「現在、IT業界の技術者を取り巻く中途採用市場は求人過多の傾向にあります」

そう話すのは、人材紹介会社ディスコのキャリアコンサルタンツ事業部・副事業部長、久永祐喜氏だ。景気の上向き傾向に伴い開発案件が増加し、今やIT業界は「仕事はいくらでもあるから人が欲しい」という状況。しかし業界全体を見ても、システム開発に求められるクオリティは上がるばかり。どれだけ人が足りなくとも、一定の水準を満たさない技術者であれば採用するわけにはいかないのだ。

転職に学歴、社歴は一切不要！？

この状況を人材紹介会社リーベルの小塚康司氏は、

「学歴や社歴という個人の属性が有利・不利に働くことは以前よりもずっと減りました。あくまで現在の能力と志向から適性とポテンシャルを判断して採用する傾向が顕著です」

と評する。つまり、下請けの中小企業に勤める身であろうとも、実力をアピールできればプライムベンダーをはじめとする一流企業への転職が可能になるということだ。その反面、これまで有名企業の看板にあぐらをかいて能力開発を怠ってきた技術者には、厳しい現実が待ち受けているといえるだろう。

求人バブルともいえる活況にありながら、採用側の目は意外にもシビア。こうした状況で評価される技術者とはどんな人材なのか。前出の久永氏は転職希望者にみられる傾向を以下のように述べる。

「以前はあからさまに年収アップに固執する転職希望者が多くみられましたが、最近はそうした方は少数派ですね。事実、そうした動機で良い転職を実現できる方はまれです。現在、相談に来られる方の多くは、理想とする仕事と実際の業務内容のギャップに不満や不安があるというケースが圧倒的。転職希望者の意識が成熟してきたということでしょう」

久永氏いわく、転職に限らず技術者が自身のキャリアを考えるときにまず大切なのは、「職業人として、『その時点での現実的なゴール』を設定すること、そしてそれは社内外のどこで実現可能なのか模索すること」だという。もし、転職することなく自分の希望が叶うのであれば、まずはそのルートで自分の希望を叶える方法を考えるのが現実的だ。安易な転職は何も生まないのだから。そのうえでもし、どうしても転職という手段を使わなければそのゴールに辿りつけないというなら、転職活動を開始すればいい。その場合にも、転職先を選ぶ際は、高額な年収や企業名など、目に見える条件だけで選ぶのは考えもの。年収提示額や企業ブランドといった転職にまつわる個々の要因はむしろ、ときに冷静な判断を狂わせる材料として負の効果をもたらすことさえあるのだ。

「高収入」＝「幸せ」ではない！

「これは非常にレアなケースではありますが、以前、ある外資系企業で31歳にして年収1800万円を稼ぎ出す方がいました。でもその方は年収800万円の事業会社に転職したのです」

自分の志向と業務内容のズレの大きさ、それに仕事量の多さが自分のライフスタイルに与える悪影響を考えてのことだそうだが、その人にしてみればマイナス1000万円という年収ダウンをしてでもする価値のある転職だったということなのだろう。極端な例ではあるが、高収入や高待遇という条件が、必ずしも幸せにつながるわけではないことを示すひとつの好例といえるだろう。

転職を考えるうえで必要なのは、長期的に見た自分のキャリア形成において、目標とする姿に近づけるかどうかだ。そのためには、提示される年収額や用意されたポストといった表層的な条件を1つひとつ数えあげるだけでは見えてこない。そこで、ここで話を伺った人材紹介会社のコンサルタントへの取材から、編集部は幸せ転職の3大パターンを提示。読者自身の置かれた環境と照らし合わせて、各自で適した転職パターンをイメージしてほしい。