開発の初期段階からチームを組み、その関係がより深化、多様化している完成車メーカーと部品メーカー。では、それぞれのエンジニアの仕事には、どのような変化があるのだろうか。キャリアカウンセリングを通して各エンジニアと直接的な接点を持つ加茂氏は、その変化の内容をこう説明する。
「部品メーカーには、とにかく一つのシステムとして部品を開発する能力が求められています。単品ではなく機能全体でとらえ、その結果新しく開発した製品がクルマに搭載したときにどのようなメリットをもたらすか、という視点で開発することが重要になっていますね。そのためにエンジニア個人も、システム全体を把握し、自分が担当する部品がどのように使われるかをきちんと理解する必要がある。また完成車メーカーに対しては、『こんな部品を使えば、こんなことが可能になる』と提案できるようになることが大切になってきています」
部品メーカーから”機能メーカー”に
一方、岡崎氏は両者の仕事内容の変化をこう指摘する。
「部品メーカーのエンジニアはスペシャリスト、完成車メーカーはディレクターやプロデューサー的な意味合いが強くなってきているといえるでしょう。その分、技術を持っていない部品メーカーの状況は厳しくなると思います。また開発するパーツはただの歯車ではなく、システム全体の機能品としてとらえる傾向が進みつつある。ですので、今は部品メーカーではなく、“機能メーカー”といった方が的確かもしれません」
では、両者に共通した仕事内容の課題とはどのようなものだろうか。
「日本市場での低迷が続く昨今、業績を伸ばすためには、完成車メーカーも部品メーカーもグローバルでの展開を重視した開発体制を取る必要があります。技術系の人材不足だけでなく、新工場立ち上げに要する人材の不足も深刻。エンジニア個人にも、運営の効率化など経営的な視点が求められているのかもしれません。人材の育成やエンジニアの語学力向上など、企業側には多方面に目を配らせて対策を練ってほしいですね」(松下氏)
イラストで解説! クルマ業界エンジニアの生態図
志向 依頼された部品の開発に汗! 完成車メーカーからの注文に応える受け身の態勢。1つの部品の改良に明け暮れ、期待通りの製品を納品することで達成感を得る スキル 機械工学の知識必須仕様書への忠実さ 機械工学の知識に通じていることが最低条件。完成車メーカーの戦略をくみ取って、そこにはまる部品を開発できる視点が求められた その後 生涯いちエンジニアであるか 脱・下請けを狙って、完成車メーカーに転職するか、その技術にこだわって専門分野を究め続けるかの2つの道が一般的だった |
志向 全体設計は得意だけどあとはサプライヤー任せ 「こういうクルマを作るにはこういう部品が必要」という全体を把握するのが得意。集めた部品をまとめて組み立てることに専念 スキル 時代を先取る新車の発想 機械工学の知識はもちろんのこと、進化を続ける新しいクルマを設計するための機械設計・CAD製図などの経験者が求められた その後 ほかの完成車メーカーや 大手志向と製品への愛着から、ほかの自動車メーカーへの転職はめったにない。現場エンジニアからPM・PLへと成長していくのが理想 |
志向 クルマ全体を考えた上で これまでの受け身の姿勢から、積極的に製品を提案して完成車メーカーと一緒に開発を進められる全体志向と部分志向を併せ持つ スキル 電気、素材、化学など 多様化する自動車製品に対応するため、さまざまな技術が必要とされ、異業界からの転職者も多い。プレゼン能力などの提案力も重視 その後 全体志向を鍛えているので もともと部分志向を持ったエンジニアは多いが、以前よりも完成車メーカーへ転職できる可能性が高まり、選択肢が広がった |
志向 プロデューサーとしてサプライヤーとも「協力」 以前にも増して「組み立て屋」というイメージに近く、エンジニアを束ねて一緒に開発するという発想で仕事をする協調志向へ スキル ドライバーとしての発想と 安全性能やデザインを追究する上で、ドライバーとしての視点が必要。また、異業種経験者の中でも電気系技術者は引く手あまただ その後 転職は依然としてまれ 他社への転職はあまりないが、世界各国に拠点を構えるメーカーが増えている分、社内での海外出向などの道が広がっている |
「イマ」だから入社したい! オススメ企業の条件5
電子制御系を開発している
ますます高度化、複雑化するクルマの電子制御系。電機メーカーやプラント開発メーカーなどで制御機構の開発に従事していた技術者は、クルマ業界でもそのキャリアを存分に活かせる
新しい開発手法を取り入れている
開発期間の短縮やコスト削減が重視される最近の自動車業界では、最新CADによる設計やCAEでの製品の機能シミュレーション確認などが進んでいる。これらを取り入れている企業はオススメ
複数国にグローバル展開している
中期的に見ると、BRICsなどの新興国を中心にしてモータリゼーションは発展する見込み。それらの国に拠点を持ち、現地の情勢やユーザー動向を把握しているメーカーは、業績を伸ばす可能性大だ
材料開発に積極的に取り組んでいる
生産コスト削減に大きく影響するのが材料。その研究開発に力を入れているメーカーは要注目だ。現在は最新の樹脂や繊維などの研究も進んでいるので素材系エンジニアの活躍の場は多い
システムで部品を開発している
部品単体でなく、システム全体を開発できる部品メーカーは、完成車メーカーのパートナーとして重要視される。共同で開発に取り組む機会も多いので、プレゼン能力に秀でた人にチャンスあり
・クルマ業界「キャリア・クロニクル」