株式会社リリー技研
代表取締役
後藤 渉さん
エンジニアを経て、2022年にリリー技研を設立。創業以来、フルリモート体制を貫く。追加請求を行わない「男気契約」や合格率1.8%の独自選考を通じ、高い生産性と責任感を両立するエンジニア組織づくりを実践している。
姉妹媒体『エンジニアtype』に掲載中の株式会社リリー技研のインタビュー記事を転載しています。
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なお、募集職種とは異なる職種やテーマのインタビュー記事が掲載されている可能性もございますので、ご了承ください。
コロナ禍を経て一気に広がったリモートワークだが、近年は再び出社を求める企業が増えている。その理由として挙げられるのが、コミュニケーションやマネジメント、若手育成の難しさだ。
組織として成果を出すには、同じ場所に集まって働く必要があるのだろうか。
この問いを考える上で興味深いのが、2022年の創業以来、今もフルリモートを基本とするリリー技研の組織づくりだ。
同社は自社の都合で納期が延びた場合には追加費用を一切請求しない「男気契約」で顧客の信頼を勝ち取り、地方在住のエンジニアにも東京水準以上の高待遇を提供し続けているという。
姿が見えないリモート環境下で、このようなリスクを伴う契約を結び、確実にプロジェクトを完遂させられるのはなぜか。代表取締役の後藤渉さんに話を聞いた。
株式会社リリー技研
代表取締役
後藤 渉さん
エンジニアを経て、2022年にリリー技研を設立。創業以来、フルリモート体制を貫く。追加請求を行わない「男気契約」や合格率1.8%の独自選考を通じ、高い生産性と責任感を両立するエンジニア組織づくりを実践している。
ーーIT業界でもオフィスへの「出社回帰」を促す企業が増えています。こうした世間の動きを、後藤さんはどのように見ていますか?
そもそも会社というものは、みんなで同じ場所に集まって仕事をするのが当たり前でしたよね。コロナ禍で一時的にリモートワークが普及しましたが、経営層も現場も元のやり方に慣れていた。だから、単に昔の状態に戻っている面も大きいと捉えています。
企業側からすれば、高い家賃を払ってオフィスを構えている以上、社員に来てもらおうと考えるのも自然でしょう。
世間で言われているほど、「リモートワークという仕組み自体が失敗したから出社に戻っている」わけではないと思っています。
ーーとはいえ、リモートワークではコミュニケーションやマネジメントが難しいという声もあります。
単純に「対面ではないから意思疎通が難しい」というより、IT業界、特にSESのビジネス構造には、リモートワークと相性の悪い部分があると私は考えています。
一般的なSESでは、「エンジニアが一定期間稼働すること」に対して料金が発生する契約が多いですよね。
この構造では、プロジェクトを予定より早く終わらせることと、会社の売上が必ずしも同じ方向を向きません。すると、「何が何でもこの期間で終わらせる」という動機を組織としてつくりにくい。姿が見えにくいリモート環境では、そうした成果責任の曖昧さがより表面化しやすいのだと思います。
ーーつまり、働く場所よりも、成果に対する責任の持たせ方の問題だと。
そうですね。リスクを取ってでも「期間と成果」にコミットする仕組みをつくれば、フルリモートでも高い成果は出せます。実際に当社では、社内で「男気契約」と呼んでいるやり方を採用しています。
例えば、「このプロジェクトは4カ月で完成させます。1カ月500万円なので計2000万円です」とお客様と約束する。もし当社側の問題で開発が遅れ、5カ月目に入ってしまった場合、延長分は請求しません。そこから先は当社の負担で完成させます。
ーーもし期間が延びた場合、会社としては赤字になるリスクがありますよね? 「絶対に遅らせるな」という現場への過度なプレッシャーになりませんか?
もちろん、延長したからといって社員の給料がなくなるわけではありません。また、経営側が一方的に納期を決めて、「この期間でやれ」と押し付けているわけでもないんです。
スケジュールの見積もりは、実際に手を動かすチームのメンバー自身に出してもらっています。「自分たちなら4カ月で確実にできる」と判断したラインで案件を受ける。だからこそ、「自分たちで決めた期間なのだから、そこに責任を持とう」と伝えています。
個別のフレームワークに何年触ってきたか、特定のAIツールを使えるかといったスキルももちろん必要です。ただ、それ以上に重要なのは、ゴールから逆算し、「この期間で完成させるには何をすべきか」を自分で考え続けられることだと思っています。
ーー成果への責任を明確にしても、リモート環境では「今どこまで進んでいるのか」が見えづらくなりませんか?
そうですね。リモートワークでもしっかりプロジェクトを進めるという意味では、成果や現在地を「見える状態」にしておくことが何よりも重要だと思います。
当社では、案件が始まるとまず「業務予定表」を作ります。いつまでに何をやるのか、誰が関わるのかを1枚で分かるようにして、毎月「案件状況報告会」を開くんですよ。
そこで予定通り進んでいるのかを確認し、「少し違うんじゃないか」と思えばその場で指摘します。進め方に迷ったり進行が分からなくなったりした時には、「Line of Effort(LOE:努力線)」という指標も使いながら、そもそも何を目指していたのかに立ち戻るようにしています。
ーーリモートだからこそ、細かく進捗を管理するべきだと。
「リモートだから」というより、仕事をする上で本来必要なことだと思っています。
良くないのは、「8月までにできるだけ頑張ります」のような目標設定です。それでは、できたのかできなかったのか判断できません。「この指標で何ポイント分進める」と定量的に置けば、誰がどこにいても成果を客観的に判断できます。
重要なのは、勤務している姿を見ることではなく、「何をいつまでにやるのか」が明確になっていることです。
かつ、そのスケジュールは基本的に現場のメンバー自身に引いてもらう方が良いですね。自分たちで未来から逆算してスケジュールを引くと、「この日までにこれを終わらせるには何が必要か」「別のチームがこの日に動けないならどう調整するか」と考えるようになります。
業務委託のように毎月自動的に売上が立つ仕事だと、極端に言えば「今月も働けばいい」という感覚になってしまうこともあります。でも、ゴールから逆算して仕事を組み立てさせれば、「この日までにここまで持っていかなければならない」という意識に変わります。
ーーそこまで自分で考えて動くことを求めるとなると、誰でもこの働き方に適応できるわけではなさそうです。リリー技研ではどのような基準で人材を見極めているのでしょうか。
まず、プログラミング言語の知識や経験年数といった「過去の経歴」や「小手先の技術」だけで判断しないことです。AIがコードを書く時代において、それらの価値は相対的に下がっています。
今、AIを100%使ってプロダクトを作る大会がありますが、優勝するのはエンジニアではなく、例えば弁護士向けのサービスを作った弁護士だったりするんです。
これからの時代に本当に価値を出せるのは、言われた通りにコードを書くスキルよりも、業界の知識や本質的な課題を理解し、自ら仮説を立てて提案できる人材です。採用では、そうした「地頭の良さ」や「本質的な課題解決力」をどう見抜くかに注力すべきです。
ーー面接の場でそれらの素養を見抜くのは、一筋縄ではいかなさそうです。
コーディングテストの出し方を工夫することをおすすめします。仕様があらかじめ与えられて「この通りに書いてください」という一般的なテストでは、言われたものを作る力しか測れません。
例えば、当社では「1, 2, 3, 5」という入力に対して「2, 4, 6, 10」という出力結果になる例だけを提示します。実際のテストではもう少し複雑ですが、「じゃあ、入力が『4』の時はいくつになりますか?」と、まずは隠された法則や仕様を自ら推測して当てさせる。
その上で、「どんな数字が来てもその法則通りに動くコードを書いてください」と求めます。言語化されていない仕様を自分で見つけ出す力を測るには、この手法が非常に有効です。
ーーどの辺りがつまずきやすいポイントなのでしょうか。
実は、最初の「法則を当てる」ことすらできない人が非常に多いのが実情です。2025年に『type』経由で1000人近くの応募をいただいたのですが、このテストを通過したのはわずか18人でした。
個人開発や趣味でやってきた方など、他のエンジニアと関わる機会が少ないと、自分のスキルが実務で通用すると思い込んでいるケースが少なくありません。社内から「テストが難しすぎる」と言われたこともありましたが、他のメンバーに採点を任せてみたら「世の中のエンジニアってこんなに法則を見抜けないんですね」と驚いていました。
ーーなるほど。ただコーディングテストだけで素養を見極めるのには限界がありますよね。
ええ。なので面接の場では、広く浅く聞くのではなく、一つのエピソードを徹底的に深掘りするやり方が良いと思います。例えば、「塾講師をしていて、生徒数を100人から200人に増やしました」というアピールがあったとします。結果は素晴らしいですが、面接ではそれをスタート地点にします。
そこから「なぜそれをやろうと思ったのか?」「どのように実現したのか?」「他にどんな方法を考えていたか?」とどんどん質問していくんです。
面接用にエピソードを準備してきただけの人は、必ずどこかでほころびが出ます。しかし、本当に目の前の課題に真剣に向き合っている人は、「実はこういう方法も考えていた」と次々に答えが出てきます。そのプロセスを見れば、本人がどれだけ深く思考して仕事に取り組んでいるかが分かるのではないでしょうか。
ーーリリー技研が求めている「自律性」は、単に「好きに働いてください」という意味ではなさそうですね。
それは評価軸にも表れていて、当社では等級を「経験年数」ではなく、「どこまで自分で判断できるか」で分けています。
例えば2等級なら、指示を受けて業務を完了でき、分からないことは自ら聞ける。実は多くの会社ではこのレベルで「1人前」と呼ばれますが、当社の3等級は、自分で意思決定し、下の等級のメンバーにも指示を出せる。4等級になると、自ら意思決定して行動し、業務予定表そのものを判断できることを求めます。
SES業界ではエンジニアを案件単価だけで評価しがちですが、私からするとそこにあまり意味はありません。それよりも、「どこまで自分で考え、判断し、成果につなげられるのか」を社内できちんと測れる方が良い組織になるはずです。
ーー「どこで働くか」という場所の議論よりも、いかに「成果を曖昧にせず、自律を促す設計にするか」が本質だと。
ええ。自由度が高い環境で組織として結果を出すには、会社と社員がお互いに約束した成果と待遇をきちんと返し合える、プロフェッショナルな関係であることが大前提になります。
出社かリモートかという表面的な枠組みにとらわれず、「何を成し遂げる組織なのか」を根本から設計し直すこと。それが、これからの時代のエンジニア組織に求められていることなのだと思います。
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撮影/赤松洋太 取材・文/今中康達(編集部)