壁を乗り越えたあの瞬間 スポーツキャリアの転機

第一線で活躍するビジネスパーソンは、自ら転機を作り、自立したキャリアを歩んでいる。さらに過酷なスポーツ界で勝ち残る選手は、どうやって壁を乗り越え、キャリアを積んできたのか。厳しい世界で生きる彼らから、そのタフさを学ぶ。 《2007年6月号より抜粋》
第2回 FC東京 今野 泰幸 Yasuyuki Konno
今野 泰幸
こんの・やすゆき 1983年生まれの24歳。東北高等学校卒業後、コンサドーレ札幌へ。2004年にFC東京へ移籍。高いディフェンスで相手の攻撃の芽を摘み、前線への正確なフィードで攻撃の起点となるボランチ。2005年、2006年日本代表メンバー

誰にも負けない武器を持つ、
それがプロの世界で生き抜く条件


サッカーというスポーツは、90分という時間の中で、いかに相手よりも多く走れるか、先の一歩を踏み出せるかに勝利がかかっている。つまりは、“タフネスな精神力”が試合開始から終了の笛が鳴るまで、休む間もなく求められるのだが、その要素をJリーグディビジョン1(J1)・FC東京のMF今野泰幸は24歳ながらも備えている。

持ち味は、高い守備能力と底知らずのスタミナ。相手の動きを読む洞察力に優れ、素早い寄せでボールを奪うと、前線へ展開しては好機を何度も演出する。また、どんな相手でも気後れすることなく食らいついていく根性は、年齢を越えたたくましさを感じさせる。

経験値も高く、2003年にはU-20世界ユース選手権(UAE)にキャプテンとして出場し、ベスト8に貢献。2004年にはアテネ五輪を経験、2005年8月には日本代表入りを果たした。今季はFC東京で、自身初となるキャプテンを務め、チームを束ねる。

常に高いレベルに身を置いて、「もっと、もっとやれる」と妥協なく自身のプレーを磨く今野。だが、プロに入った当初、思い悩んだ時期があったという。プロの門を叩いたのは2001年。東北高校卒業後、J2リーグ(当時はJ1リーグ)部のコンサドーレ札幌に加入した。高校時代は国体や高校選手権などの舞台を経験したが、サッカーを仕事とするプロの舞台はそう甘くはなかった。パス、ドリブル全ての速度が違い、フィジカルの強さも全くの別次元。

「高校時代に2、3日練習に参加をさせてもらう機会がありましたが、それくらいの期間だったら気も張っているし、なんとかついていくことはできるけれど、それを毎日続けなくちゃいけない。一回でもミスをしたら『この選手は、同じミスをする』というイメージを与えて試合で使ってもらえなくなると思うと緊張の連続でした」

不安は日を重ねるごとに増していった。初めてのキャンプでは、同部屋の選手に『もうダメかもしれない……』と弱音を吐いたことも。しかし、ある出来事が今野に転機をもたらした。

「当時の監督だった岡田(武史)さんから『お前の特徴は何だ?』と聞かれたんです。『分からないです』と言ったら、岡田さんが『お前は狙いを持ったアプローチが特徴だ』と。目からうろこというか、自分が評価をされているのはそこなんだと。当時は、プロのサッカー選手になれたのかも不思議なくらいでした。平均的にサッカーができていたと思うけれど、自分の特徴は分からなかった。周りはみんな巧くて、そんな中に自分がいきなり入って、ついていくのがやっと。自信もない。こういう中で試合に出て行くためにはどうすればいいのかってすごく考えたけれど、何も浮かばなかった。『辞めようかな』と思ったこともありました。でも、岡田さんに、自分でも気づかなかった特徴を言われ、『これが自分の武器なんだ』と思ったんです。そこを伸ばそう、そこだけは誰にも負けないと意識しました」

指揮官が求めているものが何なのか、自分の武器が何なのか。それが明確になった時、どんよりとしていた今野の視界は一気にクリアなものとなったのだった。巻き返しがはじまった。試合では、対峙する相手の目、足の動きなど全ての動きを見逃さず、狙いを持ってマークを徹底し、ことごとく相手の好機の芽をつんだ。どんなに苦しくても誰よりも走ることを心掛けた。その努力は実を結び、チームでは不動のレギュラーに。また、カテゴリーが一つ上の世代の代表にも飛び級で選出されるなど、今野は様々な人の注目を集め、キャリアを積んでいった。

「それがなかったら、プロで生き残っていくためにはどうすればいいんだと今でも悩んでいたかもしれない。先輩に『プロの世界で生き抜くには特徴を持て』と言われていたんですが、『あっ、これなんだ』と。自分を知り、それを磨くことは勝負の世界で生き抜く上では大事なことですね」

2004年、今野はFC東京に身を移した。ところ変わっても、独自のプレースタイルは貫き、すぐさまレギュラーに定着すると、同年、カップ戦の優勝に導いた。現在もキャリアアップにまい進中の今野。他の誰にもない、自分だからこその武器を携えて、今度はどんなキャリアを年表に刻むのか。

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