自らの理想を求めたエンジニア 転職を決めたそれぞれの理由

転職が多少のリスクを伴うのは確かだろう。そうしたリスクを取っても、自らが輝ける場所を求めて行動を起こす人もいる。技術者としてどう生きていくべきか。迷いを振り切って、新天地を求めたエンジニアたちを取材した。


アバゴ・テクノロジー株式会社
チャネルビジネス部
プロダクトマネージャ
石井清司氏(30歳)
どを手がけたのち、ネットワーク機器メーカーへ転職。仕様書作成、回路設計、製品開発から量産化までの一連のプロセスを担当。06年2月、前年12月にアジレント・テクノロジー傘下から独立したばかりのアバゴ・テクノロジーに入社。現在、光学式エンコーダのマーケティングに従事している

携帯電話、通信機器の設計開発を経験してきた石井清司氏が、半導体メーカーであるアバゴ・テクノロジーへの転職を決めた理由は明快だ。

「前社の製品開発では、汎用部品を組み合わせるだけの設計だったので、『これってモノづくりなのかな』という違和感が常にありました。そのうち、技術のもっとも上流である半導体の領域から製品の差別化を図っていくことが大切ではないかと考えるようになったんです」

前職までの経験から、半導体メーカーが次世代の製品を生み出さなければ、あらゆる製品の応用、発展は難しいと感じていた。その実感から、転職活動時は職種をマーケティング職に絞った。

「半導体のマーケティング職はあらゆるプロダクトの核が生まれる出発点。開発経験を活かしながらマーケティングスキルを身に付けて、新しいアプリケーションによるビジネス開発を積極的に進めていきたい」

現在、石井氏が担当するのはアバゴの主力製品である光学式エンコーダ。開発経験者だからこそ、顧客企業側の気持ちがよく分かるという。

「いまは顧客側との対話を通じて、製品が市場に展開されていくダイナミズムを学んでいる最中。こうした経験が、半導体の新市場開拓に向けた着実なマイルストーンになると思っています」

日本ドナルドソン株式会社
技術部 製品設計グループ
主任
森下益道氏(39歳)
高等専門学校卒業後、自動車メーカーに入社。13年間の在職中、4年間のアメリカ駐在をはさんで品質保証や整備用の専用工具開発などに携わる。2001年7月に再就職支援プログラムを利用して、各種フィルターをはじめとするエンジン関連を扱う部品メーカー、日本ドナルドソンへ転職。現在、エアクリーナーの設計・開発を手がけている

日本ドナルドソンへ転職して5年が経つ森下益道氏。前職は自動車メーカーで、品質保証やアフターセールスサービス関連などの部署で10年を超える経験を持つ。転職時にもっとも重視したのは、“モノづくり”のもっと上流に関わりたいという思いだった。

「前職では商品を売ったあとの対応をする、あるいは考えるという業務が中心でした。また組織が大きいこともあり、業務内容がある程度細分化、明確化していました。自分としてはもモノづくりのもっと上流、できれば商品企画に携わる仕事がしたかったのです」

現在は大口顧客の担当として、主力製品であるエンジン用エアクリーナーの仕様を決めて図面に反映する業務を担っている。試作品作りから量産、納入までの全工程の中で、複数の部署の間で調整役も務めるなど、仕事の幅は一気に広がった。

「標準的なラインナップをもとに、顧客の要望に応じて最終仕様にまとめていきます。生産側の都合と顧客要望の間で最適な妥協点を探り、うまく図面に反映できるよう努力していくことが自分自身のスキルアップにもつながっています」

前職で海外に駐在していた経験から、世界各国のマーケットから寄せられる技術的な問い合わせに応える業務も任されている。今後はリキッドフィルター、マフラーなど他のラインナップ商品についても知識や技術を深め、幅広いキャリアを持つエンジニアになることが目標だ。

GE横河メディカルシステム株式会社
技術本部 MR技術部
馬場 誠氏(29歳)
大学を卒業後、大手電機メーカーに入社。第3世代携帯電話端末の無線モジュールの開発に従事。その後、2005年5月にGE横河メディカルシステムに転職。畑違いである医療機器の開発に興味を持ったのは、「民生品と違い医療機器は絶対に壊れてはいけない。その開発哲学に触れてみたかった。エンジニアとしての幅を広げたかったんです」

前職での携帯電話の開発では、ユーザーからの問い合わせがあっても、サプライヤーに聞くしかなかった。本当は技術の詳細を理解していなければならない。だが、携帯電話は製品サイクルが速すぎてそれを解明している時間がない。こうしたジレンマのなかで馬場誠氏は転職を考え始めた。

「サプライヤーの技術はブラックボックスとして扱わざるをえなかった。結局技術の本質が分からず、部品を組み合わせることがメインの仕事になっていた」

こう語る馬場氏だが、前職の仕事にやりがいを感じなかったわけではない。自分が開発した携帯電話が街中で使われている。しかも、自分が担当していたのは携帯電話の命ともいえる無線部分。仕事の成果は実感していた。それでも転職に踏み切ったのは、“技術の本質に触れられる開発に携わりたい”という想いが沸点に達したからだった。

現在、馬場氏はMRI機器の主要機能のひとつである無線信号を当てて人体を画像化する装置開発に携わっている。設計から量産まで開発の全体像も見渡せている。もうそこにブラックボックスはない。ゼロからモノを生み出す仕事だ。

「命に関わる機器の開発なので、これまでとは違う責任感と緊張感は感じています。携帯電話とはまったく違う開発哲学から多くを学んでいきたいですね」


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