営業マンになったAV女優――「ファンの人から、今の方が輝いてるって言われるんです」
葵まりん。職業、営業ウーマン。前職は、AV女優。その経歴に、多くの人が好奇心を隠すことはできないだろう。
事実、AV女優からAVメーカーの社員に転職する例はゼロではないが、後ろめたさや仕事のやりやすさを考慮してか、AV女優だった過去を隠す場合がほとんどだという。だが、彼女は「AV女優だったことを隠したいとか後悔したことはない」と胸を張る。
なぜ彼女はAV女優から営業という道を選んだのか。初めて経験する営業の世界で、何を見て、何に迷っているのか。これは、彼女のありのままのキャリア・インタビューである。
有名になりたい一心でAV女優の道へ。
やりがいと不毛さのはざまで揺れ惑った3年間
AV女優時代の名前は『葵野まりん』。彼女がAV女優という仕事を選んだのは、有名になりたかったからだ。
地方都市で暮らす少女だった葵まりんは、昔から人前に出るのが大好きだった。どうやったら有名になれるのだろう。華やかな世界を夢見たその目に飛び込んできたのは、深夜番組でアイドルのように活躍するAV女優の姿だった。AVからいずれはテレビに出られるような有名人になれるかもしれない。思い立った葵は、両親を必死の思いで説得し、上京した。
けれど、現実は甘くない。自分の名前だけでDVDが売れる、いわゆる単体女優はごくわずか。最初は企画女優としてコツコツと現場をこなしていった。競争の激しい世界で、どうすれば勝ち残れるか。葵は自分の見せ方をひたすら研究し続けた。
「相性が良い監督との現場は本当に楽しかったし、イベントとかで直接ファンの方から『良かったよ』って言ってもらえると励みになりました。逆につらかったのは、撮りたいものがない監督との現場。尺稼ぎのために延々と意味のない行為をさせられているときはつらかったですね」
人が観てエロくないもの、売れないものは撮影の段階でよく分かるという。その違いは、自分自身の手応え。メーカーによって売り上げは左右されるため、販売本数という目に見える数字での実感は得にくいが、自分が本気で頑張ったものはユーザーからの声が違った。レビューをチェックすると星がいくつも付き、微妙だなと思ったものは辛辣なコメントが並ぶ。ユーザーは、どこまでも正直だった。
「だけど、どんどんやりがいのない現場が増えてしまって。それで体調不良もあって、引退を決めました」
2014年6月、約3年のAV女優人生はひっそりと幕を閉じた。
何気ない一言で開けた営業としてのキャリア。
とにかく正直に営業をしようと心に決めた
引退後のキャリアは、真っ白だった。自分は今後どうやって生きていくのか。引退作品の現場で、スタッフにそう話すと、「だったらうちで営業をやってみたら」と声を掛けられた。トントン拍子に話は進み、葵は面接を受け、現職であるAVメーカーplumへの就職が決まった。初めての会社員生活は戸惑いと驚きの連続だった。
「まずは敬語が使えない。面接のときも、つい『マジで?』って返しちゃって、『まずは敬語の勉強をしようか』って言われたくらいですから(笑)。最初は先輩について、店舗を回って、先輩がどんなふうにお客さんと話すのか、現場で見ながら覚えていきました」
主な仕事内容は、販促用のPOPやレビュー動画の作成。DVDを観た上で、作品のポイントをキャッチーにまとめ、それを販売店舗に設置してもらえるよう提案に行く。また、作品の見どころを自ら解説した動画をYouTubeにアップしたり、大手販売チェーンが開く月1回の定例会議に参加し、自社の商品のプレゼンテーションも行っている。
「プレゼンをしていると、AV女優だった経験が活きているなと思います。単に配られた資料を読み上げるだけじゃつまらない。だから私はなるべく紙に書いていないことを、自分の言葉で話すようにしているんです。それができるのは、台本も何もない中で撮影をしていたAV女優の経験があったからだと思います」
営業としてはまだまだ若葉マーク。「店舗の担当者の人とは何を話したらいいのか分からなくて息が詰まることもある」と照れ笑いするが、ただひとつ心に決めていることがある。
「良いものは良い、悪いものは悪いがポリシー。だから何でも『この作品は良いですよ』とは勧められません。良いものはちゃんとお勧めするけど、自分が良くないと思ったのはそこまで推さない。だって嘘をついたら信用がなくなるから。私がお勧めしたものを観て、誰かがつまらないと思ったら、私が勧めている他の作品も不信感を持たれることになる。だから正直に営業するようにしています」
仕事に必要なのは、信用。目先の利益のために信用を損なうことは絶対にしない。それが、新米営業・葵まりんの美学だ。
「私の良い悪いの基準は、出ている女の子が頑張っているかどうか。私は男じゃないからどこでヌけるかは分からないし、性癖だってみんな違う。でも、女の子が頑張っているかは見てれば分かる。だから女の子のやる気が伝わらない作品は絶対に勧めません」
青臭いように聞こえるが、その信念は、試行錯誤しながらも良い作品を作ろうと懸命に頑張ったAV女優時代の自負に裏打ちされているように思えた。
営業こそが自分のキャラクターを活かせる天職。
「新しいアイデアを出せる人になりたい」
同時に営業として経験を積んでいく中で少しずつ葛藤も生まれつつある。店舗にPOPを提案して回る日々だが、具体的な目標数値は持たされていない。何店舗POPが設置されれば正解なのか。何千回YouTubeの動画が再生されれば正しいのか。確たる答えがなければ、それが売り上げに直結する証明もできない。それでも、どうしたら売り上げが伸びるか。日々考え、答えを探している。
「会社で働いてみて思ったのは、同じ人たちの中で話し合いをしても同じアイデアしか出てこないということ。それでうまくいくかと言ったら、何年もそうやって結局今この状況なんだからうまくいかないでしょっていう気持ちが正直あります。だから、私はそこで新しいアイデアを出せるようになりたい。だけど、まだそこまでの力もない。私に何ができるか、ずっと悩んでいます」
葵の目標はシンプルだ。plumをもっと有名にすること。そのために営業として力を付ける決意をしている。AV女優から営業への転職は、ほとんど前例のないキャリアだが、彼女自身は気にする様子を見せないどころか、むしろ楽しそうだ。
「AV女優時代のファンの方からも、AVをやってた頃より今の方が輝いているって言われるんです。私の良いところは明るいところ。だけど、AVって元気な雰囲気だとヌけないし、よく喋る性格も演技の中ではあんまり伝わらない。だからこの仕事は、私のキャラクターを活かせる天職だと思うんです」
どれだけ体を張っても、AV女優時代は自分自身への評価が見えにくかった。だが、営業は違う。目の前にお客さまがいるから、反応もダイレクトに伝わる。自分自身の人間力で勝負できる喜びを、葵は実感している。
こちらの質問に対し、フィットする言葉を選びながら、誠実に明かすその本音は、未熟で不器用で、でも真っ直ぐに仕事に向き合う“フツー”の新人営業マンのそれと、何ら変わりない姿だった。
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取材・文/横川良明 撮影/竹井俊晴
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