南 直哉(みなみ じきさい)1958年、長野県生まれ。禅僧。青森県恐山菩提寺院代(住職代理)、福井県霊泉寺住職。早稲田大学第一文学部卒業後、大手百貨店勤務を経て、1984年に曹洞宗で出家得度。同年から曹洞宗・永平寺で約20年の修行生活を送る。『禅僧が教える心がラクになる生き方』(アスコム)など、著書多数。
「直哉さん、僕もう営業辞めたいんですけど……」営業マンの“モヤモヤ”を、恐山の禅僧に相談してみた(1)
「希望してなかったのに営業に配属されて、もう辞めたい」、「売っている商品に自信が持てない」……。営業としても、ビジネスパーソンとしても、まだまだ自信が持てない若手は多いはず。上司や同僚には相談しにくい、営業type読者から寄せられた‟心のモヤモヤ”を、元会社員であり現在は恐山の禅僧として活躍する南直哉さんにぶつけてみた。日々さまざまな人の心を救ってきた直哉さんの一言が、若手営業マンの悩みの突破口となるかもしれない。
営業を辞めて花形の仕事がしたい、けど今の会社は辞められない
→自分の人生のテーマを決めてみましょう
【お悩み1】望んでいないのに営業配属になってしまいました。広報や企画など、花形の仕事がしたいですが、異動の可能性は薄いです。花形の仕事は経験者募集が多いので、転職も難しいですし、せっかく入った有名企業を辞めたら親や周りが悲しむと思って辞められません。このモヤモヤした気持ちをどこに向けたらいいでしょうか?(27歳/人材系)
ご本人はつらいかもしれませんが、この場合は冷静に考えて、取るべき道は二つに一つ。有名企業というブランドにこだわるか、やりたい仕事にこだわるかです。ブランドにこだわるなら、この会社で頑張りながら、希望の部署への異動を待つだけですし、仕事にこだわるなら、広報や企画の仕事を探して、地道に転職活動に励むしかありません。
でもあなたの場合、相談とは言いながら、もう答えは出ているのではないでしょうか。自ら「転職も難しい」「せっかく入った有名企業」などと言っているくらいですから、どうやら会社を辞めるつもりはなさそうです。そうであれば、まずは頑張って営業成績を上げるしかない。皆に認められる存在になって、発言力が高まれば、希望の仕事にも近づけるでしょう。少しクールダウンして、コーヒーでも飲みながらしばらく考えてみれば、答えは明らかです。
しかし、もしトップセールスになって周囲から高く評価されたとしたら、異動したいなどと思わなくなるでしょう。人間の最大の欲望は、「人から認められること」です。営業で評価されたら広報も企画もどうでもよくなってしまうはず。今、あなたは「認められる」という欲望が満たされていないから、自分にはもっと見合った仕事があるのではないかと悩んでしまうのでしょう。
そういう方は、自分の「人生のテーマ」を決めてみるといいでしょう。テーマとは、ただ自分がやりたいことではなく、自分自身が「やるべき」と確信できることです。自分がやるべきことに向かっていくこと、それが人生なのだとお伝えしたいと思います。あなたの「今が嫌だから」という逃げの理由では、転職にしても、異動にしても、うまくいくはずがありません。
一方で、「今のままでは、どの道を選んでもきっと後悔する」、それでもいいと考えることもできます。あなたにぜひ覚えておいてほしいのは、性急に結論を出す必要はないということ。若いうちは、考え方のレンジが小さく、スパンも短いので、多くの大事な条件を見落としてしまいがちです。それならば、とりあえず結論を保留して流れに乗り、現状をきちんと見極めてから判断する方がよいでしょう。もっともっと悩んでたくさん後悔すればいい。その中から学べることもあるはずです。
自社の商品に自信が持てなくて心苦しい
→「やりたい」ではなく「やるべき」ことができれば、自分の力が最大限発揮できる
【お悩み2】業界3番手の商品を扱っている営業職です。正直、最大手の商品が一番良いと思っていますが、仕事なので何とかお客さまを説得して、買ってもらっています。何だかお客さまを騙しているようで心苦しいです(25歳/メーカー)
これは、なかなか深刻な悩みだと思います。2つ、ある事例をお話しましょう。
知り合いから聞いた話ですが、あるフリーランスの営業マンがいました。極めて高い営業スキルを持ち、どんな商材でも売りさばいてしまうのです。その結果、一財産作って仕事は辞めてしまいました。
そこでどうしたかというと、彼はアタッシュケースに営業で稼いだ金を詰め込んでギャンブルに行き始めたのです。別にギャンブルが好きなわけではなく、「今日は30万円稼ぐぞ」と目標を決め、目標達成したらその日の賭けは直ちに止めてしまいます。十分な元手はあるし、ギャンブラーのようにのめり込まないので、必ず勝てる賭け方ができるのだそうです。でも正直言って、これでは何が楽しいのか分かりませんよね。知り合いいわく、彼自身も特別幸せそうにはみえなかった、そうです。
結局彼は、仕事とギャンブルで十分過ぎるほどの金を儲けて、それはそれで結構でしょう。しかし、テクニックを駆使して金を儲けるだけでは、最終的な自分の生き方を納得できなかったのかもしれません。つまり、生きる「誇り」は持てなかったのでしょう。
もう一人、自分が大好きな自動車を作っているメーカーで、営業を担当している方がいます。彼は全ての車種とはいかなくても、自分が乗って惚れ込んだ車については際立った営業成績を上げています。
驚くのは、お客さまの話を聞いて「それならば、この車の方が良いですよ」と他社製品を勧めることもあるというのです。ところがその誠実な姿勢がお客さまに信頼されて、「いいよ、あなたから買いたいから」と言われるのだそう。
彼はきっと「売りたい」車ではなく、この人なら「乗るべき」と思える車を売っていたのでしょう。人間は「やりたい」ことではなく「やるべき」こと、自分自身の「価値」に合ったことを行うときこそ、自分にプライドを持ち、最も力を発揮することができるのです。
あなたの悩みは、まさに価値に関わる問題です。「売るべき」ものが他にあると知っている。「お客さまを騙しているようで心苦しい」とまで感じている。とても誠実で、「良い仕事がしたい」と思うタイプの方なのでしょう。
ただし、これも打つ手は2つだけです。一つは、「売るべき」ものを売ることができる会社に転職する。もう一つは、商品開発の人間を説得する。つまり、自分がプライドを懸けて売れるものを会社に作ってもらうのです。丁寧に自分でデータを集めて、繰り返して提案していけば、いつか誰かの目に留まるはずです。
もちろん転職するのも、社内を説得するのも、簡単に成功するとは限りませんが、価値の問題は、その人の生き方に関わるとても大切なものです。すぐに結論が出せなくても、目をそらさず、しっかりと向き合ってほしいと思います。
取材・文/瀬戸友子 写真/大室倫子(編集部)
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