キャリア Vol.263

施設で育ち、マグロ漁船に乗っていた男は、なぜ100名以上の経営者を輩出する企業を作ることができたのか

「世界一夢を叶える企業になる」をビジョンとして掲げ、これまで100名以上の経営者を輩出してきた企業がある。それが、営業代行を主業務とするグローバルステージだ。現在、グループ会社は計36社。その経営トップはいずれも同社の卒業生ばかり。しかも、1社たりとも倒産したことがないという驚きの特色を持つ。

そんな型破りなグループを率いる代表取締役・薄井隆博氏は、その経歴も型破りだ。幼少時代を児童養護施設で過ごし、高校卒業後はアユの養殖に従事。マグロ漁船で遠洋漁業をした経験も持つ異色の男は、なぜ営業代行の会社を立ち上げたのか。そこには、荒波の人生の中で育んだ反骨心があった。

株式会社グローバルステージ 代表取締役 薄井隆博/うすい・たかひろ

株式会社グローバルステージ 代表取締役
薄井隆博/うすい・たかひろ

1977年、神奈川県生まれ。神奈川県立三崎水産高校卒業。その後、水産会社などを経て、大手飲食チェーンに転職。さらに外資系保険会社で営業実績を残した。2003年、有限会社グローバルステージ(現、株式会社グローバルステージ)を設立

夢なく過ごした少年時代。ただただ流れに身を任す

「当時の両親の顔は覚えていない」と、あっけらかんと明かす薄井氏。物心ついた時、彼はすでに児童養護施設にいた。小学4年生までそこで育った薄井氏は、世間一般の抱く施設育ちへのネガティブなイメージなどどこ吹く風といった様子で、当時のことを振り返る。

「私の育った施設はテレビもおもちゃもあったし、食事も衛生士の先生による手作り。だから特に恵まれていないと感じたことなんてないんです。強いて言うなら、私が施設で暮らしていると知った同級生の保護者たちが、変に優しく振る舞ったり、必要以上に同情的だと感じたことくらい。それ以外は何不自由なく過ごしました」

薄井氏は小4で実の祖父に養子として引き取られ、施設を離れることに。以来、祖父母のもとですくすくと成長していくが、勉強は大の苦手だったという。これがやりたいと強烈に思うものなども特になく、「世界一夢を叶える企業」を標榜する薄井氏の少年時代は、大きな夢も希望もない凡庸な毎日だった。

高校進学も考えていなかったが、祖父の強い後押しで近所の水産高校へ入学。それも水産関連の仕事がしたいわけではなかった。「単に家から自転車で5分で通えたから」と笑う。3年時の実習では、マグロ漁船に乗って、4カ月弱、遠洋漁業へ出た。最初の2週間は、船酔いでろくに立つこともできなかった。来る日も来る日も視界に広がるのは、茫洋たる大海原ばかり。そんな苛酷な船上生活を終え、無事に帰国した18歳の少年を待っていたのは、進路選択という現実だった。

「特にやりたいことはないけれど、働くこと自体に抵抗はなかったんです。それで、当時好きだったサッカーチームのジュビロ磐田に近いという理由だけで(笑)、静岡のある水産会社に就職しました」

「いつかこの人を見返したい」その反骨心が自分を大きくした

そこで薄井氏はアユの養殖に従事した。持ち前の勤勉な性格が経営者の目に留まり、従業員30名の小さなオーナー企業の中で薄井氏はめきめきと頭角を現していった。しかし、小さな諍いをきっかけに退職、東京にある大手飲食チェーンへ転職した。そこでもその働きぶりは高く評価され、23歳で恵比寿に構える550席の大型店舗の副支店長に抜擢された。これが薄井氏の人生を変える転機となった。

株式会社グローバルステージ 代表取締役 薄井隆博さん

「そこで料理長を務める先輩と対立したんです。その方は自分より一回り以上も年上のベテラン。実力のある方ですが、仕事のやり方や考え方が合わず、事あるごとに意見がぶつかりました。当時の私はまだ23歳で生意気盛り。結果、半ば会社を飛び出すかたちで退職することを決めました」

この対立こそが、薄井氏の負けん気に火をつけた。特別やりたいこともなかったが、それなりにどの場所でも上手く立ち回ってきた。けれど、ここで初めて悔しさを知った。

いつか必ずあの料理長を見返したい。そのためにはあの人にないスキルを身に付けなければ――。

反骨心をメラメラと燃え上がらせた23歳の青年が決めたのは、もっと経済感覚とビジネススキルを養うことだった。そのために、まずは営業力を鍛えようと外資系の保険会社に転職。さらに、100万円もの大金を払い、20代向けのビジネススクールへ入学。そこで、今日まで仕事上のパートナーとして信頼し合う山菅善成氏、冨田憲一氏と出会った。

「そのビジネススクールに入って何より衝撃を受けたのは、同じ20代で100万円という大金を払ってでも夢や希望を叶えたいという人がこんなにもいるんだということでした。当時の受講生はざっと概算して1000人程度。さらにその裏側では100万円という授業料や他の理由で入学できなかった若者もたくさんいる。だったら、そういう人たちに向けて無料で学べる仕組みをつくれないか。そう冨田さんと考えたんです」

自分の夢や目標を叶えるために、まず相応の経験と能力を身に付けなければならないと考える若者はたくさんいる。しかし、一流のビジネススクールに通うには、高額な授業料が必要だ。みんなが平等にきっかけやチャンスを掴めるためにはどうすればいいか。その答えは、ビジネスを通じて教育を受けられる場をつくることだった。

「特に、コミュニケーション能力や継続力、結果に対する意識といった重要スキルは全て営業に集約される。だったら営業代行の会社を立ち上げて、実践を通じて営業力を鍛えることができれば、どんな人でも自分の夢を叶えるきっかけやチャンスを掴めるんじゃないかなと思ったんです」

夢を叶えるきっかけを提供する、それが使命

こうして、グローバルステージは誕生した。同社の選考では職歴や能力は一切問わない。採用条件はただ一つ、本気で叶えたい夢や希望があること。夢や希望を叶えるために立ち上げた会社だからこそ、その船に乗り込む唯一のチケットは、夢のためならどんな犠牲を払ってもいとわないという本物の覚悟だった。

「最初の数年間は全く上手くいきませんでした。創業して3年目の年収は36万円。月収じゃないですよ(笑)。20代のうちは本当に苦労の連続でした」

泥水をすすり、光も見えぬ船底暮らしが長く続いた。だが、どれだけ貧窮しても心まで痩せ細ることはなかった。必ずいつか這い上がってみせる。23歳で味わったあの悔しさが、どんな嵐に向かっても帆を張り続ける堅忍不抜の心を育てた。

株式会社グローバルステージ 代表取締役 薄井隆博/うすい・たかひろ

「月並みですが、やはり自分が高卒だという劣等感も大きかったと思います。ビジネスの世界では、周りはみんな大卒。高卒というだけで、平等なきっかけやチャンスを与えられないことがたくさんあります。でも、それは彼らが4年間、学んできたからこそ。僻んだって仕方ない。彼らの何倍も努力をしなければ勝てないし、彼らより結果を出してイーブンなんだと考え、努力を惜しみませんでした」

その努力はやがて大きく花開き、グローバルステージは今ではグループ36社、従業員100名規模にまで成長した。「GSgroup」と称しているが、ホールディングスのような親会社・子会社の関係ではなく、一社一社の社長がオーナー社長であり、出身者たちのOB会のようなもの。それでも必要に応じて相互に情報を交換し合い、経営リソースも柔軟にシェアをする。

「グループ会社というよりも、コミュニティと呼んだ方がいいのかもしれないですね。ちょっと変かもしれませんが、ファミリーという社長もいます」

資本関係よりも精神的なつながりに重きを置く。その共同意識は、幼少時代を過ごした児童養護施設を思い起こさせる。血のつながりより、心のつながり。ひとつ屋根の下で赤の他人同士が肩を並べ、家族同然に生活してきた薄井氏だからこそ、経歴にとらわれることなく、どんな仲間も平等に迎え入れ、その巣立ちも本気で応援できるのかもしれない。

「おかげさまで会社も14期目を迎えました。でも私のやることは、今までもこれからも何も変わらない。全ての人にきっかけとチャンスを提供する場をつくること。そのきっかけやチャンスを通じて、みんなが成長し、さらなるきっかけやチャンスを生み出してくれたらいいなと思っています」

そのフラットな語り口に、かつての悔しさはもうない。反骨心をバネに這い上がった男は、今、自分だけの航路を揚々と突き進んでいる。

取材・文/横川良明 撮影/赤松洋太

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