昨年10月に発刊され、たちまちベストセラーとなった遠藤功氏の著書『見える化』は、企業の現場にいくつもの「見えない」問題や知恵が潜んでいることを指摘。それらを「見える」ようにすることが、競争力を高める第一歩になると説いている。 この方法論は、言葉で自己表現するのが下手だといわれがちなモノづくりエンジニアが自らの強みを掘り起こし、転職で効果的にアピールしていくためにも使えるはず――。今回、エンジニアtypeはこう考えた。遠藤氏も、アピール力を鍛えるにはまず経験を「見える化」する作業が必要だとアドバイスする。 「コンサルタントという仕事柄、メーカーのエンジニアにお会いする機会もたくさんあります。彼らは今やっている開発や技術の話題になると、堰を切ったように話し続ける。『現在』の事柄に関しては決して話しベタではないんです。にもかかわらず面接などの場になるとうまく自分をアピールできなくなってしまうのは、自分自身の『過去』や『未来』のことが見えていないからでしょう」 「過去＝何をしてきたか？」や「将来＝何がしたいか？」が整理されていない状況で現在を語っても、相手には断片的な情報しか伝わらない。話に説得力がなくなってしまうのだ。アピール力を磨くために大事なのは、話し上手になることではなく視野を広げること。そのためにも、遠藤氏はこれまでの経歴や思いを文字にして書き出すことを奨める。 「実は私自身、ずいぶん前から思いついたときに“キャリアの見える化”をしているんです。ノートに『何をしてきたか』と『今できること』を書き出し、『将来はこうしていきたい』と思ったことも書き込む。過去・現在・未来の3軸を同時に『見える』ようにすると、自分では気づいていなかった可能性や問題点が見えてくるんです。私がサラリーマンからコンサルタントに転身したのも、この『キャリアノート』がきっかけでした」 だが、経歴や思いを整理するだけで果たして転職でアピールできるような強みが見つかるのだろうか。そう思う読者もいるだろう。そこで次に見える化すべきはキャリアのターニングポイントだと遠藤氏はいう。 「コンサルティングファームのトップとして私が最終面接を担当することもあるのですが、応募者にはまず『ヒストリーではなくストーリーが聞きたい』と伝えています」 ヒストリーとは経歴をただ羅列しただけのもの。一方のストーリーには、「こんな失敗をしたときに解決策をこう考えた」「こう行動して乗り越えた」「そこでこんなことを学んだ」といったような一連の流れがある。このストーリーが見えるようになれば、「だから今はこういうことができる」と相手に伝えるときにも真実味が加わり、単なる経験が価値へと生まれ変わるのだ。 「キャリアノートを書くときに、こういったストーリーも振り返ってみるといいでしょう。ただ、ノートを見返すだけでは価値を見出せない場合もあります。そんなときは自分のことをよく知る人やキャリアカウンセラーに相談してみる。自分を客観的に見てもらうという作業も、強みの見える化には欠かせません」 ちなみに、キャリアの転機を見える化していくと、徐々に自分がどんなことで満足していたか？ という価値観を理解することもできるようになるという。転職の目的は、応募した企業から内定をもらうことではなく、自分の志向やメンタリティとマッチングする会社に入ること。会社の選び方を間違えて入社後に後悔する……なんて事態を避けるためにも、動き出す前に自らの価値観も再認識しておこう。 こうして自らのストーリーや価値観を掘り起こしたら、最後は「場の見える化」が待っている。 「自らの価値を見える化したあとは、必ず応募する企業が何を求めているのかを調べておかなければなりません。それにあわせて、自らの『ストーリー』のどの部分を強調するかを決めていく。応募企業について自力で調べても分からない部分がある場合は、面接で確認するなり、知っている人に聞くのが一番です」 エンジニアのなかには、情報収集のやり方を含め、「聞けばすぐに分かるのに」ということをなぜか躊躇してしまう人が多いと遠藤氏は指摘する。書く・聞くという誰にでもすぐできることをなおざりにしないことが「見える化」成功のコツ。アピール力を磨くのに特別なテクニックは必要ない。行動あるのみだ。