先輩に言われる「石の上にも3年説」は信じるべき?新人がすぐ会社を辞めるのはキャリア的によくないのか、データを調べてみた
学生時代の就活では仕事のこともあまり分からずに入社を決めてしまったけれど、働いているうちに「違う会社で働きたい」と第二新卒転職を意識する人は多いもの。しかし若手社員の転職は、親や先輩から「石の上にも三年だ」と諭されるケースがいまだ多いのも事実だ。
転職市場においても、求人広告によく「○○経験3年以上」という条件が書いてあることを考えると、「3年継続する」ということを重視する企業は少なくないように思える。
だが、果たして本当に、新人ビジネスパーソンは3年くらい同じ会社・同じ職種に従事し続けないといけないのか。今回は、30代のビジネスパーソン230名の転職時期を調査し、3年以内に転職した人とそうでない人の違いを紐解くことで「石の上にも3年」説の真偽を検証する。
本記事は@typeの会員アンケートを元にしているため、その職種は営業職に限ってはいないものの、新卒入社者の多くが営業現場に配属されることを考えると、『営業type』読者にとっても有益な情報になるのではないだろうか。
なお、キャリアにおける成功・成長の定義は人それぞれなのは承知の上で、この記事では「仕事で成果を挙げている人が評価され、結果として良い報酬を得る」という観点から、指標として「年収」に注目して検証することにした。
平均以上の年収を得ている30代の66.7%が、新卒入社した会社で3年以上働いていた
まず、世の中の平均年収を確認してみよう。
国税庁が今年9月に発表した『民間給与実態統計調査結果(平成26年版)』によると、民間企業に勤める人全体の年収平均は415万円とのこと(男性平均514.4万円/女性平均272.2万円)。26年版の年代別給与平均はまだ結果が出ていないが、1年前の調査結果、つまり平成25年版では30代の平均年収が469万円となっている。
そこで今回は、30代ビジネスパーソンの平均年収を約500万円と定義し、平均以上の年収を得ている人とそうでない人で「最初の転職時期」がどう違ったのかを調べてみた。
すると、転職経験のある人の中で、年収が平均以下の人の43.8%が最初の勤務先を3年以内に転職していたという結果が出た。一方、30代で平均以上の年収を得ている層で、最初の転職を3年以内にしていた人は33.3%。また、この層では9年以上「初めて就職した会社」に勤めていた(または転職せずに30代を迎えた)人が最も多いという結果に。
全体的な傾向として、30代を迎えて世の中の平均値よりも高い年収を得ている人たちは、“人生の1社目”で3年以上働いているケースが多いという違いが見えた。
業種・職種によって給与水準は異なること、かつアンケート回答者の職位もバラバラなことを考慮すると、精密な分析ではないと前置きしなければならないが、あくまで一般的な傾向として「石の上にも3年説」はあながち間違いではない、ということが分かる。
「収入とは仕事の成果によって得られるもの」という観点だけで考察するなら、やはり一定期間腰を据えて目先の仕事に取り組むことが、ビジネスパーソンとしての素地を作るともいえるだろう。
3年以内に転職しても平均以上の給与を得ている人は「仕事の裁量」と「誰と働くか」を重視していた
それでは、上記のアンケートでは少数派だった
■現在平均以上の年収を得ている30代で、最初の勤め先を3年以内に転職した人
は、なぜ早期に転職したにも関わらず、高い収入を得ることができたのか。年収が平均以下である早期転職者と比べてみると、その「転職理由」に違いが生まれていた。
平均以下の早期転職者の多くが、最初の転職時に【希望する仕事内容】を求めていたことに対し、平均年収以上の早期転職者は【職場の人間関係】、【より優秀な人と働きたい】、【仕事の裁量】などを求めて転職していた人が多かった。
また、転職後に手に入った「最も価値のあること」を聞いてみると、多くの人が【希望する仕事ができた】、【給与が上がった】と答えているが、新卒入社から3年以内で転職しても平均以上の年収を得ている層は、【人間関係】や【より優秀な人と働けるようになった】ことにも価値を感じているようだった。
データ上では「石の上にも3年説」はある程度検証されたものの、「仕事の裁量」と「誰と働くか」を重視した転職の場合は、平均年収よりも高くなる≒早期に転職やジョブチェンジをしても後々評価されるスキルと経験を得ることができる、という傾向もあるようだ。
「1年半以上の経験がある若手は『機会とやる気を維持できる環境』を求めよう」
これらの調査結果を受けて、多くの転職者へのサポートを行ってきたキャリアコンサルタントの高野秀敏氏に「石の上にも3年説」の是非について聞いてみた。
高野氏いわく、転職市場で「第二新卒歓迎」と謳われていても、その期間を「社会人歴3年程度」と一括りにして捉えるのはナンセンスとのこと。
「私の経験上、就職して1年目の人に対してはほとんど採用のニーズがありません。この時期のビジネスパーソンは、仕事のスキルが大して変わらないからです。第二新卒枠で求められるのは、たいていの場合、社会人歴2年目以上の人になります」
そこで以降は、「1年半以上の社会人経験がある」というのを前提に話を進めたい。今回行った調査結果を見ると、前述のように「社会人3年目までに転職しても、『より優秀な人と働きたい』、『より大きな仕事の裁量を得たい』という理由であればその後のキャリアに悪影響はない」という仮説が立てられるが、高野氏もこれはあながち間違ってはいないと示唆する。
「若手が成長するのに必要な要素は、チャンス(機会)とやる気。一般的に、自分が新しい仕事にチャレンジしたり、実践を通じて学べる機会がある環境にいる人は、成長のスピードが速まるものです。ですから、仕事の裁量を増やすことを念頭に置いて転職した人は、結果として成長スピードも早くなる。加えて、そのやる気を維持するためには周りの人間関係や環境が重要なので、優秀な人と働くことを優先した転職ならば3年以内に行ってもキャリアに悪影響はあまりないでしょう」
つまり、「若手にも業務上のPDCAを回す機会が豊富にある」、「やる気を継続できる環境や条件」が整っている企業を選ぶことが、社会人3年目以内の転職でも成功、成長することができる要素のようである。
さらに、転職先の選定条件として高野氏はこう付け加える。
「この時期の転職先として、成長している産業・企業を選ぶことも大切でしょう。単純な理由として、仕事のPDCAを回すチャンスが巡ってきやすいからです。大手企業の若手社員がスタートアップやベンチャー企業に転職して、のちのち大きく花開くというケースが比較的多いのもそのためだと思われます。大手企業にいた時よりも自分の裁量が増えた、また苦労して入ったはずの大手企業から転職するという覚悟から、やる気が継続している人が多いのです」
このケースでは往々にして「転職直後の給与額」が落ちてしまうものだが、若いうちはそれ以上に「得られる経験」を重視して働く方がベターだという。長い目でビジネスパーソンとしての成長を考えれば、当然の話といえるだろう。
昨今はブラック企業問題などもあって、「新卒入社後すぐに転職する」ことへの見方は変わってきている。安易な転職は自身の今後に悪影響を及ぼすこともあると調査結果が示唆しているが、大切なのはポイントさえ押さえれば「石の上にも3年説」は関係ないということだ。
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調査概要 ■ 調査目的 :30代ビジネスパーソンの「初めての転職時期」について探る ■ 調査対象 :転職サイト『@type』会員から、30歳~39歳の会員を抽出 ■ 調査方法 :インターネットリサーチ ■ 調査時期 :2015年6月8日(月)~ 2015年6月22日(月) ■ 有効回答数 :230名
取材・文/大室倫子(編集部)
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