「契約交渉のプロ」が教える!年収アップのための交渉実践テクニック
スポーツ選手の契約交渉を任されるエージェントは“交渉のプロ”。 交渉のテクニックはたとえ違う分野でも共通するものが必ず存在するが、 そのテクニックとはどんなものか? 契約のプロが交渉に臨む心構えを伝授する! |
団 野村 氏
Don Nomura 株式会社KDNエージェンシー 日本を代表する契約交渉代理人(スポーツエージェント)。これまでに野茂英雄選手、伊良部秀輝選手、吉井理人選手など日本野球界から米MLBへと移籍した多くのアスリートの代理人業務を行う。著書に『交渉力』(角川書店)がある あらゆる交渉の本質は、立場や希望の異なるお互いが「納得」できるポイントを探ることにある。転職時の年収・年俸交渉においても、両者がハッピーになることが目的なのだ。
一般的に立場の強い企業は、年収交渉に前向きではない。だが、エンジニア不足はより深刻化しているため、転職者が年収交渉できる可能性は高い。 まず、交渉の前には自分の「今の市場価値」を知ることが大事である。数多くの契約を成立させたスポーツ・エージェントの団野村氏はこう語る。 「メジャーリーガーの年俸交渉では、前年の年俸はまったく関係ない。入団1?3年目やFA取得者など複数の市場があって、各市場での経済効果を含めた現在価値が年俸交渉の基準となる」 エンジニアの場合、技術スキル、プロジェクトの内容・規模・役割、業務知識の有無などによって、ある程度の市場価値を把握できる。市場価値を知ることで、不相応な年収を要求せずに済み、不当に安い年収提示に異を唱える根拠となる。 交渉を有利に進めるには、どこをアピールしていかに好条件を引き出すかという「戦略」が必要だ。そして戦略を練るためには、選手と選手を取り巻く様々な角度からのデータ収集が欠かせない。 「野球では、防御率0点の投手も打率10割の野手もいない。多くの情報を収集することで、どの成功の多さや失敗の少なさ、経済効果をアピールするのが効果的かを判断でき、失敗を指摘してくる相手にも反論しやすいのです」 現場のエンジニア不足に悩む会社とリーダー人材の確保が急務の会社とでは、当然評価のポイントが異なるだろう。 団氏は現・中日ドラゴンズの中村紀洋選手がドジャースとマイナー契約を結ぶ際は、実績以外もアピールした。ロサンゼルスにある日本企業の数や生活している日本人とアジア人の数、中村選手の獲得によって得られる地域社会の経済効果データまで収集して交渉に臨んだのだ。 また、団氏は伊良部秀輝選手がニューヨーク・ヤンキースに移籍するとき、同程度の力を持つ比較対象者を見つけ、彼との違いを強調して好条件を引き出した。 「当時ヤンキースにはアマチュアのキューバから亡命した投手がいて、彼の契約金は約700万ドル。プロ野球での実績は伊良部が上で、速いボールを投げ、コントロールもいい。最初1200万ドルを要求し、800万ドルで決着した」 この交渉は一度、1000万ドルで合意した。だが、書面にしていなかったため、口約束に終わった苦い経験もしている。 仮に自分と同等のキャリアを持つ人材の転職時年収がわかれば、その金額±いくらの範囲での交渉が可能だ。 また、交渉は何が起こるかわからない。だからこそ「最高を望みながら、最悪を想定して準備しておく」のが鉄則だ。契約交渉のプロである団氏は、常に最低AとB、2つのプランを用意している。近鉄と野茂英雄選手の交渉では、「複数年契約を認められれば残留する」、「認められなければ任意引退になり海外でプレーする」という2つの選択肢があった。メジャー行きは次善のBプランだったのである。 「条件次第でほかのチームに行くことができるなどのバックアッププランが多いほど、交渉を有利に進められる」 強気の年収交渉を重ねたために入社が決まらない可能性もある。若手エンジニアは、満額が認められない場合の納得額や年収不足をカバーできる条件、新たな転職先、現職に留まるといった選択肢のある状態で年収交渉に臨んでほしい。 |