新しいプロダクトを生み出すことに真っ向から挑戦できる“職人”というキャリア(浅草・飴細工アメシン)

「飴細工」と聞けば、脈々と受け継がれてきた技術によって
飴を成形する日本の伝統工芸…といったイメージを抱く人が多いだろう。
ところが、浅草の飴細工専門店「アメシン」で代表を務める手塚新理さんは、
この飴細工を「無限の可能性を秘めている全く新しい、面白いコンテンツ」だと語る。

飴細工は、指先の動きひとつで仕上がりががらりと変わる。
職人の勘やセンスだけで成形しているように思われがちだが、
実は綿密な手順があり、一瞬でも遅れると失敗作となる。

90度に溶かした飴を練り、棒につけたら、すぐさま成形を始める。
みるみるうちに飴の温度は下がっていくため、通常サイズでも3分、
小さいものなら10秒ほどが、固まるまでのタイムリミット。
そのわずかな時間で握りばさみを動かし、金魚やうさぎ、龍などを切り出す。

「一瞬の迷いが、出来を左右します。飴細工は決断の連続です」と語る通り、
完璧に仕上げるため、形によって最適な指の動きや飴の温度を理論的に定めているのだ。
「完成品が美しければ、作り方にも興味を持ってもらえる。
仕上がりがよいものは、作る工程だって面白いに決まっています」と手塚さん。
制作の様子を見せたり、体験教室を行うなどのパフォーマンスを精力的に行う中で、
作品を見たお客様のリアクションがやりがいに繋がっているという。

もともと花火師だった手塚さん。
花火はあがると美しいが、花火師は打ち上げを行うため、作ったものの成果を見ることができなかった。
さらに、安さ重視の外国産の花火が流通し国産花火の需要が減ってきたため、退職を決意。
その後、昔から好きだった手作業で面白いことができないかと考えていた時に、
知人に飴細工師になれば？と言われたことを思い出した。

「昔から飴細工のことは知っていました。しかし、いまいちぱっとしないなと。
でも、こんな業界だからこそ、自分がもっといいものを作り、
飴細工をおもしろいコンテンツにすることで、この業界を救えるんじゃないかと思いました」

そこから始まった飴細工師への道。師匠にはつかず、飴の仕事一本で暮らせるようになるまでは3年かかった。
まずはプロダクトデザインを学ぶためにデザインの事務所に入った。
その後、仕事を続けながら、独学で飴の材質や作り方のパターンを研究し、
自分なりのワークフローを見つけていったという。
飴細工の伝統は受け継がれているが、あえて、新しい飴細工の形を生み出していく道を選んだ。

「自分にしかできないものを作りたい。
古い伝統工芸の枠を超え新しいコンテンツとして、飴細工を浸透させていきたいんです。
飴というツールや昔ながらの技術をベースに、
洋菓子の技術や異業種の職人技などもどんどん取り入れて、
独自のワザを磨いていくつもりです」と手塚さんは語る。
「日一日と技術が磨かれていくことや努力を怠らないのは当然で、
いつも昨日作ったものを恥ずかしいと思える自分でいたい」と語る姿に、迷いはない。

そんな若きパイオニアである手塚さんは
現在、一緒に近代飴細工を切り拓いていく「弟子」を募集している。
90度もある飴を素手でこねたり、手のひらほどの金魚を数十匹も作り続けるなど、
飴細工師は地道な作業の連続ではあるが、
今世界から注目を集める日本の伝統工芸の最前線で、造形を追求する面白さを実感できる仕事だ。

オフィスワーカーにとって、“職人”という仕事は縁遠く感じるかもしれない。

しかし、飴細工師は、「モノづくりをしたい」というビジネスパーソンにとって、
飴細工というプロダクトで自分の想いを最大限表現できる、
新しいビジネスフィールドの一つとなるのではないだろうか。

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取材・文／菅原さくら（株式会社アバンギャルド）