ラフアンドレディ株式会社のインタビュー
姉妹媒体『エンジニアtype』に掲載中のラフアンドレディ株式会社のインタビュー記事を転載しています。
企業のカルチャーや働く社員のイメージを知るためにご活用ください。
「一生に一度の体験」に全BET。SESの“ドナドナ”イメージを払拭する企業が築く「ゆるいつながり」の価値
エンジニアバブルの終焉がささやかれる昨今だが、多くの企業はいまだ人材獲得競争の渦中。特にSES企業にとって、業界に漂う「ドナドナ」のイメージを払拭できず、現場に常駐するエンジニアのエンゲージメントや企業のブランドが低下していくことが悩みの種になりやすい。どれだけ理念を掲げようと、待遇を工面しようと、企業そのもののブランドイメージを上げることは容易ではないだろう。
しかし、恵比寿に本社を構えるラフアンドレディは、この難題に対して異例のアプローチで成果を出している。それが、「一生に一度の体験」への全BETだ。
「別に、エンゲージメントを高めたいわけでも、全員に仲良くなってほしいわけでもないんです。仕事を楽しんでほしいんです」
そう語るのは、取締役であり創業メンバーの一人でもある桑折 誠太郎さん。話を聞くと、炎上案件や所属企業の倒産を経験してきた元エンジニアの経営陣たちの思いが見えてきた。
「会社イベントは来たいときだけ」「遠すぎず、近すぎず」という絶妙な距離感で圧倒的なエンゲージメントを生み出す異色の組織づくりの裏側について、桑折さんと、社内イベントや制度の企画に携わる広報の田川あんさんへの取材から探ってみよう。
ラフアンドレディ株式会社
取締役
桑折 誠太郎さん(写真右)
新卒でITベンチャーに入社し、その後SES企業に転職。28歳で事業部を立ち上げ、経営にも参画。その後、リーマンショックによる経営悪化を受けて会社は倒産。残ったメンバーと共に、2011年ラフアンドレディを設立
広報
田川あんさん(写真左)
新卒入社した大手アパレル会社を退職後、2016年にIT業界未経験でラフアンドレディに入社。エンジニアを経て、現在は広報としてSNSやHPによる情報発信に注力
ドナドナ、そして倒産……エンジニアの苦しみを知る経営陣が作った会社
ーーラフアンドレディは、桑折さんをはじめ前職からの仲間が集まって立ち上げた企業なんですよね。
桑折:そうですね。代表の中山と私たち取締役を含む創業メンバーは、同じSES企業で日々客先に送り出される、いわゆる「ドナドナ」されていました。
努力の甲斐あって今の創業メンバーに事業部を任せてもらえるようになったのですが、しばらく経った頃、リーマンショックで会社の経営が傾いてしまって……。金融関連の案件が多かったこともあり、一気に仕事がなくなってしまったんです。
2年くらいは粘ったんですが、最後の半年は社員の給与が払えず、下請け業者への支払いもできない状況に追い込まれました。すると、怒った債権者が会社に乗り込んでくるわけです。ときには会社の受付に座り込まれたこともあったし、呼び出されてなかなか帰してもらえないような日もあった。とてもここでは言えないような体験も、たくさんしました。
債権者対応を僕が担当し、中山は資金繰りに奔走。銀行はもちろん、税務署や法務局、労働基準監督署や裁判所にも交渉し、なんとか会社を存続させようと頑張ったのですが、力及ばずでした。
ピークには100人以上いた社員も、経営が悪化してからは次々といなくなり、最後に残ったのは僕たちを含めて10人ほど。そこで、中山や森下と「残ってくれたメンバーを解散させるのは惜しい」と話し合い、新しく会社を立ち上げることにしました。それがラフアンドレディです。
ーーラフアンドレディの経営陣は、苦楽を共にした仲間なんですね。
桑折:はい。前職の壮絶な2年間の体験の中で、一生分の価値があるものを得ました。
一つは、会社として仕事がなくなる中で、技術力を持ったエンジニアと、お客さまと人間関係ができているエンジニアには、常に仕事の引き合いが止まないことへの気付きです。もう一つは、給与や取引先への支払いができない中でも、僕たちを信頼してくれた、創業メンバーや、お客さまやパートナー会社が少なからずいるという気付きです。
僕の名刺に座右の銘として書いている「信なくば立たず」を、実体験できたのは一生分の価値があると思っています。
前職の会社は倒産してしまったものの、僕たちの事業部にいてくれたエンジニアに対する評価は高く、「君たちで新しい会社を作るなら契約するよ」という声もかけていただいたんです。そのお客さまと今でも取引が続いているおかげで、この規模感の会社にもかかわらず、大手企業と直接契約できています。
前職が倒産した時は、それはそれは苦労しました。ですが、最後まで助けてくれた創業メンバーや、当時のお客さま、パートナー会社の方々が今の会社を支えてくれているのも事実です。あの時の経験があったからこそ、今があるのは間違いありません。
ワークライフバランスの時代でも、仕事が楽しくなる仕組みづくりを
ーー桑折さんは、SES業界のどのような点に課題を感じていますか?
桑折:ドナドナされるとエンジニアが望む案件に入れませんし、希望の技術にも触れられない。気の合う仲間と仕事ができなかったり、商流が深くてエンジニアの声が上位会社に届きにくかったり……さまざまな課題があると思います。
僕も前職はSES企業で現場に出ていましたが、新しい技術に触れられて、中山や森下といった仲間と一緒に仕事ができていたので、恵まれていました。会社に身を任せるタイプではなかったので、声を上げて上司や営業、社長に直談判していたからかもしれません。
ですが、声を上げることができないエンジニアは、SES業界の波に飲まれてしまいやすい。「そうなるのだけは避けよう」というのが、創業メンバーに共通する思いでした。なので、エンドユーザーである企業との直接案件を中心に提案する方針に決めたんです。
商流の浅い案件なら、お客さまと相談しながら現場の状況をコントロールできます。それに、僕たち自身がエンジニアとしてさまざまな現場を経験しているので、技術への感度が高く、お客さまが求めていること、エンジニアが求めていることを見極めて提案できますからね。
ドナドナ、案件ガチャなどSES業界の悪しき常識を変えていかないと、結局のところエンジニア、お客さま、パートナー会社など、すべてのステークホルダーとの信頼関係が築けず、全員が不幸になります。創業から15年以上経った今も、「エンジニアが仕事を楽しめる案件を探すのが自分たちの役目だ」という意志は変わっていません。
ーーエンジニアが希望する案件へのアサインは、どのように実現しているのですか?
桑折:まず本人の希望する技術、工程、働き方を採用面談の時に聞きます。僕たちが提供できない希望の場合は無理に採用していないんです。
入社後も再度本人に希望を聞きながら、お客さまから依頼を受けている案件とマッチするなら提案する。もし依頼を受けている案件とマッチしないなら、お客さまに本人の希望を伝えて、マッチする案件がないか探してもらう。
このプロセスに特別なことはしていないです。僕たちがドナドナされる時にしてほしかったこと、してもらって嬉しかったことをしているだけなんです。
ーーその他にも、感じていたSESの課題はありますか?
桑折:そうですね。ワークスタイルに関して、SESだと現場に行くか、テレワークで作業して一日がただただ「仕事」して終わる。当たり前なんですが、好きなエンジニアリングが「仕事」になってしまうんですよね。
もう長いこと「ワークライフバランス」の重要性が叫ばれていますが、それを大切にしてくれているお客さまとのお取引を重視していますし、ラフアンドレディとしても大切にしているので、残業は極めて少ない状態を実現できています。
ただ実際のところ、エンジニアの中には技術に触れていることが好きで、「仕事が趣味の延長」というワークアズライフな人もいるはずです。僕がまさにそのタイプ。今も昔も、プライベートも仕事もフラットな状態で楽しむことができています。
ですが、どんなにエンジニアリングが好きでも、「仕事」となるとあらゆるしがらみがありますよね。人間関係、納期、評価などがストレスになって、「心から楽しめない」「プライベートと仕事は別ものだ」という人が多いことも分かります。
でも、人間は人生の多くの時間を「仕事」をして過ごすじゃないですか。だからラフアンドレディでは、仕事が楽しくなる仕組みづくりにも注力しているんです。
ーー具体的にはどんな取り組みを?
桑折:まずは、仕事の中でも「帰社日」を楽しみにしてもらおうと考えました。オフィスにゲームや雀卓を置いたり、社内のキッチンで料理を作って飲み会をしたりしました。起業した当初は人数も少なく、気心の知れたメンバーばかりだったので、全員が楽しめる環境をつくりやすかったんです。
ところが、少しずつ人が増えてくると、当然ながらゲームや麻雀に興味がない人も出てきます。何か良い案はないかとあれこれ考えていく中で思いついたのが「一生に一度、一人じゃ行かないけどみんなとなら行くかもプロジェクト」です。
ーーそれは一体どういう……?
桑折:「自らは進んで行かないけど、機会があるなら行ってみようかな」と思う場所ってありませんか? 例えば、僕にとってのそれがオペラでした。自分一人で行くことはないけど、会社の仲間とイベントとして行くなら参加してみようかな、と思える。帰社日をそんなイベントにできたらいいのでは……と思ったんです。
そこで、「行ってみたいと思う人がいたら来てね」とゆるく参加者を募り、実際にオペラを観に行きました。これが、ラフアンドレディの帰社日で「一生に一度、一人じゃ行かないけどみんなとなら行くかもプロジェクト」を開催するようになったきっかけです。今では、広報の田川と僕が中心になって企画しています。
ーー他にはどんな体験を?
田川:寄席や狂言、お笑いライブ、迎賓館赤坂離宮、地下神殿、夜パフェ専門店でパフェ活、ホテルニューオータニで1ピース4000円のケーキを食べるなど、いろいろなところへ行きましたね。新しくできた施設や流行りのスポットへ足を運ぶことも多く、オープンしたばかりのイマーシブ・フォート東京に行った時や、迎賓館赤坂離宮の前庭で話題のアフタヌーンティーを楽しんだ時など、特に若手エンジニアから好評でした。
社内交流会で迎賓館赤坂離宮に訪れ、アフタヌーンティーを楽しんだ際の1枚(出典:https://www.rough-and-ready.co.jp/n/n5ab67deab1ae)
費用は会社が全額負担するので、「興味はあるけど、入場料が高いから」とためらうような場所でも参加しやすいんですよね。社員からも行きたい場所についてアンケートをとり、企画の際には参考にしています。
ーー相当注力しているようですが、どれくらいの頻度で行っているんですか?
田川:現在は1〜2カ月に1度開催しています。基本的に「昼の部」「夜の部」の2部制で、昼の部でさまざまな場所に赴いた後、夜の部では食事やお酒を楽しむ懇親会を行うのが通例です。
ーー社内イベントは参加率を上げるのが難しいイメージがありますが、ラフアンドレディではいかがでしょう?
桑折:現在40名ほどいるメンバーのうち、昼の部は10人以上、夜の部は20人を超える人数が集まります。参加率はどんどん上がっていますね。
ただ、ラフアンドレディの場合はあくまでも任意参加。自分が行ってみたい場所だったり、みんなと飲みたい気分の時だけ自由に参加してね、というスタンスです。
飲み会だけだとマンネリ化しがちですが、毎回違う企画を用意しているので、飽きずに参加してくれるようですね。夜の部も話題のお店に行ったり、みんなで材料を買い出しに行ってバーベキューをしたりと、ただの飲み会にならないよう工夫しています。
ーー通常の帰社日の他にも、こだわりの施策はありますか?
桑折:年末には忘年会も盛大にやります。景品が当たるジャンケン大会やあみだくじ大会はかなり盛り上がりますよ。
イベント以外にも「こんなことができたら社員は嬉しいだろうな」と思ったことは、制度化して使いやすい形で提供します。
田川:例えばコロナ禍で在宅勤務が増えた時は、「GO To ラフ割」という制度を作りました。これはホテルやコワーキングオフィスなど、自宅以外で働く際の費用を月に4000円まで会社が負担する仕組みです。
当時は帰社日にみんなで集まることもできなかったので、せめて働く場所を変えて気分転換してほしいとの思いから始めました。現在も社員が柔軟な働き方を実現するための制度として継続しています。
「エンゲージメントのためじゃない」社員の定着はあくまで結果論
ーーラフアンドレディはエンジニアの定着率がとても高いそうですが、帰社日をはじめとする取り組みによってエンゲージメントが醸成されているんでしょうね。
桑折:結果的にはそうかもしれませんが、私たちとしては「エンゲージメントを高めたい」と思っているわけではないんです。社員同士に仲良くなってほしいわけでもないですしね。
ーーえっ、そうなんですか?
桑折:僕もエンジニアなので分かりますが、強いつながりを求めるエンジニアは決して多くないと思うんですよ。同じ会社に属しているというだけで、深い絆で結ばれた関係になりたいと思う人は少数派でしょう。
とはいえ、案件に入ると見知った顔が少ない環境で働くことになるので、やっぱり寂しさもあるはずなんです。相談や質問があればGoogle Chatでコミュニケーションがとれるけど、直接話したことがない相手だと気を遣いますしね。
でも、別の現場で働くメンバーと話す機会があれば、ちょっとした顔見知りにはなれる。それくらいの「ゆるいつながり」を作れればいいなという考えです。
ーーてっきり「定着率を上げる」という狙いもあると思っていました。
桑折:「コミュニティーとして楽しいし、そこにいると心地いい」と思える場になっているのであれば、それで十分じゃないかなと思っています。
田川:むしろ「遠すぎず、近すぎず、程よい距離」を大事にしているんですよ。ウェットな人間関係が苦手な人もいるので、これくらいの温度感がちょうどいいんじゃないかな、って。
HPでもイベントの様子を発信しているので、企画のユニークさや社員同士のゆるい交流を知ったうえで応募してくれるエンジニアも増えています。SESは競合も多く、差別化が難しい業界ですが、これだけ社内イベントに全振りしている会社は他にないので、かなりインパクトがあるんじゃないでしょうか。
ーー今後はどのような組織を目指していこうと考えていますか?
桑折:エンジニアが希望する案件を獲得したり、スキルアップを支援したりといった、会社として当然のことに加えて、「人生で一度だけの体験」を提供できる場所であり続けたいですね。
ラフアンドレディが全BETしていることは、一見すると「何の役に立つか分からない」と思うかもしれません。ですが、いつかふとした瞬間に役立ったり、人生の方向性に思わぬ影響を与えてくれるかもしれない。だから、ここで体験して得た経験や知識を「会社のために使おう」だなんて考えなくていいんです。経験というのは、自分の人生を豊かにするために積み重ねていくものですから。
私を含む創業メンバーは、前職で望まずして強烈な体験をしました。ですが、結果として信頼できる仲間を得て、ラフアンドレディを立ち上げ、今のような企業文化をつくることができています。「意図せぬ体験」の重要性を知っているからこそ、ラフアンドレディのエンジニアたちには、それを「ポジティブな体験」で味わってほしいんです。
前職のように、会社というのはあっけなくなくなります。最近はAIの進化が目覚ましいので、どんな会社であっても判断を一つ誤るだけで傾くリスクがあるといっても過言ではありません。
だからこそ、ラフアンドレディも安定的に経営を続けていくことが第一です。組織を急拡大するのではなく、経営陣が責任を持ってマネジメントや育成ができる範囲で、無理のない成長を目指したいですね。
それに、ラフアンドレディではAIには経験できない体験や、豊かな人間関係を持ったメンバーが集まっているので、ちょっとやそっとでは倒れない自信がありますし、この企業文化に賛同する仲間もまだまだ集まってくる自信や手応えがあります。これからも「技術」と「体験」でゆるくつながりながら、仕事を楽しめるエンジニアをSES業界に増やしていきたいなと思っています。
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撮影/竹井俊晴