ひと足先に選ぶ次世代のMVE : 篠原俊一
大学の学部で4年間、修士および博士課程で5年間。篠原は合計約9年にわたって素粒子物理学を追究してきた。周囲の多くが、より深い研究へのステップアップを望んだが、当の篠原はあっさりと就職という選択肢を選んだ。 「研究には没頭していましたし、博士号も取得しましたから、研究者としての道も一つの選択肢でした。でもどこか飽きっぽくてあまのじゃくなところがあって、もしチャンスがあるなら“人の役に立つ分野”で働きたいと思ったんです」 博士課程の修了に合わせて就職活動を開始した彼が、候補として選んだ企業はわずか3社。その基準は「面白そうなビジネスを手掛けている」だった。選考と面接を経てフューチャーアーキテクトへの入社を決めたのは、組織がフラットで入社後の成果をきちんと評価されそうだと感じたからだ。 「会社訪問をしてみて、社長も役職や肩書ではなく名字にさん付けで呼ぶことや、1年間の成果をレビューする機会があるということを知って、健全な職場環境で仕事に取り組めると直感しました」 テスト主導でバグを出さない開発手法を活用 入社後、社内では“R&D”と呼ばれている研究開発部門に配属。以後、同社が開発しているミドルウエアの保守・拡張や、課題に直面したプロジェクトのサポートなどを通して、個々の業務アプリケーションからOS 、データベースやサーバの構築と運用、ネットワークまわりなど、システム全体をインフラ面も含めて必要な知識とスキルを短期間で身に付けた。 それまで篠原は、プログラミングやシステムの設計開発に通じていたわけではない。小学校高学年のころ、父親が所有していたPC9801を使ってBASICで簡単なプログラムを作った経験、それに大学での研究に必要な演算処理を行うためにコードを自分で書いていたくらいで、決してプログラミングのスペシャリストといえるレベルではなかった。 「基本的なプログラミング手法を覚えたら、あとは豊富なライブラリなどを参照して実際に手を動かしていく。その繰り返しがスキルアップになっていたんでしょうね。好き嫌いや向き不向きでなく、自然に身に付いていったという感じです」 加えて、入社から満3年を迎えるまでは、予測のつかない解析や検証を担当したことも貴重な経験になったと話す。プログラム上の不具合やシステム障害の発見と対応である。 「システム開発に付きものの作業ですが、比較的簡単に見つかる場合とアプリケーションからネットワークまで一つ一つ探していかなければならないケースなど、さまざまでした。しかし、この作業を通じてシステム全体を俯瞰する視点が養えました」 入社3年目、小売業向けのプロジェクトで、篠原はPOSシステムと連動するデータ処理で難易度の高い課題をクリアするプログラムを、実質わずか1カ月で完成させた。システムの実稼動後に一つもバグや障害がないという結果に、彼は自身が試してみた開発手法が効率的で精度も高いことを確信した。 「『テスト駆動開発』と呼ばれるもので、テストケースのコードを記述しながら、並行して実装を進めていきます。手間がかかると思われがちですが、バグや不具合の出る確率を大幅に減らせることが大きなメリットであることを実感し、感動しました」 このプロジェクトは、篠原の卓越したプログラミング能力と、スピーディで確実な開発手法が高く評価される事例になった。 フューチャーアーキテクトは、多層システムとネットワークを活用したプロジェクトを数多く手掛けるITコンサルティング会社だ。開発に用いられる言語はJavaが主流で、システムの核となるメッセージング・ミドルウエアの更新も当初はJava上で試みられた。何度かのトライ&エラーの後、篠原はこの開発をオブジェクト指向スクリプト言語の一つである『Ruby』上で始めた。Rubyはオープンソースソフトウエア(OSS)として公開されていた。 「海外の最新動向も含めて情報収集してみると、さまざまな環境で動作し、またJavaで実装された処理系もあり、従来のプログラムとも親和性が高い。でも一番のメリットは、私にとって楽しくプログラミングが進められるところでした」 |