基本的には在職中に転職活動をするのが良い」と語るのは、マーベラスエンターテイメントで人事担当を務める若井利仁氏。「人事担当者としては、職務についている方を採用したいのが本音のところ。募集しているポジションの状況にもよりますが、特に高いスキルと能力をお持ちの方であれば、時間が許す限り退職可能な時期を考慮し、お待ちすることもしています。多くの企業では、仕事のできる人材に仕事が集中する傾向にあるため、有能な人材は在職中であるとも言えるのではないでしょうか」と理由を語る。
在職中に転職活動をする最大のメリットは、“応募する企業から、無駄な不信感をもたれずに済む”こと。匿名を条件に取材に応じたIT業界の採用担当者も、「職務を離れていないため“ビジネスの勘”が鈍ることなく、入社直後からまさに即戦力で現場投入できるのもメリット」と、在職中に転職活動をはじめる利点を語る。
「面接日時が合わないことで転職できないこともあるのでは?」と不安になる転職ビギナーもいるのではないか。しかし、売り手市場の現在では、有能な人材を確保するのが人事担当者の使命。セッティングした面接日時に対する反応で、応募者の本気度を測ることもあるが、「30分でも会えるのであれば、応募者の出社前や昼休みなど、都合の良い日時・場所に行くようにしています」(IT業界・採用担当者)と、在職中の転職活動は、自分の都合に合わせられるという大きなメリットがあることは間違いない。
一方、デメリットについて前出のIT業界の採用担当者は業界事情が関係するという。「技術職は、欲しい人材が協力会社やユーザー企業に在籍していることもあります。欲しい人材でも、協力会社に在籍していたため、泣く泣く採用を見送ったこともあります」と、業界事情によって内定を獲得できないこともあるのだ。
在職中の最大の問題は「退職手続き」だろう。退職日が決まらなかった結果、内定取り消しとなることもあるという。「ただし、本当に必要な人材であれば、入社日を伸ばすための調整には努めます。ただしその期間は、通常2週間程度。最長でも1カ月程度なのではないでしょうか」(若井氏)。
リスクは少ない在職中の転職活動。しかし、退職手続きを失敗すれば、転職に成功しないことを頭に入れておきたいところだ。 |
|
|
離職済みの人材は、歓迎されているようだ。IT業界では、退職している技術者・コンサルタントの需要が高い。
「技術者が転職活動をできるのは、プロジェクトがカットオーバーし、次のプロジェクトにアサインされるまでの2週間。その中で転職活動をするのは難しい。それならば、すでに退職している人材を採用したいのが人事の本音」と、前出のIT業界の人事担当者は語る。
マーベラスエンターテイメントの若井氏も、在職中と退職している人材を比べて同じスキルであれば、退職している人材を採用するという。「すでに退職している方は、すぐでも入社できる方が多いので、入社時期が早められます」(若井氏)。
では、採用の現場では、どのような質問をしているのだろうか? 若井氏、IT業界の人事担当者とも「なぜ退職したのか」の説明を求めるようだ。「提出する職務経歴書に、退職後のブランク期間の理由を必ず明記するべきでしょう。退職理由も気になるところですが、説得力のある説明をできる能力があるかどうかということも重要なポイントなのです」(若井氏)と、論理的思考やコミュニケーション能力のレベルを確認するための質問にしているようだ。また、IT業界の人事担当者も次のように語る。「退職すれば、収入が断たれます。退職理由を聞く意図は、リスク管理ができるか否かを見極めるため」と、人事担当者が納得できる説明をできるかが、コツのようだ。
では、具体的にはどのような回答であれば、納得させることができるのだろうか。若井氏は退職後6カ月間のブランクがあった人材を採用した経験もある。「その方はブランクの期間で本気で“自分の売り”は何なのかなど、自己分析の期間に当てていました。一見、期間が長いように感じますが、面接を通じてそれだけ今後のキャリアを本気で考えていたことが伝わりました」(若井氏)。
IT業界の人事担当者は次のように語る。「今の会社でやりたいことができない、具体的に○○のスキルを向上させたいなど、キャリアアップに直接的に関連する“会社都合”の理由であれば、十分に納得できます」。
最近では「離職済みの人材の方が、転職やキャリアについて真剣に考えている」(IT業界・人事担当者)という。“企業ウケ”の観点からも、転職開始時期のトレンドからも、「退職→転職活動」の潮流ができつつあることは間違いない。
|
|