経営のプロフェッショナル  

渡邉美樹が贈る「仕事」と「価値」の創り方

自分の存在意義を世に示し、価値ある仕事に就きたい――。 「ひとつ上」のビジネスを展開することを望む価値ある仕事を創出し続けるプロ経営者・渡邉美樹が、 高い意識を持つビジネスパーソンたちに贈る、珠玉の言葉を聞け。 《2007年5月号より抜粋》

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ワタミ株式会社
代表取締役社長・CEO
渡邉美樹


1959年、神奈川県生まれ。小学5年生の時に将来社長になることを決意。84年創業。96年に店頭公開、2000年に東証一部上場を果たす。現在は外食、介護、農業、環境、教育、中食事業を展開

外食産業からスタートし、環境事業や農業へとビジネス領域を拡大してきたワタミグループ。2004年には介護事業に参入して注目を集めた。代表取締役社長・CEOの渡邉美樹氏は、NPO法人の理事長や政府の「教育再生会議」メンバーを務めるなど、個人としての活躍も目立つ人物。創業から今や23年で連結売上高1000億円となるグループ企業へと急成長したのは、渡邉氏のカリスマ的な経営手腕に依る所が大きい。

ワタミではあるミッションを明確に打ち出している。それは「地球上で一番たくさんのありがとうを集めるグループになりたい」というもの。ここには渡邉氏が起業した当時からの変わらぬ思いが集約されている。

「私が外食産業をやろうと決意したのは22歳の時。北半周一周旅行をしたことがきっかけでした。ソ連などの社会主義国も回ったのですが、当時は市場の自由がない頃で、店の経営もすべて官によって管理されていた。需要と供給のバランスなんてまったく考えていないから、大きな通りに店が一軒しかないということもある。だから食糧を買うために-20℃の寒さの中で30分並ばなくてはいけない、ということが起こってしまうんです」

それを見た渡邉氏は「自由主義社会ならどうなるだろう」と考えた。これほど大きな通りならもっと多くの店が出るだろうし、どの店も商品に付加価値をつけながらユーザーの争奪戦をするだろう。では、その中で生き残るのはどんな店か。その答えは「“ありがとう”がお金の上にのっている店」というものだった。

外食事業のノウハウを介護ビジネスに生かす

「何かを買って300円を払った時に、『これを300円で買えるなんて嬉しい』『あなたのお店があって良かったよ』という感謝の気持ちがお金の上にのっていれば、その事業は存続するはず。つまり自由主義社会というのは、お客様のためにありがとうを集めることができる会社が生き残る仕組みだと理解したわけです。だから自分が会社を作ったら、我々にしかできない付加価値の高い商品を提供して、できるだけ多くのありがとうを集めていこうと決意したのです」

しかし「感謝される仕事がしたい」と考えても、採算の取れるビジネスとして成り立たせるのは簡単なことではない。NPOやボランティア団体なら寄付の有効な使い方に1円の無駄も出せないが、売上げや利益は考えなくてもよい。企業である以上はそこを無視するわけにはいかないはずだ。しかし渡邉氏は、お金が入る“ありがとう”もお金の入らない“ありがとう”も同じことだと語る。

「私自身、NPOを設立して開発途上国の子どもたちを支援する活動を続けていますが、カンボジアの子どもたちからありがとうをもらうのも、介護施設にいるお年寄りからありがとうをもらうのも、私にとっては全く同じ。私がすべきことは、上手にポートフォリオを組みながら、ありがとうの価値を最大化していくこと。お金というのは、あくまでもそのための道具に過ぎないと考えています。お金を集めることが目的ではないのですよ」

次々と新規事業に参入してきたワタミだが、「儲かるだけの話にはまったく興味がない」と渡邉氏は言い切る。利益が上がることは確実だとしても、そこに誰かの喜ぶ顔が見えてこないとビジネスとして手掛ける価値はないという考えだ。介護事業に参入した時も、周囲からは「なぜ外食産業の会社が介護を?」との疑問の声が挙がったというが、渡邉氏の中ではその動機も一貫している。「自分たちが手掛ければ“とびきりのありがとう”を集められる」という確信があったのだ。

徹底したアンケートで顧客の声を聞く

「まず我々には、20年を掛けて培ってきた外食ビジネスのノウハウがある。それを施設介護の運営に活かせば、従来より2倍も3倍も価値のあるサービスが提供できると考えたのです。ご入居者様が一番喜んでくださるのは、やはり食事なんですよ。多くの介護施設では、外部の給食施設に委託したり、チルドや冷凍食品を使った食事を出していた。中には冷め切った味噌汁を平気で出すようなところもある。全般的に食のレベルは外食に比べ非常に低いのが現状なのです。それを見た時に、私だったら絶対にこんな食事は出さないと思った。安全・安心や栄養面はもちろんのこと、同じ価格ではるかにおいしいものを出してみせると誓ったのです」

さらに渡邉氏は「自分たちなら福祉をサービスに変えることができる」と考える。そこには創業以来、外食事業を通して顧客満足度を追求してきたからこその自信があった。

「福祉というのは、食事を提供しただけでお金がもらえる。でもサービスというのは、“よりおいしい食事”を提供しないとお金がもらえないものなのです。それに福祉というのは、国を見ている傾向にあります。お金が国から出ますからね。でも我々はご入居者様を見ている。どうすれば満足していただけるかを徹底して追求しているのです」

そのために実施しているのが、入居者とその家族に対する徹底したアンケート調査だ。この手法は、外食部門で従来から行われてきたもの。それを介護事業にそのまま持ち込んだ。

「『非常にいい施設だと思う』という回答が100%になるまで我々は満足しない。もし不満に思われる点があるなら、それをひとつひとつクリアしていく。そうすれば必ず100%という数字は達成できるはずですから」

顧客満足度を追求すれば、最終的には好みの問題までフォローすることになる。固めのご飯が好きな人もいれば、柔らかいご飯が好きな人もいるからだ。普通ならその部分は「仕方がない」と諦めてしまうものだが、ワタミではリクエストに応じて個別に対応しているという。

こうしたサービスの付加価値の高さを見れば、介護事業の好調ぶりも納得できる。今期も特定の介護つき有料老人ホームを新たに1000室以上開設する予定だ。採算が取れない、人材が確保できないなどの理由で介護事業に挫折する企業も多い中、極めて順調に推移している。

「私はただ、『自分の両親がその施設に入っていたら、どんなサービスをして欲しいか』ということだけを考え、妥協せずに追求してきただけです。外食事業でも『自分がこの店にお客として来ていたら、どんなサービスを受けたいか』と考えてきたから、それと同じことです」



一兆円企業を目標に掲げ社員の自覚と成長を促す


会社が成長して規模が大きくなると、経営トップが現場から遠ざかってしまうケースは珍しくないが、渡邉氏は現在でも頻繁に店舗や施設に足を運ぶ。客や利用者と同じ目線で物事を考えるからこそ、新たな商品やサービスが次々と生まれてくるのだ。

「私はただ現場が好きなだけ。だって、お客様の笑顔が見たくて外食産業を始めたんですから。お金が好きなら、会社でずっと帳簿だけ見ていればいいんでしょうけどね」

ワタミグループでは現在、「2020年までに一兆円企業になる」という目標を掲げている。渡邉氏は、これも別に金額を追いかけるための目標ではなく、一兆円分のありがとうを集められるかどうかが重要だと話す。

「戦略的なことを言えば、一兆円を達成するには二つの要素が足りない。一つは海外部門のビジネスモデルをきちんと構築すること。香港で成功している外食ビジネスを北京、上海、台湾へと順次広げて行くことが決定しています。そしてもう一つは、社員一人ひとりの自覚と成長でしょうね。それに尽きると思います」

とはいえグループ全体で3000人もの社員を抱えるまでに成長した今、一人ひとりの意識を高めて成長へと結びつけるのは容易ではないはずだ。渡邉氏は人材育成の秘訣を「諦めないこと」と語る。

成長するためには自分と向き合うことが必要

「国内の社員は3カ月に一回、海外なら半年に一回、必ず私から直接話を聞く場を設けています。何のためにこの会社があるのかを、繰り返し話して聞かせる。毎月社員に宛てて手紙を書いていますし、ビデオレターも見てもらっている。例えば、先月デンマークへ行って介護施設を視察してきたのですが、そこで私が何を学び、感じたのかといったことも含めてその様子を録画し、全ての社員に見てもらいました。私の思いを共有できるよう、あらゆる手段を使って社員にメッセージを届ける努力を続けています。そうしないと、彼らが主人公になれませんから。会社というのは何らかの思いを形にする場所ですが、僕の思いを形にするだけでは彼らは脇役になってしまう。彼らが僕の思いを自分の思いとして受け止め、自分の思いを形にするために頑張っているのだという意識に変わった時、彼らは一人ひとりが主人公になれるのです」

経営トップとして、「何よりもまず、社員の幸せを実現しなくていけないと考えている」という渡邉氏。自分が幸せでなければ、他人を幸せにしようという気持ちは生まれないと考えているからだ。 「では、社員の幸せとは一体何なのか。私は、『夢に向かって歩んで行くプロセスにおいて人間として成長し、たくさんのありがとうを集めること』だと定義づけをしている。だから『ありがとうを集める』というのも、実は全社員が幸せに生きるための手段に過ぎないのですよ」

そして渡邉氏は、若手ビジネスパーソンたちにも「成長するために一番大切なのは、自分の価値観を確立すること」とアドバイスを送る。

「どんな人生を歩みたいのか、社会とどのように関わっていきたいのか、一番大切にしているものは何なのか。それらの答えを見つけるためには、自分としっかり向き合うことが必要です。人生の価値というのは、どれだけ多くの人に『あなたがいてくれてよかった』と思ってもらえるかで決まる。私がNPOや学校の理事長など色々なことをやっているのも、そう考えているからです。まずは何のために自分は生きるのか、ということをきちんと考えなくては。仕事はあくまでも、その目的を果たすための手段に過ぎないのだと思いますね」

言い換えれば、自分の目指す生き方さえ分かっていれば、どんな仕事をすべきかは自ずと決まって来るということになる。もしキャリアプランに迷いがあるならば、今こそもっと根本的な価値観について見つめ直すべき時なのかも知れない。

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