ひと足先に選ぶ次世代のMVE : 樋口智裕
大学3年生の時、学生ベンチャーの立ち上げに参画。樋口は携帯アプリケーションの自社開発を担当したが、事業縮小のあおりで撤退の憂き目に遭い、その後は企業の業務システムやHPの受託開発を手掛けた。しかし、顧客の決めた仕様に沿って作る仕事にモチベーションは上がらず、大学卒業間もない2005年5月に退社した。 とはいうものの、「就活するつもりはまったくなかった」と樋口は言う。Webエンジニアとしての道に迷いはなく、半年間、フリーランスのエンジニアとしてシステム受託開発の仕事を続けた。起業資金を貯め、2006年1月、資本金10万円でバンク・オブ・イノベーションを設立。しかし、起業当時は資金繰りに苦しみ、経営の厳しさを味わった。半年ほど自転車操業が続いたが、仕事を手堅くこなすうちに顧客の信用も高まり、事業は軌道に乗った。1人で受託開発を請け負う傍ら、動画検索エンジン『Fooooo』の開発にも着手。2カ月でα版のリリースにこぎつけ、学生ベンチャー時代の仲間3人を誘って事業化に乗り出す。 「当時は『YouTube』や『ニコニコ動画』などの動画サイトが立ち上がり、ユーザー数も急速に拡大していました。こうした動画サイトを横断的に一括検索できるサイトを作ってしまえば、そこだけでコトが済んでしまう。それが『Fooooo』を作ろうと考えた理由です」 開発にあたっては、動画検索の効率を上げるために、Web上の動画情報を取得するクロールや解析の技術を工夫。欲しい情報に的確にアクセスするためのアルゴリズムを開発した。2007年3月に日本語と英語のサイトをリリースすると、『Fooooo』は業界誌やネットで採り上げられ、国内外で大きな反響を呼んだ。スペインからは「こっちでも『Fooooo』をやってみないか」と声がかかり、スペイン語版をリリース。米国のベンチャーキャピタルからは投資話も舞い込んだ。 「びっくりしましたね。海外から反響があるとはまったく予想していなかったので。日本から海外に向けて本当に発信できるんだということを、リアルに実感することができた。やったぜ、と思いました」 日本だけでなく世界に通用するモノづくりをしたい――。本田宗一郎にあこがれて抱いた高校時代の夢を、思いがけず射程距離内にとらえた瞬間だった。 「感動を持続する」というたぐいまれな才能 『Fooooo』がユーザーの支持を集めた理由について、樋口はこう分析する。 「『Fooooo』はお笑い芸人やアイドルなどのタレント、音楽系プロモーション動画など、特定の動画を探すのに使われることが多い。探している動画が『YouTube』になかったり、『YouTube』から削除されてしまったようなときも、『Fooooo』に来て一括検索すれば一発で見つかるわけです。音楽やゲームなど、特定の分野に強い動画サイトもあるので、『YouTube』に限らずいろいろな動画サイトから横断的に探せるという利便性がある。それがユーザーに受けた理由だと思います」 2007年10月にはサイトのリニューアルも実施。ランキングを導入し、動画の再生回数や『YouTube』での評価を重視した検索アルゴリズムの改良を行ったところ、それまで月間500万件程だったアクセス件数が一気に5000万件まで急上昇した。「今は広告収入を増やすためにも、PVを伸ばすことに専念したい」と言う樋口は、今後の未来図をどのように描いているのだろうか。 「これからは『動画に出会う』ためのサービス化を進めたい。動画は検索して観る以外に、ブログや友達に紹介されて観るパターンも多く、実はこうした需要の方がかなり大きいんです。今後は、ユーザーが特定ジャンルの動画を集めた動画のまとめサイトを『Fooooo』に内蔵していくことも考えたい。『Fooooo』の会員に自由に活動してもらえるような、動画をキーワードにしたコミュニティー化を進めたいですね」 そう語る樋口の夢は、「尊敬される経営者」になり、Hondaやソニー、マイクロソフトのように「長期的に会社を成長させ続ける」ことだと言う。時代に先駆けて新しい市場を創造する、真の意味でのベンチャー経営者になりたい。樋口を駆り立てているのはそんな思いだ。 「本田宗一郎の自伝を読まなければ、今の自分はなかった」と樋口は言う。しかし、一時的に何かに感動しても、それを保ち続けることは難しい。「今もその思いが持続しているのは、その感動があまりにも強烈だったから。それと、自分が秘めているものと合致したんでしょう」。1回限りの人生に賭け、自分でなければできないモノを作って世界に発信したい。「そんな思いを呼び起こしてくれたのが、本田宗一郎という存在だと思います」。 一度点火した火種を、途絶えることなく燃やし続けるという才能。「感動を持続する」というたぐいまれな能力こそが、樋口が授かった天恵といえるかもしれない。 「まだまだやるべきことはたくさんある」と話す樋口。長期的に成長し続ける会社を目指して、『Fooooo』の普及含めた樋口の挑戦はこれからも続いていく |