他分野からの転身もオススメ 「生産技術」が面白い!

モノづくりの要ともいえる生産技術の世界。その魅力に気付いていないエンジニアも多いのでは?
最新トピック満載の、生産技術者の採用ニーズ高騰の背景を探る!
【Word/KOJI URANO.CHIHIRO FUKUI(E-type) Photo/YUKARI MUSHIKA(E-type) Illustration/YOJI IMAI】
生産技術のフェーズ別最新TOPICS
完成品メーカーでは、多機能かつ高性能な製品を、少量多種開発し、短期間で市場に投入するサイクルが主流になりつつある。このため、限られた施設と設備、人員を、無駄なく配置して稼働させていく体制作りが求められている。一方、部品メーカーの現状は、生産管理を担える専門知識を持った人材の採用、育成、配置が急務となっている。加えて、数年後を見越した先行開発のための設備投資、人材活用も大きな課題である。また、IT化、FA化が進み、3次元CADで設計したデータを利用し、試作工程の簡略化を導入している企業も増えてきている。現代の生産技術分野では、業界を問わず、生き残りをかけて独自の製品開発力と生産技術力の強化が求められている。
お話を伺った方々
社団法人 日本経営工学会 会長
電気通信大学 電気通信学部 システム工学科 経営システム工学講座 教授
松井正之
工学博士。カリフォルニア大学での客員研究員などを経て現職に。著書に『生産企業のマネジメント』(共立出版刊)など多数
ネクステック株式会社
ビジネス変革推進 第一部 コンサルタント
黒井 尚
精密機器メーカーの製造・生産部門を経て、ネクステックへ転職。コンサルタントとして大手メーカーの業務改革などに携わる
テクノブレーン株式会社
人財事業部 スカウト部門 HARDsection キャリアコンサルタント
鈴木経之
大学理学部を卒業後、大手電機メーカーに就職。2005年にテクノブレーンに転職し、スカウト部門でヘッドハンティングを担当
日本における、経営工学に基づいた生産技術の必要性は新たな過渡期にある。こう指摘するのは日本経営工学会の会長である電気通信大学の松井正之氏だ。

「海外からの安価な製品の流入、顧客の多様化対策として、付加価値の高い製品を数多く短期間で市場に投入する“少量多種生産”と“製品ライフサイクルの短縮化”が、どのメーカーにとっても最優先の課題。これまで以上に少ないロットのラインを、いくつも同時に稼働させていくために、専門的な知識とスキルを持った技術者が求められているのです」

また、近年の企業の取り組みについてネクステックの黒井尚氏はこう語る。

「以前は個々の製品開発プロセスがそのまま部門に分かれたタテ割りの組織で製品開発が行われていました。しかし、それではQCDの責任の所在があいまいになる。トヨタ自動車の『チーフエンジニア制度』のような、プロジェクトマネジャーが生産工程を含む製品開発全体を統括し、一つ一つの課題を解決しながらQCDを満たすプロジェクトマネジメントを取り入れる企業が増えています」

テクノブレーンで技術者のスカウトを行っている鈴木経之氏も生産技術エンジニアの役割は大きいと語る。

「製品機能が高度化する一方、ライフサイクルが短くなると、単品生産では価値を生み出しにくい。生産工程の効率化でコストを下げようとする企業の取り組みにより、生産技術者の役割が重要度を増しています」

生産技術者の確保が成長の必須条件

モノづくりの現場でIT化、FA化が進み、CAE(コンピュータ支援エンジニアリング)が普及し、設計開発現場に3次元CADツールが完備されるようになった。今、製品の製造生産に必要なデータの共有と活用がスムーズになったことは、生産技術が果たした大きな進化であると松井氏も分析する。

こうして進化し続ける製造業の、多くの企業で生産技術者の採用ニーズは高まっているが、十分な人材確保ができていないのが現状だ。

「原因の一つとして、生産技術が自分のキャリアの選択肢になり得ることを知らないエンジニアが多いことが挙げられます。生産技術の現場が、いかに自分の仕事の成果が見えやすい職場かということを知ってほしいですね」(鈴木氏)

製造業全体の課題となっている生産技術力の向上を目指し、各メーカーでは積極的に生産技術者の採用を行っている。しかし、生産技術者に転身できるスキルを持つエンジニアは限られているのが実情だ。前出のテクノブレーン・鈴木氏は、「生産技術で働くことで経営に近い視点を養える」とその魅力を語る。

「大手家電メーカーなど、多くの企業が生産技術者の採用へ動き出しています。近年の動向として、高い付加価値を持った製品を短期間で市場へ送り出すために、『生産管理』を専門部署として設けるメーカーも増えてきている。設計開発から生産の全プロセスを管理し、必要なら具体的な対応を随時実施していく役割を担う部門です。今後、幅広い分野・業界の設計開発経験者の採用が広がっていくでしょう」(鈴木氏)
フェーズ別で見る最新採用動向! 設計開発からの転身で広がるキャリア

各領域で得られる知識やノウハウ

製品がユーザーに渡る直前、納品と物流に携わることは自社のマーケティング戦略を体で学ぶ経験になる。国内、海外のどのマーケットに出荷されていった製品がどう評価されたかというフィードバックは、エンジニアに必要不可欠な知識となる。また、ライン設計や設備設計の領域では、最先端の技術を活用した機器を扱うことができる。日本が世界に誇るモノづくりを最も象徴しているのが、製造装置・機器。そうした世界トップクラスの技術を結集した装置や機器の設計や運用を手掛けることは貴重な経験であるといえる。

これまでは、多機能製品の開発や生産を担う国内工場と、海外市場向け製品の量産を担う海外工場の2軸が主流だった日本の製造業。生産技術の変革の過渡期である今、エンジニアが生産技術分野で得られるメリットとは何か。

「国内で生産工程全体を統括する経験を積めば、次のステップとして海外の生産拠点をマネジメントしていくキャリアが開ける。広く世界のマーケットに応じたモノづくりの専門家として活躍できる可能性があります」(鈴木氏)

国内での販売が標準化した後、海外生産になる可能性を見越してライン設計をするために、設計開発のスキルを持ったエンジニアを生産技術分野で採用する企業も増えている。有益なキャリアアップを果たせると同時に、世界の市場で評価されるモノづくりの最終工程に携わるという大きな醍醐味も味わえるはずだ。

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