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山崎 元(やまざき はじめ) 氏 |
楽天証券経済研究所 客員研究員。三菱商事に入社後、転職歴は12回。野村投信委託、住友信託銀行、メリルリンチ証券など、名だたる金融機関で活躍したギョーカイの事情通 |
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ディーラーの仕事は、株や債券、為替などを売買して利益を稼ぐこと。会社や、扱う商品分野によってトレーダーと呼ばれることもありますが、いずれにせよ、自分で責任あるポジションを持って取引を行う仕事です。
広義では、顧客からの注文を受けて売買を仲介するセールス的な役割を担う人も含まれますが、こちらはカスタマーディーラーやセールストレーダーなどと呼ばれ、自己売買のディーラーとは区別されます。
ディーラーといえば、よくディーリングルームで大騒ぎしているイメージが浮かびますが、あれはカスタマーディーラーが顧客からの注文を早く取り次ごうと大声を上げているだけで、自分のポジションを持つディーラーが、あれほどオーバーアクションで動き回ることはまずありません。
例えば為替のディーラーなら、朝一番にニューヨーク市場の動向をチェックするところから始まり、東京市場が開けば自分の売買をして、その後はシンガポール、ロンドンと、地球の自転を追いかけるようにレートを見続ける毎日になります。あちこちに電話をして情報を集めながら、昼飯も弁当を買ってくるか、そこらで手早く済ませて、一日中モニターにはりついているわけです。また、ずっと座っているので痔持ちが多いことも特徴の一つ。
私も商社で為替のディーリングをしていたときは、チカチカとモニターににじむ緑色の数字をじっと見続け、すっかり視力を落としてしまいました。株や債券が相手でも基本的に事情は同じで、飯が早いことと視力が悪いことは、ディーラーの職業病みたいなものでしょう。
頼るのは自分の腕だけ 勝負氏として成果を競う
金融機関のなかで、ディーラーは自分で意思決定できる数少ない仕事の一つですし、特に外資系企業ではインセンティブが大きいので、パフォーマンス次第で億単位の年収を取る人もいます。変化に対する反応が鋭い分、20代の若手が台頭する一方、知識や経験、情報ネットワークを充実させ、自分なりのスタイルを確立して長く活躍する人もいます。
業界内の花形職種であるディーラーですが、最後は勝ち負けで全てが決まる厳しい世界でもあります。経済の知識はもちろん、情報を取るための語学力も求められるとはいえ、結局はやってみなければわからない。大きな失敗をしなくても、より儲けられる人にポジションを明け渡したり、たまたま運が悪かっただけでも、大損して会社に損害を与えればクビになることもあるのです。
しかも哀しいかな、社内的には決して本流の仕事ではない。圧倒的多数である営業マンの業務とあまりにもかけ離れているため、営業の現場を知らないディーラー出身者が社長になれる可能性は、極めて低いと言わざるを得ません。
必然的にディーラーという人種は、ある種の鈍感さと敏感さを併せ持つことになります。明確な数字が出ているにも関わらず、おそらくディーラーの8割は「自分には平均以上のセンスがある」と思っています(そう信じないとやっていけない!)。微妙な損得に敏感で、競馬や麻雀をはじめ、ちょっとしたゲームにも熱中してしまうタイプが多いのです。
日々自分の判断でゲームを戦うディーラーにとって、他人が損した話ほどおいしいおかずはありません。その一方、同病相憐れむとでもいうのか、このシビアな世界で戦う者同士、会社を超えた連帯感みたいなものもあり、運悪くクビになったとしても、横のつながりで転職できたという人も少なくありません。
儲けたか、損したか。ディーラーはまさに自分の腕ひとつで生きていく人々です。いかにも胃を痛めそうな職業ですが、それでも責任あるポジションを持つ生活はおもしろいし、張りがある。のるかそるかの快感を一度味わった者にとって、どんな辛くても愛着を捨てきれない魅力的な仕事であることは間違いありません。
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