プロレスラー棚橋弘至がビジネスマインドを説いたら、誰でも「100年に1人の逸材」になれることが分かった【スポプロ勝利の哲学】
やりたいことができないなら、できる環境を作ればいい
IWGPヘビー級王座は、国内最大手のプロレス団体「新日本プロレス」を象徴する、同団体で最も権威があるとされるタイトル。古くはアントニオ猪木、長州力ら錚々たるレスラーが腰に巻いたこのベルトの歴代最多連続防衛11回の記録をもつのが、現役チャンピオンの棚橋弘至選手(以下、敬称略)だ。
しかし、いまや押しも押されもせぬエースとなった棚橋選手だが、初めてIWGPのベルトを巻いた2006年当時、新日本プロレスはどん底の状態だった。90年代までの人気絶頂期を支えた看板選手が次々に他団体へ移籍。業界自体が格闘技ブームに押され気味だった。
「抜けていく人はみんな、『ここではやりたいことができない』と言う。世間的にも、辞めていく方が正義のような空気が漂っていました。でも僕は思ったんです。やりたいことができないなら、やりたいことができる環境を作っていけばいいじゃないか、と」
「選択肢に迷ったら、あえて難しそうな道を選ぶのが信条」という棚橋選手は、ともに残った先輩レスラーと、試合の合間の移動や食事で顔を合わせるたび、「どうすれば会社がよくなるか」を語り合った。長く苦しい時期を乗り越えるのには「身近な同志、そしてライバルの存在が大きかった」と振り返る。
2009年1月4日、東京ドーム。かつて付き人を務めていたこともある大御所レスラー武藤敬司との試合に勝利した直後、棚橋選手はマイクを取り、同じ新日本プロレス所属の若手レスラー中邑真輔選手に向けて唐突な宣戦布告を行った。
「新日本プロレスにエースは1人でいいんだよ!」
以前からライバル同士という意識が棚橋選手自身の中にはあったが、ファンや周りのレスラーに対しても、2人の関係性を明確に示す狙いがあった。
「プロレスラーに限ったことではなく、競い合う相手の存在は、お互いを高める効果をもたらします。心に秘めているのも悪くないですが、面と向かってライバル宣言するのもいいんじゃないですか? そうすることで、2人に対する社内の注目度も変わってきますから」
落ち込んでいる暇があったら道場でベンチプレスを上げろ
181センチ、103キロの棚橋選手は、“超人”ぞろいのプロレスラーの中にあっては特別体格が良いわけではない。五輪出場経験者のようなレスリングエリートの出自を持つわけでもない。チャンピオンになった今でもなお、「数いるレスラーの中から飛び出すために、常に進化し続けないといけない焦燥感がある」という。
「レスラーの合同練習では、みんなが1時間、同じメニューの筋トレや体力トレをこなします。レスラーとして“普通”な僕が抜け出すためには、人とは違う1時間を過ごさなければなりません。同じ練習から最大限の効果を生み出すため、考え抜いた末に出した1つの答えが、プロテインやアミノ酸といったサプリメントを究めること。もちろんそれ以外にも、常に『他人よりも成長するため』の工夫はしていましたね」
棚橋が「負けても落ち込まない」のも、限られた時間を有効に使おうと考えた結果だ。
「落ち込んでいる暇があったら、道場へ行ってベンチプレスを1回でも上げること。僕と他の選手の一番の違いは、この気持ちの切り替えの早さです。悔しさは引きずらない。しかし、忘れない。負けた相手と向き合えば、悔しさは必ずフラッシュバックしてよみがえり、力に変わります。感情を引きずって時間を無駄にしなくても、心の奥にとっておけばいいんです」
期待こそが無限のエネルギーを生む永久電池になる
日本中を回って年間100試合以上をこなすレスラー。「見られる商売」には完全なオフもない。しかし、棚橋には独自に発見した「疲れないメカニズム」があるという。
「試合でやられてバテバテでも、会場からの『棚橋コール』を受けると、何度でも立ち上がれることに気付いたんです。声援は期待に他ならない。そしてこの期待感こそが喜びなんです。自分のために生きるより、人のために生きる方が人間は力を発揮します。若い人には、できるだけ早くにそのことに気付いてほしいですね」
もちろん、周囲からの期待は一朝一夕には得られない。棚橋はリングの上はもちろん、試合後のパフォーマンスやファンサービスにおいても、常に全力を尽くしてきた。
「『10』のうち、たった『1』でも気を抜けば、人の目は頑張った『9』の方には向けられない。期待を得て、それを維持していくには、辛くても常に全力を尽くし、寄せられた期待以上のものを返していくしかないんです」
期待を力に変える「疲れないメカニズム」は、個人のマインドセットにも応用できる、と棚橋は続ける。
「疲れたときこそ、『お前はこんなものか』と自分に期待することです。そうすることで人は何度でも奮い立ちます。僕が『100年に1人の逸材』を自ら名乗っているのも、自分に期待をかけて、努力を促すためです」
日々全力を尽くし、周りの期待を力に変え、期待以上のものを返すことで常に進化を続ける。その道のりは苦しい。だが、「苦しい中、耐えて耐えて光をつかんでいくのが棚橋流の生き方」だ。
「これはジャンル、職種を問わない方法論だと思います。実践することで、みんながその業種の棚橋になれるんです。若いビジネスマンの皆さんには、ぜひとも各業界の『100年に1人の逸材』を目指してもらいたいですね」
取材・文/鈴木陸夫(編集部) 撮影/柴田ひろあき
2月14日(土)18:00 宮城・仙台サンプラザホール
3月5日(木)19:00 東京・大田区総合体育館
3月15日(日)17:00 広島・広島サンプラザホール
4月5日(日)16:00 東京・両国国技館
詳しい情報はホームページから 公式HP:http://www.njpw.co.jp/
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