大学新卒者の就職活動においては、空前の売り手市場といわれている昨今。ハローワークに登録された求人数を求職者数で割った有効求人倍率は、2005年12月より回復。1992年9月以来、13年ぶりの水準で推移している。この傾向は、中途採用市場も同様だ。
実際に人材を募集している企業の顔ぶれを見てみると、名だたる大企業からベンチャーまでと幅広い。特に大企業の採用意欲が高まっているというのが最近の特徴だ。その背景を、経済アナリストで獨協大学経済学部教授の森永卓郎氏は、こう分析する。
「10年に渡る不良債権処理で、体力のない企業は淘汰され尽くしたというのが大企業の現状です。したがって、今残っている企業は、円高や原油高のリスクはあるものの、しばらくは安泰が約束されているようなところばかり。今後のさらなる成長フェーズに向け、人材の採用にも積極的です」
一方のベンチャーは、ライブドアショックを引きずり、いまだ逆風下にある。
「新興市場の株価は、すでに下げ止まり感はあるものの、まだまだ上昇に転じきれていないというのが現状。上場さえすれば儲かるという筋書きは崩れ、ベンチャーは全て危ないのではないかという、根拠のないイメージが蔓延しています。持ち直しは、もう少し先になるでしょう」
とはいえ、成長の起爆剤となる人材の採用には積極的なのがベンチャーの特徴だ。一部を除いて大規模な募集は少ないものの、年間を通し、良い人材との出会いを求めている企業が多い。
一方で、採用が極端に少ないにも関わらず、根強い支持を集めているのが、ファンドやプロフェッショナルファームなどの第三の道≠ナある。慶應義塾大学大学院教授の小杉俊哉氏は、「大企業を、ゴールではなくステップと考える人が増えている」と語る。
「再生ファンドやコンサルティング系の仕事は、個人の成長スピードが速いと考えられています。また、結果や個人の役割が明確なので、次のキャリアにも結びつけやすい。しかし、ベンチャー出身者よりも大企業出身者のほうが採用されやすいため、
大企業に就職し、関連する分野の経験を積んでから第三の道≠ノチャレンジしようと考える人が増えているのです」
つまり、自分のキャリアビジョンに応じて大企業でもベンチャーでも選ぶことができるというのが、現在の状況なのだ。
採用される側に選択の余地があるというのは、ここ数年見られなかった状態である。森永氏によると、この売り手市場の継続は、あと1?2年が限度だという。つまり、ベンチャー企業が成熟期に入り、大企業での募集が増加している現在は、最大の転職チャンスが訪れているといえるだろう。
では、大企業とベンチャー、それぞれの特性とはなにか。一般的には、「大きな仕事をするならベンチャー」「ルーティンワークが得意なら大企業」のようなイメージを抱く人が多いだろう。しかし、小杉氏はこう反論する。
「確かに大企業では、若いうちには重要な仕事に携われないかもしれません。しかし、大きな金を動かすプロジェクトに携われる可能性は、大企業のほうに軍配が上がります。また、ベンチャーではあらゆることを一人でやらなければならないため、その経験は将来的に、例えば独立するときなどに役立つでしょう。しかし、ビジネスの基本スキルは、大企業出身者のほうが長けている場合が多いですね」
また、森永氏は「リスキーな研究に没頭するなら大企業、即金を目指すならベンチャー」と解く。
「一見逆のように見えますが、特にIPO後のベンチャーは、投機的な株主の圧力もあり、すぐに利益を上げられるような技術やサービスしか追求させてもらえない傾向にあります。一方、大企業は資本力も大きいため、すぐには結実しない研究でも、長い目で育てていこうという体制が整っている。特に技術系の人は、その点も考慮に入れて判断すべきでしょう」
ちなみに森永氏は、大金を稼ぎたいのならベンチャーに賭けてみるべきと語る。大企業では年収4000万円レベルが限度であるが、ベンチャーでは、技術やサービスが当たりさえすれば、億単位を稼ぐこともできるからだ。
とはいえ、大企業もベンチャーも、求める人材像は近づきつつあるのが現状だ。小杉氏は、「大企業でも、自分で新しいビジネスアイデアを実現できるような人材を求めている」と語る。
「大企業の子会社ベンチャーが往々にして上手くいかないのは、看板への甘えが生じがちだから。それでは困ると、大企業側もベンチャー的な指向特性を持つ人材を採用するようになってきました。成果主義制度の施行や、自社内で実施するキャリア研修なども、企業側のもたれ掛かるような社員を最後まで養うつもりはない≠ニいう意思の表れだといえるでしょう」
そんな各企業の人事担当者の本音は、次ページからの座談会を参考にして欲しい。
売り手市場だからこそ、冷静に考えたい企業の選択肢。自分のキャリアプランを見据えて、次の一手を歩みだそう。 |
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