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高橋俊介氏
東京大学工学部卒業、プリンストン大学工学部修士課程修了。マッキンゼーのコンサルタント、ワトソンワイアット社長を歴任。現在はピープルファクターコンサルティング代表および慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科教授 |
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せっかく転職をするならば、今の自分が抱える不満を転職先に持ち越すことは避けたい。そこで重要な視点となるのが、自分の“動機”を知ることだ。
「人間が行動を起こす基となる“動機”は、誰しもが無意識に持っているもの。その動機の内容や強さによって、同じ仕事でも満足感や不満を抱くポイントが変わってくるのです」
そう語るのは、慶応義塾大学大学院教授の高橋俊介氏。高橋氏は著書『キャリアの常識の嘘』において、人間の動機を上昇動機、人間関係動機、プロセス動機の3つに大きく分けて述べている。人は、自分の持つ動機が満たされる仕事をしているときほど、充実していると感じる生き物。まずは自分の動機を把握することが、仕事に充実感を得る、ひいては転職にも成功する第一歩にとなるといえるのだ。
転職先の企業が自分の動機に見合う社風であれば、転職後の満足度も高くなる。そこで、社風が自分の動機とどの程度合致するかを知るポイントについて、高橋氏はこう語る。
「その会社で出世している人がどんな人かを見ることですね。それでその会社が何に重きを置いて人を評価するかが見えてくるでしょう。転職活動の際には、人事担当者だけでなく現場で高く評価されている技術者の何人かと話す場を設けてもらうことが肝心といえるでしょうね」
ただし、動機に合う社風の会社を見つけてそこに転職すれば満足できるキャリアにつながるかというと、そうともいえない。なぜなら、仕事は自分の工夫次第で面白くもつまらなくもできるものだし、単純に面白いと感じることだけを続けることが技術者として成長することにつながるわけではないからだ。
「元来、自分が持っている1つの動機、たとえばプロセス動機だけを重視して仕事をすると、よくいえば『こだわりの職人』という評価は得られるかもしれませんが、組織や部下を顧みない独りよがりな技術オタクになる危険性もあります。最初から自分に合った仕事があるはずと思い込んで転職を繰り返す“青い鳥症候群”になるのも避けたいものですね」
そこで高橋氏が薦めるのは、最初から動機に合う会社や仕事を探すのではなく、現状の仕事を創意工夫して、自分の動機に近づける技術を磨くことだ。
「たとえば、上昇志向の強いエンジニアなら、職場の同僚を仮想のライバルと見なして競争すれば充実感を得られます」
転職して成功するコツとは、自分の動機を知り、いかに自分の強い動機の方向に働き方をもっていけるかにあるといえそうだ。 |