア形成について専門家に聞いた。 《2006年6月号より抜粋》

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コーン・フェリー・インターナショナル株式会社
日本担当代表取締役社長
橘・フクシマ・咲江さん
米ブラックストン・インターナショナル、ベイン・アンド・カンパニーでのコンサルティング職を経て、エグゼクティブ・リクルーティングを行う現職へ。花王、ソニー、ベネッセの社外取締役も兼任
会社から与えられた仕事を、黙って指示通りにこなしていればいい……。そんな時代はいまや過去のもの。現在では、新たな価値やビジネスを自ら生み出すことのできるプロデューサー型≠フ社員を求められる傾向にある。

コーン・フェリー・インターナショナルで人材スカウトを手掛ける橘・フクシマ・咲江さんは、「時代の変化が組織を変えた」と話す。

「80年代以降、グローバル化に加えてIT化がビジネスシーンに大きなインパクトを与えました。技術革新によってビジネスに国境がなくなると同時に、企業の形態も変わった。従って、必要な人材も変わってきたのです」

同様に、「企業が求める人材の傾向は、マネージャー型からリーダー型へと変化している」と話すのは、企業コンサルタントとして多くの組織を見てきた徳岡晃一郎氏。

「リーダーというのは、組織が持つ前提を破壊して新しいビジネスや価値を創造できる人のこと。このプロジェクトにはどんな人を参加させればいいのか、どこと連携すればいいのか。広い視点で物事を捉え、社内だけでなく、社外の資源も広く動員できる力が求められます」

次世代リーダー育成制度など若手社員にチャンスが増加

こうした流れを受けて、企業側も真剣にプロデューサー型の人材育成に力を入れ始めた。早期に若手を選抜し、MBA取得などをサポートしながら次世代の経営幹部候補を育てる企業も増加。さらには優秀な若手社員に活躍のチャンスを与えるべく、年功序列型の組織作りをやめて抜擢人事を行うことも。また、会社という資産を使って社員がやりたいことを実現する機会も広がっている。

「社内公募やFA制度も定着し、新規事業を立ち上げるためのベンチャー制度も増えた。例えば、バンダイでは『感動創造論文』という懸賞型の新規事業提案制度がある。受賞者には予算と時間が与えられ、責任者となって新しいビジネスを手掛けることができるのです」(徳岡氏)

いままでは、やりたいことをやろうとすれば、組織を飛び出すしかなかったが、現在は組織の中にいながら自立したキャリアを描くことも可能。だからこそ、日々の仕事の中で意識的に、リーダーとしての自分を磨いていくことが必要となる。

フライシュマン ヒラード ジャパン株式会社
パートナー シニア バイス プレジデント
徳岡 晃一郎氏
人事・コミュニケーションコンサルタント。日産自動車人事部を経て現職。著書に『本気の集団をつくるチーム・コーチングの技術』(ダイヤモンド社)など。
「組織の中でキャリアを築く際に一番大事なのは、自分の市場価値を高めること。いつか外へ出る時のためにも、組織を活用してどのように力をつけていくか考えなくては」とフクシマさん。徳岡氏も、若手ビジネスマンにこんなアドバイスを送る。

「企業には豊富な資金や人材があるのだから、自分次第で有効に活用できる。そのためには目標管理から積極的に関わり、自分のやりたいことをどんどん口に出して欲しい。それに、若手のうちは会社の名前を存分に利用すればいい。ゆくゆくは社名がなくても認められる人材を目指すべきですが、それまでは会社の名刺を使ってどんどんネットワークを広げればいいのです」

組織にいるからこそできることを知り、自分から積極的に会社が持つ資源を活用する道を模索する。時代が求めるプロデューサー型人材になるためには、当然ながら本人の自覚と努力が必要とされることを肝に命じよう。


◆ カイシャ活用のメリット
1.
企業のリソースを有効活用できる
2.
会社の名刺を利用して、人脈を広げられる
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20’sビジネスリーダーもPUSH!「カイシャ活用」のススメ
盛り上がっている業界・会社に、身を投じる思い切りの良さも必要です。
グリー株式会社 
代表取締役社長
田中良和氏
1999年に大学卒業後、ソニーコミュニケーションネットワークに入社。2000年に楽天に転職し、ユーザー向け新サービスの開発に携わる。04年、SNSサービス「GREE」を開発。同年グリーを設立し、代表取締役に就任
日本初のSNSサービス「GREE」を開発し、その運営会社であるグリーを設立した田中良和氏。会社員時代は、大企業とベンチャー企業、2つの場で経験を積んだ。

しかし、新卒時から、グリーの代表取締役社長となった現在に至るまで、「インターネットを仕事にしたい」という目的は、ずっと変わっていない。

「僕の大学時代は、米国でYahoo!やNetscapeが相次いで上場した時期で、趣味と仕事が一体化したような彼らの働きぶりが注目されていました。その姿に憧れましたね」

So-netを運営するソニーコミュニケーションネットワークに入社を決めたのも、その憧れがあったからこそ。しかし、仕事は思ったようなイメージではなかった。

「ソニーコミュニケーションネットワークも素晴らしい会社で、多くのことを学びましたが、組織が小さく、創設期のステージにあるベンチャーのほうが、刺激的な体験ができるのではないかと考えました」
インターネット関係の仕事という職種に加え、会社のステージに意味を見出したのは、転職を考えたこのときが初めてだった。

次に入社した楽天では、とにかく何でもやった。メルマガの配信システムを確立させ、メルマガを発行し、カスタマーサポートのようなことも手伝い、ブログサービスを立ち上げるなど、目の回るような忙しさだったという。2?3年経ち、ある程度組織が落ち着いてきたころには、プロデューサー的な役回りを任されることが多くなってきた。

「楽天の創業期での経験を通して、やろうと思えば何でもできるという自信がつき、後半は、組織のなかの立ち回り方やマネジメントの勘所が分かってきました。これらの経験と自信は、社長になってからも大いに役立っています」

04年に趣味の一環として始めたSNS「GREE」が大反響をもたらし、ユーザー数が10万人を突破。運営会社であるグリーを設立するにあたり、特に不安を感じなかったのも、会社員時代の経験があったからだ。

「楽天では、会社は成長するものだというリアルな感覚を持つことができました。またソニーでは、すごいといわれている人だって同じ人間であり、組織も人間が作ったものにすぎないという実感が持てた。この二つは、いまの自信につながっています」

では、若手ビジネスマンが組織を活用して成長したいと考えたとき、どのような点を考えたらよいのだろうか。

「そもそも、その業界は若手にチャンスがある構造になっているのか、また自分が有利なポジションに立てるのかを気にするべきです。上の世代に優秀な人が層をなしている会社では、若手は身動きが取れません。また、構造的に失敗が許されず、新しいチャレンジがしにくい業界もあるでしょう」

田中氏の場合、楽天を選んだ理由は、「インターネットを活かしたビジネスを志向している企業だったから」。そして、“ビットバレー”が注目されていた時代、「盛り上がりには参加しなきゃ」という気持ちも大いに働いたという。

「成功したいのなら、盛り上がっている場所に行かなければ始まりません。サーフィンと一緒で、波に乗りたければ、沖まで出ておかないと波には乗れない。それと同じで、盛り上がりそうなものに飛びつく思い切りのよさが、成功を呼ぶのだと思います」

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