若手リーダーたちの「逆境」体験記  

20代・30代リーダーが乗り越えてきた「マネジメントの逆境」

現在、さまざまな企業で活躍している若手リーダーたち。彼らも初めて現場を任された時、新たな役割に悩み、失敗を経験してきた。それを克服して得た“気付き”とは?
取材・文/武田敏則(グレタケ)、長田幸康、伊藤健吾(編集部) 撮影/赤松洋太、大澤 誠、矢野健久、大島哲二 《2008年5月号より抜粋》

売り上げ重視の「独りよがり」を正してくれた、1枚の紙

海外ウェディングとハネムーン旅行に特化したエイチ・アイ・エスの『アバンティ&オアシス』。郷直人氏は、首都圏エリアの5店舗を束ねる35歳の統括責任者である。

旅行関連の仕事でキャリアを積み、入社したのは25歳の時。「年下の同期には負けたくない」と、仕事に明け暮れた。

結果、2年後に新宿店の副主任に、翌年には28歳で渋谷店の所長を任された。スピード出世だ。 「勝つまでやってみせる。スタッフの売り上げが振るわなくても、僕がその分を埋め合わせればいい。当時はそんな気持ちでした」

しかし、年中無休の渋谷店は、たった5人のスタッフに支えられていた。1人休めば途端に手が足りなくなるような窮状。慢性的に忙しい状態が続き、店内の空気は重苦しくなった。笛吹けど、スタッフの心は離れる一方……。 「僕1人で何とかできる限界点を超えていたんです。独りよがりでチームを引っ張っているつもりになっていた結果です」

そんな時、声をかけてくれる人がいた。壁に突き当たると、なぜか絶妙なタイミングで電話をかけてくる、入社以来の先輩だ。

一杯やりながら、先輩は1枚の紙を5本の指で支えて言った。 「この紙の上に立っているのがお前だ。指が1本でも欠けたら、立っていられなくなるんだよ」

まさに目からウロコだった。 「マネジャーとして結果を出すには、お客さまの声と同じくらい、スタッフの気持ちを理解することが大切だったんです。その後はダイレクトメールの封入作業を一緒にやるなど、事あるごとにメンバーの話を聞く時間を作りました」

こうしてチーム崩壊の危機は去り、今では社内きっての若手マネジャーに。最近は、ひと回りも年の離れた若いスタッフを「上手にしかる」ことに腐心している。 「大事なのは、頭ごなしにしかるのではなく、きちんと状況を理解してからしかること。部下が壁に当たっていたら、それを察して必要な行動指針を示す。そんな上司でありたいと思っています」

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