ひと足先に選ぶ次世代のMVE : 園田智也
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| 今年32歳の園田は大学に進学した当時、自身の将来に大きな不安と恐れを抱いていたと話す。彼は学部在学中の4年間を早稲田大の「田無寮」で過ごしたが、毎週末になると近所のカフェに座って20代、30代、40代、50代、60代と人生の岐路となるであろう時期を書き出し、それぞれにおいて“起業”や“人脈拡大”、“経営基盤の確立”など具体的な展望とビジョンとを思い描いていたと話す。 「ちょうど20歳の頃でしたが、とにかく自分が何を目指して何をするべきなのかを徹底的に考えていましたね。2001年に起業してから無我夢中で仕事に取り組んでいたこともあって、その考えたことをまったく忘れていましたけど（笑）」 彼が村岡研究室に加わったのは大学3年次の後半。当時、30人ほどが在籍していて先輩の中にはすでに注目される研究開発で成果を上げている人物もいた。その頃はまだUNIXの端末が使われていた時代で、Linuxベースのオープンソースが毎月のように登場してくる状況に園田は夢中になった。そんななかで、画期的な検索エンジンの開発はかなり進んでいて、彼も文字ベースのツールを作り上げた経験がある。当時、音声認識に関しては、まだ精度が高く実用的な技術が確立されていなかった。このことがウタゴエを立ち上げるきっかけになったという。 「自分のなかではっきりと声で楽曲を探す検索エンジンを開発しようと決めたのが1997年の5月ごろ。完成したのが翌年の3月ですから、10カ月ほどでしたね。1週間のうち4日は研究室に泊まり込んで3日は寮に戻るという生活でした（笑）。とにかく、仮眠している時以外はずっと考えているかプログラミングをしているか、という状態が何日も続きましたね」 園田が苦心したのは、検索結果の精度を高めるとともに検索に必要な時間を短縮することだった。さらには、検索の精度を高めるために音の高さだけでなく、リズムも認識する音声技術を開発。もともと相反する条件で、それも極限のレベルにまで持っていくことを目指したために、製品化に至るまでには試行錯誤の連続だったと振り返る。 アメリカでの特許取得が起業を後押し 満足度の高い検索エンジンの開発に成功した園田は、日本・アメリカ・ヨーロッパでの特許取得を目指して出願をする。大学の研究室における研究成果だが、ビジネスで活用しやすいようにと判断して個人での特許出願を選んだ。 「アメリカでは出願から半年で取得できました。このことが起業にあたっての大きな手応えになりましたね。特許出願は親戚の友人に弁理士がいて卒業記念にと勧められたことがきっかけですが、結果として特許が取得できたことは、今後の自分にとって大きな自信と武器になりましたね」 修士課程に進むと同時に、この研究成果が学術界や産業界でも高く評価されてベンチャーコンテストなどでも上位入賞を果たした。その後、園田は修士課程・博士課程で研究活動に励みながら起業を目指すが、アルバイトで自己資金を蓄えながらの挑戦になった。現在であれば特許取得も含めて大学発ベンチャーを立ち上げるにあたっては、官公庁や自治体、大学側にインキュベーション制度や施設などが豊富に用意されているが、当時はまだ未整備だった。 「ベンチャーキャピタルにプレゼンテーションをしたこともありますが、数年後にリターンをする義務がありました。まだビジネスの方向性はもちろん、現実的な事業計画も模索していた段階だったので、まずは自己資金で有限会社の設立から始めたのです」 アメリカでの特許取得から大学発ベンチャー設立とプロセスだけを見れば、華やかな学生起業家というイメージがある。しかし、2001年の設立から2004年までの3年間は、園田にとって企業経営と研究開発の両方を背負って過酷な日々が続いた。 「初年度だけがわずかに赤字で2年目、3年目とも黒字を確保できましたが、実状はつらかったですね。設立当初は受託開発をメインに、オファーがあったものは全てコンペなどに参加して予算もスケジュールもギリギリで受注から納品までをこなしていました。スタッフといっても私を含めてビジネスパートナーとアルバイトの3人でしたから、必要な仕事の全てが自分にかかっているような状態でしたね。だから２年間は給料ゼロでした（笑）」 園田は今も、経営に参画しているベンチャーキャピタル出身のビジネスパートナーからのサポートや、アルバイトとして働いてくれたスタッフへの感謝を忘れない。立ち上げから3年という最も重要な時期に、園田が描く夢やビジョンに向かって労力を惜しまず協力してくれたからだ。 「コンペで相場の半額の見積りを出したものや、どう考えても無理な納品スケジュールのものを請け負ったり、かなり無謀なこともありました。でも最初に苦労したことが、経営者としてもエンジニアとしても大きな財産になりましたね」 |
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