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山崎 元(やまざき はじめ) 氏 |
楽天証券経済研究所 客員研究員。三菱商事に入社後、転職歴は12回。野村投信委託、住友信託銀行、メリルリンチ証券など、名だたる金融機関で活躍したギョーカイの事情通 |
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金融マンの多くが一度は経験する仕事、それがリテール(個人)営業です。金融機関の収益を支える根幹の仕事であり、新人はまず各支店に配属され、リテール営業から金融マンとしてのキャリアをスタートさせるケースが多いようです。
初めて足を踏み入れる支店の現場は、決して甘くはありません。飛び込み営業をして犬に吠えられたり、「電話の声が小さい」と先輩に怒られたり、地道な苦労を重ねることになります。会社と支店によって雰囲気は異なるものの、本質的には足腰の強さが勝負の体育会系職場なのです。
少なくとも営業の宿命として、目標という名のノルマは必ずありますから、月末が近づくにつれ、「大変だ、大変だ」と嘆きながら青ざめた顔で走り回る営業マンが増えていきます。
だからといって、そこで目先の利益を優先して顧客に無理を強いてしまうと、信用を失うだけでなく、トラブルが起こるリスクが高くなる。運が悪ければ、話がこじれて訴訟に発展するケースもあります。
つらくて地味な営業現場の最前線。けれども逆に、営業だからこそ、稼いでさえいれば天国です。社内でも大切に扱ってもらえますし、好成績を挙げ、上司の覚えもよろしければ、さらに大きな支店や本社のホールセール部門に異動も可能。銀行員であれば誰もが憧れる支店長への道も開けてくる。そのまま順調にいけば、社長だって夢ではないのです。
そもそもリテールは圧倒的に人口の多い職種ですから、社内での存在感も高い。元・伝説の営業マンが、リテール部門の強い支持を得て経営トップに昇りつめるなど、リテール営業が王道の出世コースの一つであることは間違いありません。
“自分の顧客”を武器に激動の時代を生き抜く
リテール営業マンの天国と地獄を分ける最大の決め手は、“お客さま”。それが全てです。自分の顧客こそが、リテール営業マンの唯一にして最大の財産といえます。
リテール営業は、ホールセールのようなビジネスライクなつきあいとは違い、顧客との個人的な関係がベースになることが多い。例えば顧客に気に入られて「ぜひうちの娘の婿に」と、地元中小企業の跡取りになることもあります。
また一般的に、同じ営業でもホールセールよりリテールのほうが、コミッション率が高く設定されています。特に自分の稼ぎが報酬に直結する外資系金融機関では、たまたま応対した顧客がものすごい上客だったために、窓口勤務のカスタマーサービスが一気にトップセールスに躍り出た実例もありました。このように優良な“お客さま”を持っているリテール営業マンは、転職市場での価値が上がるのはもちろんですが、独立という選択肢も見えてきます。
リテール営業を取り巻く環境は、年々厳しくなっています。人数が多いこともあって、リテール営業マンの報酬はコストカットの対象になりやすい。支店や営業マンにかかるコストを金利や手数料に還元するネット系金融機関が台頭していることが厳しさに拍車をかけている。リテール営業の存在価値が今後ますます注目されていくことでしょう。
こうしたなか、日系金融機関でも成果給へとシフトする動きが目につきます。証券会社のなかには、独立系FA(ファイナンシャルアドバイザー)との契約制度を取り入れるところも出てきています。
どうせ成果給になるなら、より条件の良い外資系に転職するもよし、独立して自分の力で稼ぐもよし。もちろん、これまでのように実績を上げ続け、社内の出世街道を突き進むのもよいでしょう。
いずれにせよ、顧客との太いパイプを持っている人であれば、様々な上がりの道が用意されています。いかに人脈を広げられるかがカギになる。リテール営業とは、最後の最後には人とのご縁がものをいう仕事なのです。
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