キャリア Vol.482

オリラジ中田敦彦が語る、下積み仕事不要論 。“言いなり営業マン”は「あえて先輩にケンカを売れ」

下積み期間って本当に必要?
“スゲー男女”に学ぶ20代の鍛え方
「起業する前に、会社員経験を積んだ方がいい」。「大きな仕事をする前に、まずは現場に出て小さな仕事からコツコツと」――。何か事を成すためには「下積み」経験を持つことが大切だと言われている。しかし、世の中の働き方やビジネスの仕組みが大きく転換している今でも、そういった期間を過ごすことは大事なのだろうか? 各界で偉業を成し遂げてきた“スゲー男女”たちに、20代のうちに経験すべきことを聞いた

自らを「下積みゼロのOJT芸人」と称するオリエンタルラジオの中田敦彦さん。デビュー直後に大ブレイクを果たし一度は失速するものの、独自路線の活動を続けてキャリアの幅を広げてきた。伝統的なお笑い界の常識をものともせず、「下積み不要論」を唱える中田さんに、若手が20代のうちに経験すべきことを聞いた。

オリエンタルラジオ 中田敦彦

オリエンタルラジオ 中田敦彦

1982年生まれ。慶應義塾大学在学中に藤森慎吾とオリエンタルラジオを結成し、2004年にNSC(吉本総合芸能学院)へ入学。同年、リズムネタ『武勇伝』でブレイク。16年には音楽ユニットRADIO FISHによる楽曲『PERFECT HUMAN』が大ヒット。コメンテーターや執筆活動など、多岐にわたり活躍中。近著に『天才の証明』(日経BP社)

「見てるだけ」より「やってみる」経験の方が100倍大事だ

「僕ら、下積み時代がないんですよね。だから、自分たちはOJT芸人だと思っています」

師匠と弟子のような徒弟制や先輩・後輩という上下関係がいまだに色濃く残るお笑いの世界で、オリエンタルラジオは異色の道を歩んできた。

デビューしてまもなく『武勇伝』の斬新なリズム芸で一気に大ブレイクし、わずか3年で冠番組を持つまでに至る。ところが、その勢いは衰えるのも速かった。やがて全ての冠番組が終了し、低迷する中でも試行錯誤を重ねて、新しいチャレンジを続けてきた。相方の藤森慎吾さんが「チャラ男」キャラとして復活すると、中田さんはコメンテーター、著書の執筆など幅広い分野で活躍。また、オリエンタルラジオと並行して、ダンス・音楽ユニットRADIO FISHを結成し、2016年には『PERFECT HUMAN』が大ヒット。年末にはNHK紅白歌合戦出場も果たした。

その歩みは、まさに「OJT芸人」と呼ぶにふさわしいものだ。これまで、実践の中でトライ&エラーを繰り返しながら、自分が輝ける場所を探し続けてきた。

「経験は必要だと思うんです。3カ月修行しただけの人と10年も修行した人とでは、当然、明らかな差が付きますから。でも、だから下積みをしなければいけないというわけではないでしょう。本当に下積みが必要か、一度疑ってみた方がいいと思いますよ」

中田敦彦

最近、下積みについてしみじみと考える出来事があった。中田さんの知人が働くある制作会社では、新人ADには編集作業を任せないらしい。ところが、だからといって早く帰れるわけでもないという。編集室で雑用をこなしながら、先輩の編集作業をひたすら見ていないといけない慣習があるそうだ。

「一方で、同じくらいの年齢なのに、若手のYouTuberたちは、自分で企画を考えて、自分で編集して、何百万、何千万円を稼いでいたりする。見ていることしかできない新人ADと、毎日ガンガン動画をアップしているトップYouTuberと、1年でどれだけ差がついてしまうのか。業界も違うし一概には比べられないけれど、少なくとも編集技術に関しては間違いなくYouTuberが勝つのではないでしょうか」

その例えは、先輩との同行営業を隣で見ているだけの新人と、一人で現場に出向き失敗を重ねている若手の違いにも近しいだろう。どちらの成長スピードが早いかは歴然。まずは“現場でやってみる”経験が、見ているだけの仕事の何倍も大切なのだ。

業界の常識なんてクソくらえ。先輩の言いなりになるより、自分が信じる道を進め

どの業界にも、しきたりやしがらみが存在する。伝統的な世界ほど、「ぞうきん掛け」や「カバン持ち」が当たり前のように求められる。それは確かに、業界内での人脈や信頼を築くのには役立つ経験ではある。

「問題は、それで腕を磨けるのかということ。腕を磨くためには実戦で経験を積むことが何より大切なのに、下積み期間だからと甘えていると実戦の機会が減ってしまう。でもそれでは意味がないでしょう」

だから中田さんは「下積み不要」だと主張してきた。だがもちろん、周囲の抵抗も大きい。これまでの価値観を否定するのは、業界の先輩たちを敵に回すようなものだからだ。

「でも、若いうちこそあえて先輩とケンカしてみるのもいい。戦ってみて鍛えられることもあると思うし、攻撃を仕掛けるにもここまでなら許されるんだ、これを過ぎると本当にやばいんだと、体で学ぶことができます。アクセルを踏みに踏んで、ギリギリのところで生きて帰ってくるという経験を繰り返すことも大事だと思います」

中田敦彦

従来の常識にとらわれていては、革新的なことを成し遂げることはできない。自らの体験からそう痛感している。下積みなしでいきなり『武勇伝』でブレイクしたとき、業界内では「単なる宴会芸」「面白くない」などと揶揄された。低迷期には「やはりきちんとした芸に取り組まなければ」と考え、それから10年間、地道に漫才に勤しんでいた。

「ところが調べてみると、真面目に作った漫才のネタよりも、僕らがふざけている姿の方が圧倒的にウケているんです。その頃、お笑い界で『こんなのは芸ではない』と言われたリズム芸が、後輩である8.6秒バズーカの『ラッスンゴレライ』で再びブームを巻き起こしていた。ああ、自分たちの強みは漫才ではないんだ、とようやく確信できました」

「きちんとした芸」の呪縛から解き放たれたことで、RADIO FISHの発想も生まれてきた。既存の枠を超える現在の活躍はそこから始まったのだ。

自分の頭で考えて選び取る道が、成功への道になる

「何の実利もない下積みは要らない」と主張してきた中田さんだが、最近は少し心境の変化もあるという。

「これまでは飲み会一つとっても、漫然と時間を費やすのはもったいない、せっかく人が集まるなら、仕事に繋がる種まきをするなど有意義な時間にしたいと考えていました」と語る通り、中田さんは自他共に認める合理的な性格。

ところが最近は、何の実利がなくても、人と一緒に楽しい時間を過ごすことの大切さを感じるようになった。人付き合いでは、直接会ってこそ得られる情報も多い。いろいろな人を食事や飲みに誘い、目的のないコミュニケーションを楽しんでいる。

中田敦彦

できるだけムダを省いて、ゴールまでの最短距離を進みたいタイプのビジネスパーソンは多いが、“時間をかけて醸成される仕事”というものも確実に存在するようだ。

「これまで派手なことばかり打ち上げてきたので、逆に今は地道に人間関係を構築するようなことが大事なのかな、と。僕の場合、まずは上に上にと積み上げてきて、今になって下積みを始めているのかもしれません。結局、成功への最短ルートはないということですね」

だからこそ、若手時代は、今自分がやりたいことをやるべきだという。自分で納得して選んだ道であれば、仮に失敗しても一つの経験として前向きに受け止められるし、若手時代ならいくらでもやり直せるものだ。しかし他人に強いられたことは、失敗したら誰かのせいにしたくなる。そこには後悔しか残らない。

中田敦彦

「しきたりだから、人に言われたからといって無条件に下積みを受け入れるのが一番良くない。もし本当に下積みが大事だと思っていて、それを自分の言葉で説明できるのなら、下積みを選ぶべきでしょう。自分で考えて、必要だと思うことを自分で選び取っていく。自分が納得できる未来に進んでいくためにはそれしかないと思います」

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「既存のルールに縛られるな 新しい視野と思考を手に入れろ」
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取材・文/瀬戸友子 撮影/赤松洋太

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