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大企業をスピンアウトした強者たち

大企業をスピンアウトし、経営トップとして活躍する――。そんなキャリアを夢見る読者も多いだろう。リクルート出身のトレンダーズ・経沢社長、伊藤忠商事出身のカブドットコム証券・齋藤社長。大企業で働き、経営の最前線にいる二人が語る「企業選びの基準」とは? 《2006年7月号より抜粋》

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type(以下、t) お二人とも大企業に勤めた経験があり、今はベンチャー企業の社長です。20代のビジネスパーソンが転職するとしたら、大企業とベンチャー、どちらに転職したほうが成長を加速できると思いますか。

経沢 難しいですねぇ……。

齋藤 そうですね。業界にもよりますし……。でも、デカイ会社に入れるんなら、デカイ会社を目指すのが普通じゃないですか? ただ、デカイ会社はイヤという人もいるでしょうし。ベンチャーの場合は社長の色が強いから、その社長……例えば経沢さんに憧れている人などは、経沢さんから誘われたら行くでしょうね。その会社のユーザーだった場合も含め、そうした縁やきっかけが全くなく、求人広告などで転職先を探す場合は、同じような条件でベンチャーと大企業が募集していたら、やっぱり大企業へ行く気がしますけど。ベンチャーへ行く人には、もっと明確な動機があるんじゃないですか? どうしてもこの会社で働きたいとか、この社長と働きたいとか。

経沢 うちの会社を受けに来る人で一番多いのは、「理念に共感した」という人ですね。「同じこと考えている人がいるのでびっくりした」とか、「経沢さんの本を読んだ」とか。うちの会社がやっていることに対して関心の強い人が一番多いです。

齋藤 大企業を選ぶ人は、「安定」というのも大きな理由じゃないでしょうか。私も22歳で就職した時はそうでしたけど。「苦労させたから爺さんを喜ばせたい」とか、例えば結婚してからの転職なら、「奥さんが心配しないように、今度はデカイ会社に行こう」とか……。いわゆる「落ち着く」っていうのを求める気持ちが、どこかにあると思いますよ。あるいは、最初から海外でバリバリ活躍したいという場合は、それができるベンチャーに入る手もあるけれど、それより大手商社などに入ったほうが叶いやすい。一般的な日本のベンチャーだと、グローバルな展開が難しいところが多いんです。それと、人様にどう見られるかを意識するサラリーマン気質の人は大企業を選ぶでしょうし、部活ノリが好きな人はやっぱりベンチャーを選ぶんじゃないでしょうか。

経沢 私は97年に新卒でリクルートに入ったのですが、当時リクルートは、今のように就職人気ランキングで上位の会社ではなかったんです。選んだ理由は、それこそ部活ノリではないですが、いる人が魅力的に思えたから。当時すでに経常利益が1000億円ほどもありましたが、上場しているわけでもないし、大企業だからと思って選んだのではなく、やっていること、いる人に対して魅力を感じたからなんです。周りの友人たちには銀行や商社を受ける人が多かったですね。私も大手広告代理店なども受けましたが、「私には合わないな」と感じました。商社の方と会った時に「女の子は倍くらい働いても、あまり認められないよ」と言われたので、「そんな骨を折るなら、ちゃんと認められる会社に行ったほうがいいな」と考えたんです。




齋藤 女性の場合は、会社の選び方もちょっと違うのかも知れませんね。私から読者の方へのアドバイスは、「入れるならデカイ会社に入ってみた方がいい」ということなんですが。

経沢 私は、大企業もいいけれど、早く認められたいならベンチャーの方がいいと思っています。大企業には優秀な人がたくさんいますし、会社の仕組みもしっかりしているので、その中で上がっていくのは、私のイメージの中ではすごく大変なこと。

齋藤 落とされるのは簡単(笑)。

経沢 そうそう(笑)。本当に能力があれば大企業の中で上がって行ったほうが得られるものは大きいと思うんですけれど、普通の人で「自分を試したい」とか「当たって砕けてもいいから死ぬほど経験を積みたい」と思うなら、ベンチャーの方が入りやすい。そのあと成功するかどうかは、実力と運次第かもしれませんが。チャンスの玉はベンチャーのほうが拾いやすい気がしますね。

齋藤 それで言うのも何だけれど、うちみたいな会社がいい(笑)。

経沢 上場もしていて(笑)……。

齋藤 ベンチャー感もあって、社員も50〜60人しかいなくて、でもうちはMUFGだからその看板や教育システムも使えるし、出張もあるしMUFGと人材交流もできるし。ハイブリッドな感じがいいでしょう? ぜひ応募してください(笑)。

経沢 ハイブリッドね〜(笑)。うちみたいにすごく小さい会社だと、「こういうことをやってみたいんです」というビジネスクリエーター志向の方が応募してくるケースが多いんですよ。その中には優秀な人もいるのだけれど、イメージ先行の人も。多分、齋藤社長の会社では、もう少し成熟した人で他の会社でそこそこの経験を積んだ人が来るケースが多いのでは? 大企業に中途で入るには、経歴もきれいな人のほうが有利かもしれませんし。

齋藤 そうですね。それに、大企業の場合は入ったら面倒なんでしょうね。またイチからやり直しになっちゃうでしょうし。

 齋藤さんは、伊藤忠商事に転職した時、どうだったんですか?

齋藤 机もなかったですから、最初は(笑)。

経沢 そんな状態で、どうやって仕事するんですか(笑)。

齋藤 私たちネット証券の立ち上げプロジェクトの席は、会議室のブースでしたから(笑)。とりあえずは試用期間ということで待遇も契約社員でしたよ。

経沢 じゃあ、大企業に中途で入っても、決して安泰ではないんですね。

齋藤 スポンサーを探すなどいくつかの条件があって、それをすべて9カ月間でクリアできなければ終わりという契約でした。

 試用期間があるのは、特殊なケースではないんですか?

齋藤 最近は正式採用の前に試用期間があるのは珍しくないですよ。試用期間には一定の条件があって、試用期間が終わった時にお互いの条件を見直そうという形です。

 縁故があるなら別ですが、全く知らなくて入った場合、「入ってみたら違った」というのもよくある話ですね。

齋藤 その通り。「社長に憧れて入社したけれど、社長は思っていた通りの人でも会社は期待と違った」という話もよく聞きます。大企業の場合は、そういう異常なギャップはないのかも知れませんね。だいたいイメージ通り。ただベンチャーの場合は、いいところばかり報道されるので、悪いところは知られていなくて、入ってからビックリする場合はあるでしょう。とくに労働時間の長さとか、福利厚生などは大企業並みのものを求めるのはナンセンス。そこは割り切って、「しばらく苦労してもいいや」というノリで転職しないと。その中で充実感を得られる自信があるならベンチャーに行けばいい。趣味などプライベートの時間を充実させたいという人は、はっきり言ってベンチャーはムリ。それと、家族の介護で残業できないというような人なら、やっぱり福利厚生が充実した大企業へ行くべきでしょうね。大企業に勤めている人は、会社は好きでも「会社が全て」と言う人はあまりいないのでは? ベンチャーの人は、実際、会社に泊まってますからね。





 身につくスキルという点で、大企業とベンチャーの違いは?

経沢 やはりベンチャーはチャンスが多いから「経験できる」ということなんだと思います。一方、大企業は優秀な人が多く、取引先にもいい会社が多いので、人から与えられるもので知的に満たされますよね。

齋藤 会社で新しいことをやる時に、ベンチャーの場合は会社としてノウハウの蓄積がないけれど、大企業の場合は似たようなことをやったことがすでにあるなど、「こうやれば実現できる」というフレームワークがある程度できていたりするんです。だから勉強したいなら、実はベンチャーのほうが難しいかも知れないですよ。先輩に何か教わろうとしても、「それを考えるのが仕事だろ!」なんて言われちゃったりして。

 なるほど(笑)。大企業ではどうでしょうか?

齋藤 大企業なら、上席の者が責任をとらなくてはならないので、仕事の進め方などを多少なりとも教えてくれるでしょう。一方、ベンチャーでは、白紙のスケッチブックを渡されて、「とりあえず全部やってごらん」と言われるようなもの。それが楽しいと思えるかどうか。大企業である程度の経験を積んだ人なら「白紙」を出されたほうが楽しいんだけれど。何も分からない人がいきなり「白紙」を出されたら、パニくりますよね。

 経験のない人であれば、あり得る話ですね。

齋藤 日本のサラリーマンの多くは、例えば、「3000万円の予算で、こんなことをやってごらん」と言われると結構いいアイデアが出たりする。でも「いくら使ってもいいから最高のものをやってくれ」なんて言われると、その瞬間に固まるんです。器用さはあるけれど、ダイナミックさに欠ける。「白紙」を出されるベンチャーは、アイデアマンでないと面白くないかも知れないですね。20代の大半の人は、「自分で自由にやりたい」と言いながら、現実には予算や時間を決めてもらわないと、「どうしていいかわかりません。それくらいは教えてくださいよ」となっちゃう。そういう人が勘違いしてベンチャーに行くと苦労する可能性はありますよね。






経沢 そうですね。うちの会社の場合は、中途採用の人で前職で似たようなビジネスをやっていた人が違和感を持つこともあるようです。弊社はベンチャーなので、今までと少し違う手法を採ることが生き残る秘訣なので、あえて型を崩したやり方をさせると、そこに馴染めないこともあるんです。だから、柔軟な人のほうが向いているかもしれません。うちの場合は特に、予算などの制約条件があまりなくて「一人で何かやってみて」と言われると、確かにパニクったり……。ただ、やはりまだルールが明確になっていないので、ストレスに強い人がいいかもしれません。これから仕組みを作っていくことに喜びを感じるタイプはベンチャーに向いているけれど、決まったルールに従ってきちんと物事が進まないと気が済まないタイプは、向かない気がしますよね。

齋藤 ベンチャーの場合、オーナーが「いい」と言えばいいんですよ。それでラクなのは、オーナーに認められればどんどん進められること。大企業だと、 部長は「いい」と言っても違う部門の人に「そんなの許さん!」なんてひっくり返されることもある(笑)。だから、そういうことで疲れると「ベンチャーっていいよね」となるかも知れませんよね。だいたい大企業でイキイキしている人は、キーマンを見つけていたり上司に恵まれていたり、そういう後ろ盾があって自由にやれているような人。そういうのは、ベンチャーでも同じかもしれないですけどね。その後ろ盾というのがベンチャーの場合はオーナーだから、オーナーと合う合わないはすごく大事。

齋藤 私の場合は、組織の中で社長になったわけで、自分で起業したい思いはないですね。大企業が制度上できないことがあれば、自分で言いに行って変えます。当社の人事制度も、はじめは大企業を参考にして同じようにやっていたけれど、会議に出まくって承認を取って変えました。大企業でも制度やルールを変えられないわけではないんですよ。一方、ベンチャーの場合、ルールは少ないけれど不文律みたいな空気があって、それを犯すとアウト。オーナーに嫌われたらキツイでしょう。経沢さんに嫌われたら、かなりキツイでしょうね。

経沢 嫌ったりすることはないですけど、もしそうなら居心地悪いかもしれません(笑)。

齋藤 でも、多少のミスをしようが、一生懸命やっていて経沢さんに好かれている限り、まあまあイケル。でも、デカイ会社だと上の人に気に入られるだけでは苦しい。その分、人事は好き嫌いではなく公正だったりするので、僕みたいな人でも頑張ればMUFGで役員になれちゃう。そういう意味では、ベンチャーは必ずしもチャンスばかりとも限らない。ルールをちょっと変えるなどの働きかけをするだけで、意外と大企業のほうがやれたりする。ベンチャーは、正しいことを提案しても、オーナーに「俺がルールだ」と言われちゃったら終わりだけれど、大企業なら、社長が反対でも多数決で通る案件もあるわけです。それは、ベンチャーではありえないのでは?

経沢 そうですね。細かいことまで口出ししませんが、事業の方向性は私が見ます。何もかもダメとは言いませんが。ただ、先ほどおっしゃった「ルールがない分、空気やニュアンス」みたいなものは、うちの会社にもあるかもしれません。

 事業に使えるお金の面では、どう違いますか?

齋藤 千万円単位の案件ならベンチャーでもできるけれど、億単位だとベンチャーでは自由にならないですよ。だから、エネルギーや社会インフラのような案件は難しいでしょうね。ただ、できる規模のことなら、ベンチャーは社長決裁でOKだから早いですよ。でも、3000万円くらいまでなら大企業でも部長クラスの決済でできるから、あまり変わらないんじゃないですかね。

 給与的には?

齋藤 業種にもよるけれど、傾向としては20代のうちはベンチャーの方が稼げる。30代以降は、大企業のほうがいいと思います。あくまで一般論ですけどね。

経沢 ベンチャーで働く人は、給与より仕事の面白さに魅力を感じます。はじめはそうなんですけれど、それが長く続くとダメですね。

齋藤 お金の問題じゃないと言いながら、自分より働かない人が自分より貰っていると腹が立つ。ベンチャーの場合は人事システムがきちんと整っていない分、そういうことが起りがち。大企業ではありえません。行ってから後悔しないよう、そういうこともよく考えて転職しないと。




齋藤 基本的には大企業でもベンチャーでも、「どっちもイヤでつまんなくて、たまにいいコトある」くらいに思って行ったほうがいいと思いますね。どちらに転職するのであれ、入って半年〜1年で辞めてしまうのはどうか。何年か勤めて見えるものもあるので、最低でも3年くらいはいる気で転職したほうがいいと読者の方にアドバイスしたいですね。

経沢 「その会社に行けば満たされる」というような気持ちを持ってベンチャーへ来る人が増えているような気がするんですけれど。仕事というものは、たとえば蛇口をひねれば水が出るのは当たり前だけれど、その過程で水道管を24時間監視している人がいたりする。そういう過程を楽しめる人でないとベンチャーには向きません。特にベンチャーは華々しいイメージがありますが、ベンチャーこそ地道なことが大切なのかもしれません。

齋藤 そうだと思います。チャンスが多い分、スポーツ選手に例えると、練習もしないで「すぐレギュラーにしてくれ」と言うのと同じ。ガムシャラに働くのが本来のベンチャーの姿だとしたら、それがイヤだと言われるときついわけですし。ホームラン打つ姿ばかり意識しないで、練習の部分を大切にしないと。

経沢 本当に成功したいのであれば、やっぱり20代の前半くらいで死ぬほどやったという経験がないと。大企業に転職しようとベンチャーに転職しようと、必ず活躍できる人材がいて、そういう人は間違いなく寝食忘れて働いた時期があるんです。だから、夢中になれるところを選ぶのは大事だと思いますね。

齋藤 社長個人が好きでベンチャーを選ぼうと、法人として好きで大企業を選ぼうと、「徹底的に惚れてごらん」と言いたいですね。半年や1年じゃ、「徹底的」にはなれないですよ。多少イヤなことがあろうと、「かわいいもんじゃん」と思えるくらいに惚れ込まないと、何やってもダメかなという気がしますね。

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