第9回 typeキャリアデザイン大賞レポート2007年、ニッポンの「MVP転職者」は誰！？

自分の強みを活かして“好き”を追求
エンジニアとして生涯現役を貫きたい

中国では、グーグルやヤフーを押さえて利用率トップを誇る検索エンジン『百度（baidu）』。日本でサービスを展開していくにあたり、検索性能の向上が大きな命題になっていた。そこで、日本側の開発技術者第一号として入社したのが、水野貴明氏だ。

小さなころからプログラミングが趣味だった水野氏だが、大学はあえて違う道を専攻。しかし、就職に際しては、「大手企業を親に持つシステム開発会社なら、それほど忙しくなさそうだ」という理由で、エンジニアとしてキャリアをスタートさせた。

「それでも、やっているうちに技術を追求することが面白くなってきたんです。そこで、会社の仕事をしつつ、技術系の雑誌や書籍のテクニカルライターとして、最新技術の動向を追っていきました」

そして、32歳になった時、「転職をしてやりたいことをするには、年齢的に今が最後のチャンス」と確信。「人力検索」が話題を呼んだネットベンチャーのはてなに転職を決めた。

そこで水野氏は、今までの自信を粉々に打ち砕かれる経験をする。あるサービスの刷新に関して決定打を打つことができなかった水野氏は、社内で、「水野さんに良いサービスが作れるとは思えない」という言葉を受けたのだ。

「プライドなんてズタズタになりましたね。はてなの２年半で、自分に何ができて、何ができないのかを思い知ることができました」

大工の棟梁のようなプレーイングマネジャーが理想

自分は、何が得意なのか。しばらく模索していた水野氏が出した答えは、「自分の役割は、今あるものを一つずつ、全力で良くしていくことだ」という結論だった。

「ゼロから何かを生み出す役割にあこがれてはてなに入社したのですが、どうも私は、そちらのタイプではないと感じました。つまり、建築家でなく、大工さんタイプだったというわけです」

そんな水野氏は、改めて自分にルールを課した。「技術的な困難を理由に、『できない』とは絶対に言わない」というものだ。

「できないと言うのは楽ですが、私の役割からすれば、それは言ってはいけない言葉です。できると信じて少しずつ目標に近づいていくのが自分らしいなと」

そして、今年百度に入社。インターネットの入り口である検索エンジンの技術に興味があったことが最大の理由だ。また、日本向けサービスの開発は日本に決定権があり、単純なローカライズ作業ではないところにも惹かれたという。

百度には日本人技術者が少なく、チームビルディングからマネジメントまで、すべて水野氏の肩に掛かっている。しかし水野氏は、プロのエンジニアとして、ずっと現場に携わっていきたいと話す。

「理想は、大工の棟梁なんです。チームを引っ張っていくが、自分もずっと技術を磨いていく。そんな役割を貫いていきたいですね」

ネットはもっと便利になるというのが、水野氏の持論だ。そのために検索エンジンができることは何か、模索の日々が続いている。