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山崎 元(やまざき はじめ) 氏 |
楽天証券経済研究所 客員研究員。三菱商事に入社後、転職歴は12回。野村投信委託、住友信託銀行、メリルリンチ証券など、名だたる金融機関で活躍したギョーカイの事情通 |
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ホールセールは、法人顧客に対して自社の商品・サービスを売る法人営業の仕事です。銀行であれば融資、証券会社なら株式や債券による資金調達や資金運用が主な業務内容になります。
法人相手の仕事だけに扱う金額は大きいし、提供する商品やサービスも複雑なものが多い。M&Aの仲介やIPO支援など、大きな案件に関わることもある。そのため、支店で個人顧客を相手にするリテール部門のセールスよりも、何となく格上のイメージが漂います。「オレもいつかは本社に……」と密かに憧れを抱いているリテール営業も少なくないでしょう。
報酬は基本的に稼ぎに応じて決まります。特に外資系金融の場合は、かなりダイレクトです。一方、日本の金融機関では、まあそこそこの給与がもらえるという程度で、たくさん稼いだからといって、それに比例してボーナスが増えるわけではありません。
それでもホールセールが花形職種のひとつである理由は、これが本流中の本流の仕事だからです。
日本の金融機関では、現場をまったく経験せずにトップになる例はほとんどありません。これが営業の現場を知り、しかも大手取引先、特に会社にとって重要な法人顧客からの支持も厚いということになれば、出世競争のなかでもかなり大きなポイントです。
例えば、かつての顧客企業の担当者が社長にでもなっていたりすると、「彼は××社の社長と親しく社外にも顔が広い」という話になる。そう、ホールセールはエリートコースのひとつなのです。
さらに、どんな顧客を担当しているかで、転職市場での価値が決まります。外資系金融などでは、今までなかなか接触できなかった企業とのリレーションを持っている法人営業経験者は、のどから手が出るほど欲しいはずです。
客の威を借りながら 自分の立場を確立する
ホールセールの仕事をするには、担当業界の豊富な知識と、自社の商品・サービスについての完璧な知識と理解が欠かせません。最近はデリバティブ関連の商品が増えており、サービス内容も複雑化しているので、顧客に聞かれても即座に答えられるよう、常に勉強が必要です。このあたりは、今どきの法人営業マンの悩みどころでもあります。
しかし、だからといって、何も自分で商品を設計するわけではないし、専門的な話はアナリストを客先に連れて行ってプレゼンテーションさせれば、何も難しいことをせずとも済んでしまうのです(客の威を借りれば、社内に怖いものはありません!)。自分で何かを作るというよりも、仲介者。求人広告風に言えば、プロデューサー的な仕事なのです。
だからこそ、営業としての手腕がものをいいます。取引先の社内事情はいち早くキャッチ。新聞の死亡欄、人事欄は日々チェックし続け、冠婚葬祭対応にも抜かりがあってはいけません。
昔ほど激しくないにせよ、今でも接待はときに有効な武器ですから、気の利いた店の数件はすぐに出てくるようでないと一流の法人営業マンとはいえません。歌えと言われれば下手くそな歌も歌うし、お開きの後も気を抜かず、車の手配まで完璧にこなせてようやく一人前と言われます。
さらに忘れてはならないのは、社内営業です。専門職と違って、人事ローテーションのどこかで配属される職種ですから、社内的な評価を勝ち取らないことには、なかなか異動もかなわないし、ましてや重要顧客など担当させてはもらえません。
特別な決め技があるわけではないけれども、休日の接待ゴルフも、平日の残業もいとわない、どこまでもまっとうな模範的サラリーマン。それこそが、法人営業マンのあるべき姿といえるでしょう。
同期の誰よりも早く抜きん出て、誰よりも高いポジションを目指すのであれば、ホールセール経験は非常に有効な“上がり”へのステップと言えるでしょう。
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