生産技術分野の人材不足が指摘されている。メーカーとその関連会社など、製品づくりを手がける企業にあって“もっとも消費者に近い部門”にいるエンジニアはどんなキャリアアップが理想なのか? |
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株式会社
ケンブリッジ・
リサーチ研究所
シニアコンサルタント
栗原慎一氏 |
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情報収集力に長けたスペシャリストが成功する
自動車や家電などのハードからそれぞれのモジュールや半導体、ソフトウエアに至るまで、製品の一つひとつに「生産技術」がある。それも以前から普及している製品から次世代の定番として期待されている最先端のものまで、その種類はまさに無限だ。
ケンブリッジ・リサーチ研究所で、主に電気・電子・機械業界のエンジニアの人材紹介を手がけている栗原慎一氏は「さまざまな分野で業界再編が進んだ結果、現在は生産現場での求人ニーズが高まっている」と言う。生産技術分野のエンジニアにとっては、今がまさに飛躍のチャンスといえるのだ。
過渡期を迎える製品づくりの現場
キャリアアップを目指す生産技術部門のエンジニアが認識しておくべき業界の現状として、栗原氏は次の5点を挙げる。(1)景気回復、受注増に伴う設備増強、(2)景気動向から凍結されていた既存設備、および微細加工などの技術革新に伴う設備更新、(3)部品メーカーが扱う製品の高付加価値化・モジュール化の進展、(4)SCM・ジャストインシステムの普及からフレキシブルな生産システムへのシフト、D自動車・家電などのエレクトロニクス化に伴う製品の多用途化。
「モノづくりを手がける企業の多くが、この1?2年で改革を進めてきた結果、新たな成長期を迎えつつある」と栗原氏は指摘する。それぞれの業界や企業がもっとも得意とする分野と製品だけに的を絞ってヒト・モノ・カネを投入してきた成果として、新たな成長へ向かう過渡期にあるというのだ。
「これまで単機能の部品だけを造っていた企業も、複合的な機能を持つ製品を複数手がける必要が出てきています。このため、生産現場やラインの見直し、改良が大きく進んでいるのです」
改革を進める生産ラインの現場では、現在、コストや品質管理のスキルを持つ30代の人材のニーズがもっとも高い。今後はさらに若手人材の流動化も進むと栗原氏は予測する。
「部品メーカーも含めた自動車業界、最先端の技術を投入している電機・電子メーカー、ハイエンド向けの製品を手がけているその他の企業などでは、現在すでに積極的な中途採用を行っています。これまでは30代半ば以上のプロジェクトマネジャークラス、つまり中堅どころが中心でしたが、景気回復の波に乗って生産ライン全体の拡張・強化を進める企業が増えてくれば、今後は若手技術者のニーズも自ずと高まってくるでしょう。となると、扱う製品分野に共通項があることは求められるものの、異業種間での人材流動ももちろん発生してくると考えられます」
20代からマネジメントの練習を
転職時、20代の技術者に求められるのはやはりスペシャリティ。プラス、「小規模単位でもマネジメント業務に携わっておくべき」だと栗原氏はクギを刺す。そして、30代前半までに「現場の一切を任せられるくらいの知識と経験を身につけておくことが必要」だと言う。なぜなら、多くの企業が新たな経営戦略に沿ってラインを立ち上げている今、生産現場では最適な部材の調達から設備やスタッフの配置、効率的な稼働体制づくりなど、上流から下流までプロセス全体を見通せるマネジャーこそが求められているからだ。
「専門分野の知識や経験はもちろん、若手でもライン全体を統括できるくらいのキャリアや実績は必要です」
さらに異業種間での転職を目指すなら、業界内での自社・自身の技術水準を把握しておくほか、業界動向などの情報収集が必須と栗原氏は強調する。
「樹脂加工を扱っていた人が金属加工もできるかというと現実には難しい。特に異業種間での転職を目指すなら、自分が造っている製品の応用範囲を把握するべきです。たとえばプラスチック成型であれば、自動車や家電、家庭用品、場合によっては住宅建材にも通用する技術があることがわかります」
生産技術分野で理想のキャリアアップを目指すなら、できるだけ具体的なキャリアビジョンを描くことが重要。業界を超えて生産技術分野が成長過程にある今、拙速な判断よりも着実な実績こそが望まれているといえるだろう。
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異業種間でも共通する技術分野や業務分野の生産技術に関わっていれば、業種を超えた転職も難しくはない。さらに、各業界に共通する生産技術分野の新たな動向についての経験があれば、その知識・実績が転職市場における市場価値を高めてくれる |
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さまざまなキャリアパスが考えられるが、いずれにせよ、20代のうちは特定分野の技術知識を一通り身につけておくことが必要。また、転職だけではなく特定技術のスペシャリストとして起業する道もある |