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2006年に『α』ブランドでデジタル一眼レフカメラ市場に新規参入したソニー。2008年10月に発売された『α900』は、その最上位機種となる初のフルサイズモデルである。
このα900のメカ設計開発を統括した長谷川博朗氏は、前職ではコンパクトデジタルカメラのメカ設計のPLとして活躍し、ソニーが一眼レフ事業をスタートした2006年に入社した。本プロジェクトでは設計全体を統括する上司の下、メカ設計エンジニアをマネジメントするPLとしての参加だった。
「高性能のフルサイズ機はどうしても重くなってしまうのですが、α900はお年を召した方や女性でも写真を好きな方なら誰もが使いやすいカメラにするために『850グラム以下』という目標を立てました。メカ設計では特に軽量化を追求しつつ、高精度の内部機構を保護できる高剛性の外装・構造体にするという相反する条件のクリアが求められたんです」
構想設計段階での重量は1キログラム近くあり、長谷川氏は作業の大幅な見直しを決断。設計担当者ごとにグラム単位の軽量化を指示し、「これだけは絶対に達成しよう」とメンバーの作業ベクトルを合わせることで壁を乗り越えたという。
軽量化には厳しい姿勢で臨んだ長谷川氏だが、日ごろはメンバーの頑張り過ぎを防ぐように注意を向けている。日常的にメンバーに組織の方針や自分の考えを伝えるようにし、なかなか相談してこないメンバーに対しては、周囲の人に様子を尋ねてみることもあるという。
「最も怖いのは、問題を抱え込み、差し迫った状況になって『実はできませんでした』といきなり告白されること。スケジュール遅れなど、開発全体への影響を最小限に止めるためにも、悪い情報ほどいち早く吸い上げ、上司に報告すべきだと考えています」
PLになり、担当ユニットのメカ設計をしていたころより開発全体にかかわる分、「製品への愛着や完成した時の達成感がより強まる」という長谷川氏。完成したα900の本体重量は850グラム。先行展示会場で手に取ったユーザーが彼に向かって「軽いじゃないか」と声を掛けた。開発の苦労がすべて報われた瞬間だった。
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