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山崎 元(やまざき はじめ) 氏 |
楽天証券経済研究所 客員研究員。三菱商事に入社後、転職歴は12回。野村投信委託、住友信託銀行、メリルリンチ証券など、名だたる金融機関で活躍したギョーカイの事情通 |
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金融業を支える仕事の一つに、金融システムエンジニアがあります。金融といっても、現場で札束が飛び交っているわけではなく、その実態はコンピュータ上でのデータのやり取りがほとんどです。システムをどう作っていくのか、使い勝手がどうかは、金融機関の競争力にも関わる重要な要素の一つといえます。
これまで銀行でも、第2次、第3次オンラインなどと称して大規模なシステムの開発を重ねてきました。金融SEは、事業のインフラともいえるシステムの構築や維持管理をずっと担ってきました。いわば、縁の下の力持ちのような存在といえるでしょう。
しかし、最近ではシステムの重要性が高まってきていることもあり、徐々にその存在感を増してきています。今や決裁にしても申請にしても、社内の事務そのものがシステム上で進むようになってきました。外部に向けても、ホームページからの情報発信をはじめ、ネットバンキングやネットトレーディングといったサービスなど、インターネットは支店と並ぶ対外的な窓口の一つとなりつつあります。
また、外資系金融では“フロントディベロッパー”といわれる職種も確立しています。トレーダーの指示のもと、株価の動きやポートフォリオのリスクを分析するプログラムを組むなどして、フロントオフィスの業務を技術的にサポートするわけです。
一口にシステムといっても、その言葉にくくられる仕事の範囲は多岐に渡っている。長らく「何をしているかわからない」といわれながら、業界を支えてきたシステム部門は、近年その地位は飛躍的に向上しています。経営における重要性が高まるにつれ、システム部門はある種の社内権力を持ちはじめたのです。
社内権力を拡大するバックオフィスの仕事
例えば自分のPCに使い慣れている日本語辞書をインストールするだけでも、システム部門に申請を出さなければならなくなる。「この管理者のパスワードで、ネットワークに入ってからインストールして下さい」などと、箸の上げ下ろしのようなことまで、いちいち彼らに許可をとることが必要になってきたわけです。
それでも、セキュリティがどうの、システムの安定性がこうのと専門的に切り込まれたら、他部署の人間はもちろん、経営者だって反論のしようがありません。次々とプロジェクトが立ち上がり、人員も増え、気がつけばシステム部門が自己増殖している。重要ではあるけれども、出世コースではないはずの金融SEですが、近い将来、副社長くらいにまで登りつめる例が出てくるかもしれません。
とはいえ、個々の金融SEの立場から見れば、必ずしもバラ色の未来が開けているとは言い難い。特に悩ましいのはキャリアプランの作り方といえるでしょう。自分が携わっている技術分野が、時代の主流ではなくなった時が一番危険なのです。システムと共に自分自身も古くなってしまい、それ以上のキャリアが広がらない可能性があるからです。
また、いかに社内のステイタスが向上しているとはいっても、基本的にバックオフィスの仕事であることに変わりはありません。いきなりクビを切られる可能性も少ないけれども、メーカーの技術者のようにイノベーションを起こして業界のスターになれるわけではなく、アナリストのようにランキングのベスト10入りしてボーナスが増えるわけでもなく、トレーダーのように億単位の報酬が得られるわけでもありません。システムは順調に動いて当り前で、トラブルでも起きようものなら社内外からの批難を受けながら、休日返上で復旧にあたらなければならない。いろいろな角度から光は差し込んでいるものの、給与体系も働き方もバックオフィスそのものなのです。
それでも、技術に携わりながら給与水準の高い金融業界でローリスク・ローリターンの仕事につけるのは、経済合理性を求める技術系人材にとって、決して悪い話ではなさそうです。
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