金融・不動産業界成長市場が求める“若手力”

不良債権処理が一段落し、金融、不動産業界ともに、今まさに事業拡大へと向かっている。企業の多くが、新しいビジネスビジョンを描ける若手に期待を寄せている。 《2006年9月号より抜粋》

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井出不動産金融研究所
取締役会長
不動産金融アナリスト
井出保夫

早稲田大学商学部卒業後、秀和、オリックスで不動産開発、不動産ファイナンス業務を手掛ける。1999年に井出不動産研究所設立。著書に『「証券化」がよく分かる』(文春新書)、『REITのしくみ』(日本実業出版社)など
不動産を投資可能な金融資産として証券化するビジネスモデルは、バブル経済崩壊後の1990年代半ばに外資系投資ファンドなどの進出が活発になった頃から始まった。それからわずか10年余りの間に、大きく市場規模を拡大し続けてきた背景がある。現在、その成長を牽引しているのは、大手不動産会社や金融機関よりも不動産金融を専門とするベンチャー各社と井出保夫氏は語る。

「先日、正式にゼロ金利政策の解除が発表されましたが、不動産価格の上昇はインフレを招くとしてこれまで大手があまり積極的ではなかった。この間、規制緩和も進んで大きく成長してきたのがこの業界です。一時活発だった外資系に代わって、今は国内企業が次々に事業拡大に取り組んでいますから、現場もマネジメントクラスも常に人材不足です」

“不良債権”の代表格的イメージのあった不動産を証券化して経済の活性化を促すというビジネスモデルは、株式や債券、先物取引など様々な金融資産において競争力の劣っていた日本にとって、唯一成長を維持し続けてきた分野と井出氏は強調する。こうした好調ぶりから市場は東南アジアへも広がっており、中国の上海や香港、シンガポールでも国境や地域を超えてビジネスを拡大している企業も多い。

「当初、機関投資家しか取り引きできなかったものが2001年からREIT(不動産投資信託証券)という形で個人も投資に参加できるようになりました。まだ5年しか経っていませんが、市場規模は約4兆円と言われるまでに急成長しています」

不動産の証券化は国が主導になっての規制緩和や規制撤廃といった制度改革が必要不可欠。06年中にはイギリスやドイツも経済活性化の新機軸として着手することが予定されているという。



株式会社フィスコ
アナリスト 株式担当
高橋明子さん

上智大学経済学部卒業後、大手都銀に入行。リテール(個人向け)営業として、投資商品などのセールスを手掛ける。2005年12月にフィスコへ転職。新興市場における相場概況をよみ、情報収集と発信を担当している
現在、不動産金融の分野で活躍している主力は若手が中心。前述の通り、新興のベンチャーの中でも株式上場や公開を果たした企業に対抗すべく、大手不動産会社や金融機関が新たに事業会社や専門部署を設け始めているからだ。不動産取引に加えて、金融に関する知識やスキルも求められる専門職のイメージがあるが、興味と意欲さえ高ければ、異業種から転身して活躍している人も多いと井出氏はいう。

「これまでは不動産業界から転職した人が多かった。今は金融業界から移ってきた人も含めて半々くらいだと思いますが、オフィスビルやホテルを丸ごと扱うなど規模と金額の大きさが一番の醍醐味でしょう。スケールメリットのある仕事をしたいという人にはやりがいがあると思います」

とはいえ交渉から契約締結へ至る過程で、関係省庁や関係機関、各自治体へも許認可を求める書類をまとめるなど一つのプロジェクトを成功へと導いていくまでには複雑で手間の掛かる作業も多い。最も順調かつスムーズに進んでも1カ月はかかりきりになるという。やはり強い熱意と業務への執着心が必要になっている。

「4兆円という市場規模は今後も拡大傾向にありますし、海外で活躍するチャンスや独立できる可能性も高い。若いうちにキャリアの幅を広げ、専門的なスキルを身につけたい人におすすめです」

業界では、日銀によるゼロ金利政策の解除はすでに織り込み済み。他の金融商品が利上げされても、不動産金融の優位性は当分揺るがないというのが統一的見解だ。第一線でファンドマネジャーやPL、PMとして活躍している人材のほとんどが30代という業界。転職を通して経験と実績を積み重ねていくことで短期間で主力プレイヤーに名を連ねることも可能だ。持続的な成長が期待できる日本経済の中心で、キャリアの幅を広げるチャンスは不動産金融業界にも数多く用意されている。



一方、銀行や証券、保険といった一般的な金融業界の動向を知る上で重要なキーワードが「貯蓄から投資へ」だ。特に銀行では、3大メガバンクの不良債権処理がほぼ終わったことと、投資意欲の高い団塊の世代が一斉に退職時期を迎えることから、リテールサービスの向上に力を入れる時期を迎えている、と話すのはフィスコのアナリストである高橋明子さんだ。

「規制緩和が進んで、銀行でも株式や債券、投資信託、保険など幅広い金融商品の販売ができるようになりました。こうした商品の販売において差別化を図るのはやはり恊l揩ノかかっています。商品開発からリテール営業まで、現場で活躍する人材の確保はどの銀行にとっても最優先の課題ですね」(高橋さん)

また、景気が低迷していた頃に採用を抑えた影響もあって、銀行に限らず金融機関全体で30代を中心とした中核の世代が慢性的に不足していると高橋さんは指摘する。このため金融機関での経験がなくても、個人を対象に商品やサービスの提供を行ってきたキャリアを有する人材も転職が可能な時期なのだという。

一方、ネット取引や通信販売が主流になってきた証券、保険でもやはり若手戦力の確保が大きな課題だ。

「貯蓄から投資へという傾向が強まる中で、ますます重要になるのは専門用語も含めて、金融の仕組みや商品のメリットを顧客に分かりやすく丁寧に伝えていく恤t加価値揩ナす。今、どの金融機関も知恵を絞って独自性のあるサービスときめ細かな対応を目指していますから、若手のアイデアや発想力を求めています」(高橋さん)



金融機関というと旧態依然としていて受け身的な経営姿勢と想像しがちだが、多彩な商品提供が可能になってマーケットも大きく広がったことから、前向きで意欲ある組織へと大きく変わりつつあるのだ。多種多様なバックグラウンドを持った人材が加わって最前線で活躍するようになれば、さらに業界全体が良い方向へと活性化していくと高橋さん自身も大きな期待を寄せる。

ダイナミックな変革の時期を迎えている金融機関は今、若手の登用にも積極的だ。新たな職場環境で、新しい発想力やアイデアを活かす絶好のタイミングといえるだろう。

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